マイケル・ベイにあかんべい ― 「ホット・ファズ」をみて

ホット・ファズ 俺たちスーパーポリスメン!
Hot Fuzz
出演:サイモン・ペグ ニック・フロスト ジム・ブロードベント
監督:エドガー・ライト
(2007年/イギリス/121分)
[新宿ジョイシネマで鑑賞]
めずらしく買った映画のプログラムをみていたら、「劇場公開をもとめる2312名の熱き署名をうけ、ついに日本緊急公開決定!!」などと書いてあるのにびっくりした
ネットで署名(?)をあつめて二千人ってすくねえな!
配給会社ってのはその程度の反響で公開をきめるのかよ
うさんくさすぎるぞ
インターネットで口コミをひろめるバイラルマーケティングとかいう戦略でしょうか、この手の宣伝文句には眉につばをつけてきかなくてはなりません
プログラムの中ほどに、町山智浩によるエドガー・ライト監督への「直撃インタビュー」がのっている
どうみても「インタビュー」ではなくて「対談」だが
ごていねいに町山先生とライトがならんでいる写真までかざっている
「インタビュー」はこんなやりとりからはじまる
(ライト) あれ?イカすTシャツきてんじゃん!
(町山) これ?ジョージ・ロメロにインタビューしたときにもらった「ランド・オブ・ザ・デッド」のTシャツだよ
エドガー・ライトはロメロにオマージュをささげた「ショーン・オブ・ザ・デッド」(未見)の監督で、「映画秘宝」あたりでは神格化されているらしい
そんな偉大な監督との対等な関係をみせつけてじぶんの価値をたかめたいという意図がみえみえでげんなりしてしまう
町山さん、観客はあなたが身にまとっているボロ布になんてまったく興味はないのですよ
それとも「映画秘宝」の読者は、貧相な売文屋の御尊顔をおがむとしあわせになれるのだろうか?
映画批評の世界にはくわしくないが、B級映画をむやみにありがたがる町山/映画秘宝的な鑑賞作法が90年代後半の一世を風靡したのはおぼえている
クエンティン・タランティーノの「パルプ・フィクション」(1994年)のヒットがきっかけだった
いまではすたれているはずだが、町田などの残党はいまだに業界をウロウロしている
こいつらは作品のなかでサム・ペキンパーの引用があれば、それだけで「映画ファン必見の大傑作」とみなす
だからなに?と反論すれば映画愛がたりないといわれるから要注意だ
大学の英文学の先生ににてるね
「ユリシーズ」はギリシャ神話をモチーフにしていてうんぬん
「ロリータ」のこの部分はエドガー・アラン・ポーの「アナベル・リー」が下じきになっていてうんぬん
英文学の授業にでたことはありませんが、そこで「だからなんなんですか?引用があれば小説がおもしろくなるんですか?」と質問したら、教授は単位をくれそうにありませんね
こういう連中がのさばりはじめると、かれらが寄生するジャンルはつまらなくなるといえます
「ホット・ファズ」じたいはなかなかおもしろいコメディ映画だった
そもそもイギリスのコメディにはずれはあまりない
首都警察のエリート警官が、左遷されたさきのサンドフォードという村で事件にまきこまれるという話で、おおまかにいって三部構成になっている
Ⅰ あかぬけない村人をネタにしたコメディ
Ⅱ 連続殺人事件をおうサスペンススリラー
Ⅲ ドンパチ
第一部が圧倒的におもしろく、おわりにちかづくにつれて凡庸になってゆく
ジム・ブロードベント、ティモシー・ダルトン、ビル・ナイなどの大物もよい演技をしていて、映画の基礎は安定している
そしてなんといっても、脚本の執筆もつとめる主役のサイモン・ペグがいい
赴任そうそう村中の軽犯罪(未成年の飲酒とか)をとりしまる頑固一徹ぶりが爆笑をさそう
警察署もくせのある人物ばかりで、飲酒運転の男を逮捕したらじつは署長の息子で警官だった、とか脚本にひねりがきいている
なんでも監督の出身地でロケをおこなったらしく、田舎の風俗を撃つどす黒いわらいは本物だ
しかしサスペンスの部分は唐突な残酷描写がおおいし、最後のアクションもとってつけた印象はぬぐえない
まあそれなりに犯人さがしもたのしめるのだけど
サイモン・ペグの相棒(署長の息子)は警察映画マニアで、とくにウィル・スミス主演、マイケル・ベイ監督の「バッドボーイズ2」がだいすき
町山先生はそこに不審をいだいたらしい
(町山) でもふつう70年代のアクション映画がすきなひとは80年代以降のバカげたアクションはきらいだよね。「バッドボーイズ2」なんて無意味な大破壊が三時間も延々とつづく金の無駄つかいじゃない?
(ライト) そこがいいんだよ!あんなバカバカしいことにものすごい金と労力をかけてることにぼくは感動した!
ほかにも町田周辺の人間がいみきらっていそうなトニー・スコットやマイケル・マンなどの影響もうけているらしい
このあたりに1974年うまれのエドガー・ライトの本質があるようだ
「コメディ→サスペンス→アクション」とつなぐ(もしくはつながらない)やぶから棒の場面展開をペグは「ブラッカイマーの法則」とよんでいる
または「ポップコーンロジック」と
おおげさなだけで中身がからっぽなジェリー・ブラッカイマーやマイケル・ベイのしごとを揶揄しつつ、じぶんたちもそんなクールな映画をつくりたいという願望があったらしい
莫大な予算やカメラうつりのよい顔の役者がいなくても、理屈ぬきでポップコーン片手にたのしめる作品ができることを、たしかに34歳の監督は証明した
これはかなり革新的な発明だし、すくなくとも過去の映画の引用よりよほど興味ぶかい
まあ、地味なコメディの部分がいちばんおもしろいのは皮肉ではあるけれど
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