リメンバー・ニュータイプ ― 『スカイ・クロラ』をみて

空

スカイ・クロラ The Sky Crawlers
出演:加瀬亮 菊地凛子 谷原章介
監督:押井守
(2008年/日本/121分)

またまたまたおかっぱ頭のヒロイン!
パッツンだかパックマンだか知らないが、いい年した女が前髪をだらだらのばすのはやめてくれ
そんなに河童になりたいのかな
パッツン前髪が男ウケがわるいのは、ちょっとでも顔の表面積をせばめようとする涙ぐましい努力を見透かされてしまうからだ
女にうまれた以上、自前の顔をまるまるさらして批評を待つべき
そして本作の女主人公は声もひどい
演じたのは菊地凛子なのだが、泥水のようににごった声は聞くにたえない
調子っぱずれでリズムはガタガタ、演技というよりはただのノイズだ
「アカデミー賞のノミニーをつかえば箔がつく」と勘ちがいしたプロデューサーが押しつけたのかとおもっていたが、実は監督の押井自身がアフレコ開始の三週間まえに独断できめたらしい
この耳ざわりな騒音が作品の緊張感をたかめていると好意的に解釈…できないか
映画を快適に鑑賞するためには、菊池の声を脳内で田中敦子に変換しながらみる必要があり、非常につかれる121分でした

実写の役者が中心となり、わかい伊藤ちひろに脚本をまかせるなど、押井は三十年の経験のなかでつちかった演出手法を大胆にあらためたことがわかる
空戦場面は圧倒的ななまなましさのCGをもちい、地上での人間ドラマは伝統的なアニメの体裁で丁寧にえがく
登場人物はずんぐりむっくりとしていて、アニメ的なデフォルメを感じる
そして先端的なCGと正統派のアニメが溶けあっているのがすばらしい
形容にこまるほどうつくしい青空をながめるだけでも、劇場に足をはこぶ価値はあった
前作の『イノセンス』よりすぐれた作品であるのはあきらかだ
『イノセンス』では邪魔くさく感じたオルゴールも、存在感のある小道具として効いていた
だれかがネジをまいておけば永遠に音楽をならしつづける、ニセモノの楽器
「マガイモノとしての風景」、「反復する日常」という、作家個人がかかえている主題はさらにふかめられたようだ

作品世界のなかでは、永遠に歳をとらない「キルドレ」とよばれる子どもが戦闘機を操縦する
「キルドレ」の具体的な実情はあきらかにされないが、これは要するに『機動戦士ガンダム』における「ニュータイプ」だろう
おとながはじめた戦争を、子どもがたたかうという不合理な世界
二十一世紀にガンダムの主旋律のリフレインが鳴りひびいている
このアムロ・レイ的主題に、レシプロ戦闘機に乗ってはかなく散った特別攻撃隊の若者たちの霊をなぐさめる意味があると、映画館のなかでふと気がついた
陰惨な目的のために若者を組織し、不毛な死へとむかって駆りたてたおとなたち、政府高官、軍の高級幕僚に対する怒りもある
レシプロエンジンのうなり声が、日本のアニメにおける古典的主題の眼目がどこにあるかをあきらかにした
もちろん現代に神風特攻隊は存在しないが、国そのものがかわったわけではない
たとえば若者を食いつぶす経済システムにはその名残りがある
あの悲観的な『新世紀エヴァンゲリオン』の「チルドレン」も同様の題材だといえるが、『スカイ・クロラ』にはより前向きな活力があるとおもう
それは反復するマガイモノじみた映像の奔流のなかで、かすかに息づいている

おっとっと
話が力みすぎたかな
つよい作家性をもつと評価される押井だが、その作品は原作つきばかりでなにがこの人の信条なのかは明瞭ではない
地味な創作である『アヴァロン』ですら、『ウィザードリィ』というゲームの下敷きがある
だから押井が、特攻隊的主題が書かれた小説をなぜ映画化したのか決めつけるのは危険だ
単に「レシプロ戦闘機の映画がつくりたかった」だけなのかもしれないから、この作家を深読みしていると『ウィザードリィ』のような迷宮にはまりこんでしまう
ニセモノの軍隊、ニセモノの戦争、ニセモノの兵士、ニセモノの恋愛…
『スカイ・クロラ』は、かろやかな映像の魔術に翻弄される傑作だ
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苑田 謙

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