ケンカは相手をえらべ ― 『明日への遺言』をみて

マックイーン

明日への遺言
出演者:藤田まこと ロバート・レッサー フレッド・マックィーン
監督:小泉堯史
(2008年/日本/110分)
[早稲田松竹で鑑賞]

これは世界で一番退屈な法廷映画ではないかな。
単調な審理が延々とつづいたので、心配していたとおり
オレのうしろにすわっているオッサンが大イビキをかきはじめた。
すぐに足をバシバシたたいて起こしましたよ。
主人公である陸軍中将・岡田資をかっこよくえがきすぎているため、
ハラハラドキドキの展開にならないのだ。
検察側においつめられて有罪が確定するとおもわれたそのとき、
突如法廷にあらわれた証人の一言で大逆転!
そんな劇的な場面はすこしもなく、
すべて岡田中将のねらいどおりに裁判がすすんでゆく。

岡田資は昭和二十年、東海軍管区司令官をつとめていたとき、
名古屋空襲をおこなった米軍のB-29爆撃機搭乗員をみずからの命令で処刑。
米軍から捕虜虐待罪をとわれて、横浜で軍事裁判にかけられた。
岡田は米軍による無差別爆撃こそが国際法違反であり、
搭乗員の処刑は「戦争犯罪人」に対する処罰にあたるため、
私的制裁のたぐいとはみなされないと主張した。
法律にうといので知ったかぶりでかんがえるのだが、
かれの申したては争点をひろげすぎている感があり、
罪状否認の戦術としてはよわいのではないか。
しかしかれの目的は処刑の責任を自分がすべてかぶり、
部下の罪をすこしでもかるくすることにあった。
結局岡田は昭和二十四年に絞首刑に処されるが、
かれのいう「法戦」はみごとな戦果をあげたことになる。
国が降伏したあとも、法廷において生命を賭して
たたかいぬく粘りづよさに感服せざるをえない。
米軍の法務官はさぞや手こずったことだろう。

監督の小泉堯史は黒澤組の出身で、なにかと黒澤明からの影響をいわれるし、
インタビューなどでもそれをかくそうとしない。
よくつくりこまれた法廷のセットをみると、後期の黒澤作品を連想させられる。
裏方の人間の魂がこもっているようなセットにたてば、
役者の顔つきも自然にひきしまってくるからおもしろい。
藤田まことの気合のはいった名演もさることながら、
米国人俳優からもよい演技をひきだせていた。
藤田まことの歌がうますぎてシロウトにきこえないのはご愛嬌というところか。
小泉が黒澤の助手になったのは1970年というから『どですかでん』のころ。
日米合作で太平洋戦争をえがく『トラ・トラ・トラ!』の制作途中で降板させられ、
自殺未遂をおこしたあとの作品だ。
だから本作は、黒澤の弟子による敵討ちなのだ。
撃ちてしやまむ、鬼畜米英。
映画屋の情熱も、軍人にまけずおとらず雑草のようにしぶとい。

裁判長、異議あり!
本作では敵国アメリカの役者をやとっているわけだが、
スティーブ・マックイーンの息子を名のる
フレッド・マックィーンの出自が本国でうたがわれているらしい。
端正で彫りのふかい顔だちはスティーブそっくりで、
上映中はオレもすっかりだまされていたよ。
すでにIMDbからは父親に関する記述が削除されているとか。
そりゃあないよ。
マックイーン氏のプロフィールがウソだとするなら、
それを宣伝文句につかったアスミック・エースはとんだ赤っ恥だ。
この映画のインタビューを読むと父親の話をはぐらかそうとしているのは
あきらかで、これはおそらくクロだろう。
四十六歳になって俳優転向なんていう経歴がそもそもあやしい。
でも顔が似ているからって息子を名のるなんて…アメリカ人おそるべし。
というわけで、戦争でも映画でもこの国を相手にケンカすると
ロクなことにならないとおもいしりました。
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苑田 謙

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