市役所が日本文化を防衛した ― 『パソコンは日本語をどう変えたか』

美文字

パソコンは日本語をどう変えたか 日本語処理の技術史

編者:YOMIURI PC編集部
(2008年/講談社ブルーバックス)


コンピューターによる日本語処理技術の発展を追った本。
書名は日本語の変化との因果関係を分析したと受けとれるし、
「言葉への影響を追う」と背表紙にも書いてあるが、
残念ながら看板に偽りありだ。
それには言語学や文学研究の専門家による調査が必要だが、
まあ要するに、「PCは日本語をほとんどかえなかった」が事実だろう。
それでも興味ぶかい話はおおく、言葉についてかんがえさせられた。


戦争にやぶれて傷ついた日本人は反省猿モードにはいり、
過去のあらゆるものを否定した。
日本語もその標的のひとつで、えらい人たちは大マジメに
「漢字があるから日本語は世界に通用しない」
「コンピューターであつかえないような文字はダメ」
などと気炎をあげた。
そういう見苦しい戦後のドサクサにまぎれておこなわれた、
文部省による「国語改革」に比べたらかわいいものだが、
計算機屋もわが国の文化をその毒牙にかけようとする。
1970年代後半、メインフレームむけの日本語処理システムの開発がはじまり、
日本IBMと富士通が先陣をあらそった。
しかしコンピューター市場の中心だった日本IBMの「4300」シリーズは、
カタカナのみで漢字をあつかうことができない。
低級な文化の低級な文字ですから、
最先端のマシンにのせる必要などないのです。
コンピューターを手にいれる代わりに、
日本人が漢字をすてる未来もありえたのではないか。


発表されてからしばらくは買い手がつかなかった、
漢字をあつかえる富士通の「JEF」を導入したのは、
ベッドタウンとして人口が急増していたころの大宮市だった。
プリンターもふくめて、漢字の入出力ができるシステムを構築するには、
大体一億三千万円ほどかかったらしい。
しかし戸籍や住民票には、いまではつかわれない漢字が沢山のこっている。
役所は漢字を固有名詞として大量にあつかわねばならないので、
民間より行政のほうが漢字に対する意識がつよいのだ。
また、文部省が日本語を破壊した一方で、
住民の生活にじかに接する地方自治体が、
日本の歴史・文化をまもることに資産をついやす実情がなんともおもしろい。
アメリカでは表計算ソフトがPCの普及をあとおししたといわれるが、
日本は複雑な漢字をより簡単にうつくしく使いこなすことのできる、
「一太郎」などのワープロソフトがその役をになったというのが定説だ。
そこから単純に結論をみちびくなら、アメリカ人は金勘定が大すきで、
日本人はうつくしい言葉をおもんじているということになる。
市役所の職員ではないわたしたちも、
その信条に恥じないよう精進したいものだ。


パソコンは日本語をどう変えたか (ブルーバックス 1610)パソコンは日本語をどう変えたか (ブルーバックス 1610)
(2008/08/21)
YOMIURI PC 編集部

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