キヨスクで林檎は買えるのか ― 西岡研介『マングローブ』

新宿

マングローブ テロリストに乗っ取られたJR東日本の真実

著者:西岡研介
(2007年/講談社)


スイカやエキナカで業績好調のJR東日本の内情を告発する。
JR東労組には過激派の革マル派がマングローブの根のように浸透し、
同社の経営の中枢を左右するまで成長してしまった、と。
いうまでもなく鉄道会社は、
わたしたちの日常生活の安全に直接かかわる公共性の高い企業であり、
この暴露本の内容は心胆をさむからしめるに十分だ。
東労組組合員のイジメは相当にあくどい。
対立する組合の運転手をいびるため運転席のうしろの窓にはりつき、
乗客の目のまえで「ヘタクソ」と怒鳴りあげる。
挙句のはてには、対向電車からのパッシング攻撃や信号隠しまで。
こんなのに巻きこまれて事故にあうのはまっぴらご免だ。
だがしかし、末端の連中の騒ぎなどささやかなもの。
どうやらJR東日本は根元から腐っている。


この問題には、中曽根内閣時代の政治状況がかかわっている。
中曽根は「国鉄分割民営化」を改革目標のひとつとしてかかげたが、
それは国鉄の巨額債務を解消すること以上に、
日本最大の労組である国鉄労働組合(国労)をつぶすことに目的があった。
要するに、旧社会党の支持基盤の総評を解体したかったのだ。
そして敵の敵は味方というわけで、国労の力をそぐために、
革マル派の幹部とみなされていた松崎明と手をむすぶ。
以前は国鉄当局とはげしく対立していた松崎だが、
組織温存のため方針を急転換し、分割民営化路線に追従。
政府・与党と松崎は手と手をたずさえ、
「目的のためには手段をえらばず」という禁断の果実を口にする。
当然、「転向者」となった松崎の組織は対立セクトの中核派から攻撃され、
七人が死亡、女をふくむ七人が重傷。

(略)それだけに松下氏[引用者注:松崎の懐刀]を失ったときの
松崎の悲しみは大きく、訃報を聞いて松下氏の自宅に駆けつけた松崎は、
人目も憚らず、それこそ獣のように、慟哭していました。
あんな彼の姿を見たのは後にも先にもあのときだけでした」
(JR東日本高崎支社関係者)


しかし愛弟子の葬儀で松崎は奇妙な弔辞をよむ。
すでに犯行声明をだしている中核派について言及することなく、
影の権力を呪うあやしげな陰謀論をとなえたという。
そこで中核派の名をだせば、
自分たちがいまだに革マル派であると認めることになる。
だから口をつぐむ。
仲間が殺されたときでさえ。
そうやって権力という麻薬は人の精神をむしばんでゆく。


松崎は自分の息子に「さつき企画」という会社をまかせ、
組合員四万九千人相手の「商売」で私腹をこやした。
その金でハワイや沖縄などに何軒も別荘をたて、
「元革命家」とはおもえない富豪のような生活をしているらしい。
もはや民間企業となったJRなのだから、
組合の問題は自力で解決しなければならない。
しかし、革マル派を利用してまでJR発足後の「労使協調」をすすめた、
松田昌士などの経営者はテロリストの跳梁をはばめなかった。
なにせ相手は反政府活動に従事する過激派だ。
鉄道屋をゆするなど、赤子の手をひねるのと同じかもしれない。
盗聴が得意な革マル派だから、金や女の醜聞でおどしたりもしただろう。
1994年に『週刊文春』が「JR革マル派問題」をとりあげたとき、JR東日本は、
子会社のキヨスクでの販売を拒否するという行動にでる。
同誌のキヨスクでのあつかいは約十一万部におよび、
文藝春秋は強硬手段に音をあげて「お詫び」記事を掲載する。
鉄道会社を「民営化」したら「極左暴力集団」に屈従したという皮肉に、
地獄のカール・マルクスも苦笑いをうかべていることだろう。


みなさんも金と女にはくれぐれも注意しましょう。
JR東日本初代監査役の柴田義憲は、警察庁警備局長をつとめ、
「公安捜査の神様」とまでいわれた人物。
労組から過激派を排除することを期待されてJR東日本に就職したはずが、
著者によるとミイラとりがミイラになってしまったらしい。
革マル派の盗聴による不都合な会話の録音があったといわれ、
それが原因なのか、柴田は不自然なまでに革マル派をかばうようになる。
警察首脳部に対し「松崎の転向は本物だ」、
「JR東日本に治安上の懸念はない」と繰りかえし発言し、
公安捜査の混乱をまねいた。
そして部下を次々にひきつれて、JR東日本は警察OBの格好の天下り先となる。
さすがにこれはヒドすぎる。
保守政治も共産主義革命も公安警察も、その理念は経年劣化し、
個人の欲望と組織防衛だけがうごめくカルト集団と化す。
あまりにも醜悪で非現実的ですらある告発だが、
JR東日本からの有効な反論がないかぎり、
本書に書かれている大部分は事実だとみとめざるをえない。


マングローブ―テロリストに乗っ取られたJR東日本の真実マングローブ―テロリストに乗っ取られたJR東日本の真実
(2007/06/19)
西岡 研介

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