限定フィギュアがつくったヨーロッパ ― ル・ゴフ「中世とは何か」

ゴスロリ

中世とは何か
A LA RECHERCHE DU MOYEN AGE
ジャック・ル・ゴフ 著/福田健二・菅沼潤 訳/2005年/藤原書店

「中世っていったいなんだろう?」という問いが、ここ数週間のおれのなかでうずまいていた
くさくさした日常生活のあれこれに倦怠ぎみなのだ
そしてアーサー王伝説やワーグナーみたいにロマンティックな世界にひかれる
まあオペラなどみにいったことはありませんが
ハリーなんちゃらとかロードなんちゃらとかいう作品のあとも、ファンタジーの物語が大量生産されているのは、現代の世界からにげだしたいという需要が世界中に存在するってことだろう
日本でもDQやFFとか、退屈なRPGがあいかわらず支持されてるしね
政治・文化的にカトリック教会の支配が圧倒的な時代ではあるが、マクドナルドとコカコーラの文明に毒された目からみれば、そんな暗い側面も魅力的だったりする

本書では、ヨーロッパ中世史の第一人者であるル・ゴフがインタビュー形式でこの時代を概括する
よい本だった記憶があったので再読したが、ある意味がっかりした
この地上に理想郷など存在しないのだ

ル・ゴフは歴史を連続したながれととらえ、中世における近代的なものを積極的にひろいあつめる
とくに商人・銀行家の役割に注目する
聖書では利子をとって金をかすこと(=時間をうる行為)を禁じている
「時間」は神にのみ属しているからだ
しかし商人たちの地位が上昇するにつれ、かれらの商行為も有用な「労働」としてみとめられる
また、「学問」も神に属するものとみなされていたため、教師という職業もみとめられなかった
これも都市が発達するにつれ、文法・公証学・法律などをおしえる独自の学校がうまれ、司祭ではないひとびとがその役をつとめた
しかしこれでは中世文明と、われわれのディズニー/スターウォーズ文明はなにもかわらない
どうやら中世の秘密は死者の肉体にあるらしい

中世の都市は、聖遺物崇敬を拠点として形成される
聖遺物とは、聖人・聖女の肉体のなごりのこと
イエスがはりつけになったときに手足にうちつけられた(といわれる)釘とか、えらい聖人の指の骨とかそうたぐいのもの
そして一般の死者も守護聖人にちかいところに葬られなければならないため、教会のそばに墓地がつくられ、そのまわりに村ができていく
教会の内部、都市の内部に死者をとりこみながら、中世文明は都市化していった
しかし14世紀以降、ヨーロッパ人の感性は怪奇趣味をよろこぶようになり、死後の世界、地獄にたいする恐怖心がしだいにうすれていく
なにごとも行きすぎはいけませんね
もちろん聖遺物には偽物もおおかったわけだが、それによせる民衆のおもいは本物だ
レアな限定版フィギュアにとりつかれた宗教オタクのネットワークが「ヨーロッパ」をつくりあげた
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テーマ : 歴史
ジャンル : 学問・文化・芸術

あわ雪をとかして ― Perfume「Twinkle Snow Powdery Snow」

snow

Twinkle Snow Powdery Snow
Perfume
作詞・作曲:中田ヤスタカ/3分50秒/アルバム「GAME」収録

TSPSは一年半まえの曲だが、ふるくはきこえない
でもこの曲をきいているとちょっとほろにがい気分になる
もうかえってはこない冬の夜のおもいで

正反対の要素をはやいBPMにあわせ猛烈にシェイクしてさしだす
Perfume/ystkがもっとも得意としたレシピでつくられたカクテルだ

まずは【上と下】
ハウス系の音楽の反復につきうごかされ、気分は高揚する
その一方で雪は街路にふりしきる

【光と闇】
空の明かり まぶしい光 宝石箱みたい ちりばめた twinkle snow
雪の結晶は銀色にきらめくが
ラララララ 雪のふる夜は キミのはにかんだ 顔をみつめて いろいろおもうよ
背景はしんしんとしずまる冬の夜空

【熱気と冷気】
あの日のおもいで もうはなさないで やっとちぢめられた きみとの距離は
恋の予感に胸はあつくなり
まだもとどおり じゃないしスローリー こころの氷 とかせたらいいね
また寒空の下で孤独をかみしめる

【動と静】
2分40秒
はげしいダンスがぴたりととまり、一瞬の沈黙
「まだもとどおり じゃないしスローリー」
かしゆかのスローリーな滑舌ににやりとする

左右の両極をめまぐるしく行き来する反復横とび
なんといっても、はやい曲ではパンク少女・のっちがノリノリになるのがたのしい
「まだもとどおり」のところでの腰つきにどきどき
全盛期の椎名林檎にもまけない破壊力
でも「GAME」ではTSPSのような、おもちゃ箱をひっくりかえしたみたいに、ystkごのみのとんがった音を雑然とちりばめた曲はほかにはない
すみずみまで計算しながらつくられた、おとなのポップス
それはそれでいいけれど、パンクなPerfume/ystkはもうみられないのかな

男女にかかわらず日本人はわかいアイドルがすきだ
未熟さゆえに応援していたのに、ふと気づいたらみちがえるほど成長してたりして
そんなはかなさにひかれるのだろうか
いつか裏ぎられることをしりながら
かじかんだ手のうえに舞いおりたひとひらの雪片
手のひらでそれをとかしながら、すぎさってゆく季節をおしむ



2007年1月、モーターショーでのミニイベント
異様にせまいステージを横からとった映像で、文明堂のCMなみにそろったダンスに目をみはる
こんなクソ仕事でも手をぬかないのがPerfume
そしてパンクのっちの足もとに注目していただきたい
ステップをふむたびにのっちキックをいれながらビートをきざむ
いたずらな腰まわりもふくめて、優等生のパフォーマンスではない
おれは感傷的になりすぎていたかもしれない
つねにガチンコ勝負のパンクアイドルは、林檎に追いつくまで疾走をやめることはないだろう
……だまされてるかな?
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テーマ : Perfume
ジャンル : 音楽

荒野の法務部員 ― 「フィクサー」をみて

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フィクサー
Michael Clayton
(2007年/120分/アメリカ・イギリス)
出演:ジョージ・クルーニー トム・ウィルキンソン ティルダ・スウィントン
監督:トニー・ギルロイ

ジョージ・クルーニーの代表作ってなんだろう?
大物風をふかせているわりには、これといった作品はおもいうかばない
本作は地味でかれの代表作にはならないだろうが、最高傑作にあげられてもおかしくはない
主人公はニューヨーク最大の法律事務所につとめる弁護士
法律家といっても法廷にたつことはなく、クライアントの不祥事をもみ消すというよごれ仕事が専門
う~ん、企業社会の闇にいきる男…おいしい役だ
法律映画もいろいろあるがめずらしい題材にちがいない
しかもギャンブル癖があり、サイドビジネスの失敗で多額の借金をかかえているという設定
老後の資金をかかえて人生に満足したエリートでは、観客が感情移入できないという配慮だろうか
ちょっと安易な気もするけれど
有能だけど、みたされていない一匹狼の物語
現代的なひねりをくわえつつもハリウッド映画の王道であります

事務所があつかっている30億ドル相当の農薬会社の集団訴訟に関して事件がおこる
担当の弁護士がクライアントを突如うらぎり、良心にもとづいて企業犯罪を告発しようとする
主人公はこの問題を闇にほうむるという任務をあたえられるが、事態をおもくみた農薬会社の法務担当者は極端な手段にでる…といったところがあらすじだ
キャスティングにこまったらシェイクスピアの国に電話しろということで、良心にめざめた弁護士にトム・ウィルキンソン、農薬会社の法務部本部長にティルダ・スウィントン様と、イギリス人を起用
両者とも重厚かつリアルな演技で、作品にふかみをくわえている
そしてめでたくティルダ・スウィントン様がオスカーを獲得

ああティルダ様
逆三角形の頭蓋骨や歯ならびのわるさもふくめて、この世のものとおもえないほどうつくしい
大企業の管理職という役にあわせ、おもしろ味のない髪型、ださいスーツ、地味なアクセサリー
高級品(のように見えるもの)をそろえつつおばさんくさくみせている
最後のシーンでの白いストッキングが印象的だった
凡百の女優ならおこって衣装をかえさせるところだが、偉大なミューズはださい服でもかがやく
よろよろとくずれおちるティルダ様をながめながらおれは昇天するのだった
ただし率直にいうと、かの女が人を殺めるまで追いつめられたのは理解できない
絶対にありえないとはいわないが、30億ドルだって個人で負担するわけではないしね
アカデミー会員たちも、あのヘブンリーな美貌にまどわされたのではないだろうか
ティルダ様ならありだと
そもそも農薬会社の訴訟なんて新聞記事にするにしても地味な題材だ
でもかの女が演じるとギリシャ悲劇なみのなまなましい説得力が

参考資料:ティルダ様のゴシップ記事
年上の男とのあいだにふたりの子供がいて、年下の恋人がいるらしいが結婚経験はなく、みんなでいっしょに生活したり旅をしたりしているらしい
ぼくにはよく理解できないボヘミアンな世界ですが、ティルダ様ならありです

プロデューサーもつとめるシドニー・ポラックの演技ももちろんすばらしい
飄々として清濁あわせのむかんじの法律事務所経営者で、こんなボスの下ではたらいてみたいとおもわせる芝居ぶり
この秀作のボトムをしっかりとささえている

監督は「ボーン」シリーズなどの脚本でしられるトニー・ギルロイ
これが初監督作で、いかにも脚本家あがりっぽい凝ったシチュエーションの場面展開がつづく
とはいえ、ラストの盛りあがりには気迫がみなぎっていた
拳銃を法律書類にもちかえたガンマンが最後の決闘にのぞむといった流れのシークエンス
組織と自分の地位をまもるために悪をなしたティルダ様のあわれな運命がきわだっていた
これだけのカタルシスをえられるラストシーンはひさしぶりだ

作品におおいに満足したので600円でプログラムをかった
よみかえすことはまずないが、まあお布施のようなものとかんがえている
何人かの書き手が映画について文章をつづるといういつもの形式
作品のテーマ、役者について、映画史上の位置づけ、専門家(本作では弁護士)による感想とか
いつよんでも駄文ばかり、というかおもしろくないのでまともによみもしない
ところが今回は自称映画評論家・細越麟太郎氏の文章にびっくりした
文法的に日本語といえない、みているだけで目がくさりそうなトンチンカンな印象文
金をはらって買うものにこんな意味不明の文字列を印刷するくらいなら、写真だけのせてくれ
だれもよまないからって手をぬいてもばれないとおもってるのか!
編集を担当した株式会社東宝ステラに怒りを禁じえない
またこんなゴミをうりつけたら集団訴訟をおこしてやるぞ

[新宿武蔵野館で鑑賞]
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テーマ : 映画感想
ジャンル : 映画

雨、泥仕合、最低の逢い引き、そして風邪薬

犬

J1 第8節 東京V-名古屋 味の素スタジアム
結果:2-0 (0-0 2-0)
得点者:ディエゴ(54分) 河野広貴(72分)
[現地で観戦]

尊敬するストイコビッチの理想が具体化されたシンプルでうつくしいサッカーにほれこみ、おれはいそいそと飛田給にでかけた
あまかった
きまぐれなサッカーの女神は、最初のデートでキスをゆるしたりはしない
それどころかつめたい態度にうちのめされ、雨にぬれそぼりながらすごすごと帰宅した

おもえばきょうの午前中からわるい予感はあった
ぶあつい雲はさらに黒い影をたくわえてゆき
4月下旬だというのに、お気にいりのブルゾンだけでは肌ざむい空気
レインコートは用意したが、なにか体の底のほうにみょうな悪寒をかんじた
新宿で京王線にのりかえる
おれはこの路線がきらいだ
いつも混んでいてすわれないだけでなく、接続が複雑なせいか車両もホームもどこかゆとりがない

準急で飛田給に到着(Jリーグ開催時は臨時停車)
駅からスタジアムまでの空気がゆるい
首位・名古屋はお客さま気分で首都にのりこんできたのではないか?
試合会場へむかう観客たちの顔に殺気はまったくうかんでいない
スタジアム周辺の粒子がプチプチとあわだっていくのを肌でかんじるのが、生でサッカーをみることの醍醐味なのに残念だ
入り口でペットボトルのキャップを回収され、席につく
やはり雨がふってきた
ウェザーニュースは夜からだといっていたのだが…

試合開始
名古屋はベストメンバーで、東京は大砲のフッキが出場停止
しかしあきらかに東京のほうが出足がはやい
「これは苦戦するぞ」とおもったが、名古屋はそのままのながれで試合にはいっていく
10分くらいして雨足がつよまり、雨具をもたない客が上の席に避難しはじめた
雲ゆきの変化とともに名古屋のいきおいもすこしもちなおした

柱谷哲二は明確なコンセプトをもって第8節にのぞんだ
前節はセンターフォワードに船越を起用したが、きょうはベンチに
最前線は右から、レアンドロ、ディエゴ、飯尾一慶
機動力を重視した人選だ
この三人に作戦上の最大の任務を課した
それは名古屋のDFにただひたすらプレッシャーをかけること
中盤に良質なパスをださせず、相手のラインをおしさげ、サイドバックをあがらせない
もしあがられても両ウイングはその尻をおいかけ、自由にさせない
じつに野暮ったい守備戦術だが、わかい名古屋の守備陣にたいしては有効だった
ボールをもったときのかれらは狼狽して横パスを連発し、攻撃時のフォローはおそく、サイドチェンジが必要なときも相手ウイングがとなりにいるためもらうことすらできない
自慢のサイド攻撃は沈黙した
後半に2失点し、おれのとなりにいた男の子は74分に「おわった…」とつぶやいた

シンプルな攻撃が売りの名古屋だが、東京Vの兵法はさらに素朴で、それゆえに力づよかった
王者のような顔をして敵地にのりこんだのはいいが、かれらが上まわっているのは勝ち点だけであり、それだけで相手を威圧できるはずもない
選手・監督には原点にもどるよう反省をうながしたい

そしておれは風邪薬をのんではやくねることにしよう
夢のなかでなら、うつり気な女神もほほえんでくれるかもしれないし
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テーマ : Jリーグ
ジャンル : スポーツ

サッカーという拷問 ― 「実況席のサッカー論」をよんで

拷問

実況席のサッカー論
山本浩 倉敷保雄 著/2007年/出版芸術社

サッカー実況の第一人者であるふたりによる対談
山本浩(NHK)の方が八歳年長だが、それ以上に格のちがいがあるのか倉敷保雄が聞き手にまわり、日本におけるサッカー放送の歴史を山本がかたるインタビューといった風情
それでも二人ともしゃべりの専門家なのでたのしくよめる
本書をよめばサッカー観戦のスキルが一段あがることは保証しよう

もしあたらしいガールフレンドができたとする
サッカーに興味がないかの女をスタジアムにさそいたい
「でも、サッカーってぜんぜん点がはいらないよね?」
「…」
試合終了
サッカーは退屈なスポーツ
それはみとめざるをえないが、ぼくたちはそれにどう耐えていけばよいのだろう

サッカーという種目の特殊性について、山本はこうかたる
サッカーの試合は流動的でフレームがない
ボールが選手からすぐにはなれてしまうので、選手の資料を用意してもよむひまがない
山本はセットプレーのときでも実況席でモニターをみることはないらしい
たとえば中村俊輔がフリーキックをけるとき、カメラはキッカーをおさえにかかる
しかしアナウンサーである山本は中村ではなく、ボールがおちる地点だけをみる
キーパーの重心のうごきを観察し、攻守のかけひきをとらえながら次の展開にそなえる
サッカーをみるたのしみとは、さきの展開を予測しつづける90分間の緊張をうけいれること

ファンならしっていることだが、サッカーには絶望的につまらないゲームというやつがある
どちらかのチームが勝負をあきらめてしまう場合だ
両チームが引きわけをねらって攻撃をすててしまうこともある
全体の心理的アンサンブルが肝心な競技なので、そこで個人が奮闘してもむなしいだけ
そんな試合は担当するアナウンサーとっては悲劇だが、山本は選手個人の技術や特徴をつたえるモードにきりかえてのりきる
「総合テレビと教育テレビを行ったり来たりする感じですね」という倉敷のたとえがおもしろい
民放のアナウンサーは試合のムードに関係なく無理にもりあげようとして、かえってその「商品」の魅力をそこなう
いっぽう公平をおもんじるNHKは、スポーツを「出来ごと」としてとらえる傾向がつよいため、結果としてよい番組がうまれやすいようだ
ゲームをうごかすのは選手なのだから、みている人間がこころをみだしたところでなにもかわらない
「出来ごと」をありのままにとらえる集中力をたもつことが肝要だ

ワールドカップの裏話もある
ドイツ大会で各国代表チームにあたえられたIDカードは50枚
そのうち23枚が選手のもので、のこりの27枚がスタッフ用
ドイツ代表はそのかぎられた枚数を、選手の精神面をささえる聖職者にさいた
プロテスタントとカトリックでひとりずつで、ほかに心理カウンセラーも帯同
そして日本は貴重なカードを、看板をチェックするのが役目の広告代理店の人間にわたした
けっきょくわれらが電通代表は同大会で3連敗を喫することになる
看板はしっかりとテレビにうつったはずだから、かれらはおおいに満足したのだろうが

関連項目:中田英寿とジーコが日本代表をこわした
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テーマ : サッカー
ジャンル : スポーツ

ループする一秒間 ― Perfume「GAME」

マッハ

GAME
Perfume
作詞・作曲:中田ヤスタカ/5分6秒/アルバム「GAME」収録曲
[今回はアルバムタイトル曲の話です]

スピーカーを破壊しそうな重低音、焦燥感をかきたてるギターのリフ
ロック的な攻撃性をかんじさせるという点でエレクトロワールドを連想する
Perfume/ystkにとっては典型的な楽曲に分類できる
ただ「GAME」はこれまで以上に贅肉をそぎおとし、ナイフのようにするどく音が耳につきささる
アルバムのなかではいちばんすきな曲だ

恋のかけひきを「ゲーム」にたとえ、打算的な女の子の心情をクールにえがきだす
メロディはシンプルだが聞きやすく、ダンスミュージックとポップスが高度に融合している
もちろん、いまのPerfume/ystkならその程度の壁は簡単にこえられる
そしてそこは一筋縄ではいかないystk、やはりこの曲にも罠をしかけている
それは曲がおわる90秒前の一瞬

2度目のサビのあと、音数がじょじょにへって曲のおわりを予感させる
最後はベース音のみ

【ブー…】

―沈黙―

【吸気音】

「play the GAME…」

沈黙と吸気音は時間にして約1秒だが、そこに曲のすべてがある

かの女たちは息をすいこみ、つぎの瞬間の急襲を脳裏にえがく
酸素が脳をかけめぐり、意識はたちどころに覚醒する
とぎすまされる感覚
野獣のような知性と獰猛さ
闇に身をひそめ心臓の鼓動をおさえ
獲物を照準にとらえたままそっと欲望の引き金をひく

ブレスで性的な含意をあらわす手は、ystkは鈴木亜美との「FREE FREE」でもつかっている
ただハアハアやりすぎると下品になるし、マラソン選手みたいに聞こえなくもない
「GAME」のブレスは、その一瞬にすべての物語をこめる
そしてたぶんPerfumeの全楽曲のなかでもっとも生の身体をかんじさせる曲になった
ライブではどんな振りつけで観客のこころを餌食にするのだろう

GAMEGAME
(2008/04/16)
Perfume

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テーマ : Perfume
ジャンル : 音楽

一流の男とは? ― ドラガン・ストイコビッチにまなぶ

ストイコ

サッカーマガジン5月6日号をよみながら、コーチのあるべき姿についてかんがえた

現在名古屋をひきいるストイコビッチのサッカーは、アーセン・ベンゲルの影響をよく指摘される
小倉隆史は、ピクシーがつれてきたボスコ・ジュロブスキーという参謀に注目している
ピクシーの持論は「最大の攻撃はディフェンス」で、組織的な守備を構築するトレーニングはジュロブスキーが中心に指導しているらしい
ベンゲルも名古屋時代からボロ・プリモラツというコーチを重用していて、対戦相手の分析・攻略はかれに一任しているとか
マガジン3月MVPを獲得した小川佳純のインタビューが3ページ
大学出の選手らしく、発言は優等生的であまりおもしろくない
現在六連勝中だが、開幕前に自分たちのサッカーに自信をもっていたのは監督だけだったとか
いまは「まける気がまったくしないんです」とたのもしいことをいっている
一流の男はよけいなことをいわない
有能な部下には最大限の自由をあたえて仕事をまかせる
みずからのゆるがない背中をみせて、経験のすくない若者に自信をうえつける
しかし7節の千葉戦では、高さのあるバヤリッツァと吉田からなる守備をくずされた
最終ラインが横一線にならんだところを、グラウンダーのクロスをマイナスにいれられて、フリーになった巻と伊藤にきめられ2失点
次節の東京V戦は生で観戦予定なので、どう修正してくるのか自分の目でたしかめたい

ドログバのコラムでは「監督のいないチーム」というものが存在することがわかる
チェルシーのロッカールームでは、去年の9月にモウリーニョがロシアの石油王によって野良犬のようにおいだされたとき、だれもが今シーズンはもうおわったとかんがえた
しかし逆境のなかで選手たちは団結をつよめ、プレミアシップとチャンピオンズリーグ両方のタイトルをねらうまでに復調
ドログバの発言をしんじるなら、いまのチェルシーでコーチの役割はほとんど無きにひとしい
グラント監督は選手たちと会話することもなく、試合前ですら戦術や技術面の指示をしないらしい
まさに崩壊寸前という感じだが、これでもチームは機能するのだからおもしろい

小見幸隆のインタビューもたのしくよめた
読売クラブ黄金時代の話はいつ聞いてもよいものだ
選手とクラブは一年契約をむすび、チーム内ではげしく競争しながら、部活動とサラリーマンによるぬるい日本サッカーをひっかきまわした
ヨミウリの選手たちは長髪で一見ちゃらちゃらしていても、「オレたちが日本サッカーをかえてやる」という執念をもっていた
そんな熱い不良集団は当時の日本代表よりつよいといわれ、実際に85年のキリンカップでは戸塚のゴールにより1-0で勝利
Jリーグが成功したのも、そんなヨミウリのかっこよさがあってこそなのだ
いまではヨミウリの名もうしない、サラリーマン的サッカーのなかに埋没しているが…

けっきょくのところ一流のコーチの条件は、おれにはわからない
あえていうなら、かっこよさ、美意識が大事なんではないかと

ストイコ2


いったいなんなんだこのかっこよさは
完璧なスーツの着こなし…ネクタイの趣味もしぶいし…
英語がペラペラなのも謎だ…英語圏で生活した経験はないはずだが…
いつ身につけたんだろう?
10万ボルトをたくわえるピカチュウのように、親指のさきまで自信がみなぎっている
まさに絵になる男だ
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テーマ : サッカー
ジャンル : スポーツ

小文字のツンデレーション ― Perfume「Puppy love」

ツンデレーション

(このイラストは拾いものです)

Puppy love
Perfume
作詞・作曲:中田ヤスタカ/4分27秒/アルバム「GAME」収録曲

…か、かんちがいしないでよね!べつにツンデレがすきで記事書いてるんじゃないんだからね!

最先端の音楽生成プログラムであるystk(通称・中田ヤスタカ)は、こういう音楽はきらいなんだとおもっていた
ギター・ベース・ドラム中心のロックバンド的な構成、シンプルなメロディ、いなかの中学生でも共感できそうな歌詞
体育会系のさわやかさなんだよね
服、美容、デザイン、クラブDJ、ネオ渋谷系、フューチャーポップ、インテリアポップ、近未来テクノポップといった、かずかずのインチキくさいおしゃれなキーワードでかたられてきたystk
上っ面だけこぎれいなギョーカイ人くささもふくめて、この音楽ソフトウェアの魅力だったのに

絶対的な信頼と 対照的な行動
絶望的な運命が ある日恋にかわる
一方的な表現の ツンデレーション
キミが すき わかりにくいね


「○○的」なんてかたい単語が四つもサビにでてくるところがおもしろい
しかも「絶」が二回!頭韻をふむにしてもやりすぎ!
「絶望的な運命が ある日恋にかわる」のところがなんともせつない
「うんめいが~」のところで声をはりあげて、のっちボイスがユニゾンの雲のなかから一瞬顔をだす
ロック少女化しつつあるのっちのパンク魂は、前のめりでビートにノってくるのだ
ここ以外はあ~ちゃんばかりが目立つけど…・゚・(つД`)・゚・
Puppy loveってのは幼な恋という意味らしい
マンガやアニメでよくある幼なじみどうしの関係をモチーフにしているのか
プログラムにバグでも生じたのか、ずいぶんベタなテーマをえらんだな~
まあそこがいいんだけど
千葉の高校生だったころ、死ぬほどすきだった女の子にラブレター(笑)をわたしたときをおもいだす
三十男をあまずっぱい気分にさせてどうすんだといいたい
石川県出身の28歳(という設定)のystkさんよ

さらによく聞くと、この曲のかくされた秘密がみえてくる
人前でつめたい態度をとる彼氏について、女の子の視点でうたう曲なんだと最初はおもっていた
でも歌詞をみると、性別を特定できる表現はない
二人称は「キミ」、一人称はなし、ことばづかいは女の子っぽいけれど男でもおかしくない
Perfumeは「ボク」という一人称でうたう曲もおおいしね
Puppy loveは男女どちらの立場からでも感情移入できるユニークな曲だ
ふつうは女子目線できくとおもうけれど、じつはその根拠はない
ystkはいつの間にかバージョンアップして、こんなにミステリアスな歌詞をかけるように
そもそもとなりの家の女の子と恋仲になるとかありえないし!
ていうかおれの実家のとなりは空き地だったし!
ベタなんだけど、どこか抽象的なファンタジーでもあるラブソングが胸をしめつける

タイトルの表記も気になるところ
ystkの英語タイトルの大文字・小文字のつかい方に規則性はない
たぶん字面をみて直感でえらんでるんだろう
とくに小文字の“i”がすきで、capsuleには「REALiTy」なんてリアリティ皆無の曲名もある
「Baby cruising Love」は【大-小-大】
なんてったって「Love」はだいじだからね!
というわけで「Puppy love」が小文字の「love」であることには意味がある
現代社会では「愛」が大安売り
恋愛、家族愛、人類愛、国家愛、企業愛、地域愛、チーム愛、動物愛、飯島愛…
まさに愛のインフレーションですね
もうしわけございませんお客さま、この曲の「love」はそれらとはちがう棚に陳列しております
それは石川県や千葉県の高校生が胸に秘めていたあの「love」
もちろん現在進行形でそんな「love」のまっ只中のひともいるでしょうね
いろいろ大変だろうけど、やっぱりちょっとうらやましいな
ああせつない!

GAMEGAME
(2008/04/16)
Perfume

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ジャンル : 音楽

おいた詐欺師の肖像 ― コリン・マッケイブ「ゴダール伝」

ゴダール伝
コリン・マッケイブ 著/堀潤之 訳/みすず書房

1930年うまれのゴダールにとっては、深作欣二やクリント・イーストウッドが同級生にあたる
ゴキブリのようににしぶとそうな連中だ
深作は「あそこがたたなくなる」という理由で抗癌剤の投与をこばみながらしんでしまったけれど
かれらは1945年に15歳という人格形成期を経験している
おおきな戦争が国をきずつけ、旧式の権威が音をたててくずれていくのをながめながら成人した人間ならではの世界観、というものがあるのかもしれない
まあゴダール家のぼっちゃんはりっぱに兵役のがれをしていたりするけれど

わかいころのゴダールは泥棒だった
家族などの金や物をぬすんで何度も警察につかまり、22歳のときチューリヒの刑務所にいれられた
まあ異常人であることはまちがいない
大学にいられなくなったゴダールは映画批評家になり、そしてついに1959年の「勝手にしやがれ」で長編映画デビュー
かれの作品は従来の映画文法にとらわれず、通常の三分の一のコストでつくられた
ゴダールが映画撮影の技術に通暁している証拠でもあるし、かれが予算を着服しているという疑惑をいまだにもたれている原因のひとつでもある
実際に映画予算を私的に流用していたのかどうか、残念ながら本書では断定していない
くわしい方ぜひおしえてください

フランスも革命の季節をむかえ、ゴダールの詐欺も規模がおおきくなる
「十月革命から50年後の今日、アメリカ映画が世界中の映画を支配しており云々」
自分たちフランスの映画作家のかんじている抑圧を、戦火にみまわれるベトナム戦争になぞらえるのがお得意の論法
ベトナム人にしてみれば宣伝につかわれてるだけでなんの利益もなく、まったくいい面の皮だ
そしてゴダールはアルチュセールを介して毛沢東主義者となった
このアルチュセールさんは、自分の妻を絞殺したことで有名な哲学者です
かつての盟友トリュフォーは、そんなゴダールから距離をおいた
「プロレタリアの機動隊と、革命に夢中の金もちの子供のどちらかをえらぶなら、ぼくは警察につく」
トリュフォーのせりふはかっこいいが、そういう常識人だから作家として小物だともいえる
しかし旧友の忠告はやはり正解で、ゴダールも革命映画で何年も食っていけるわけもなかった
そして引退まぢかのサッカー選手のように、アラビア半島がかれをうけいれた
パレスチナ解放のための映画をとるとかなんとか
現地の演説を映画にまとめようとするが、アラビア語がまったくわからないため断念

革命ごっこで若者をだませた時代はおわり、ゴダールはこれまで以上にブルジョワ趣味まるだしで、地味で客のはいらない映画の専門家となった
しかし、ゲームはまだおわらない
かれは過去の映画をメチャクチャにきりはりしたビデオ作品「映画史」で新境地をひらく
これは著作権法にたいする重大な違反行為の大パレードでもあった
もちろん著作権という概念にはおおくの弊害があるし、批評目的の「引用」はみとめられるべきでもあるから、かならずしもゴダールが罪をおかしているとはいえない
それはともかく、ゴダールとテレビ局の責任者とのやりとりがおもしろい
テレビ局側は、映画でつかわれるクリップの権利関係がクリアなのかどうか心配する
水ももらさぬ完璧な契約書を準備し、予算の40%をクリップにつかうことが明記された
このときゴダールの黒ぶち眼鏡がきらりとひかっただろう
かれは自分の所有しているクリップ以外はいっさいつかわないと宣言し、予算の40%をただちに前ばらいするように要求
作品の性格を逆手にとったみごとなペテンで、人様の金の四割をそのままポケットにいれるのだった

ここまで詐欺師としての生き様をまっとうできればぎゃくにいさぎよいとおもえる

関連項目:ねむれよい子よ ― 「彼女について私が知っている二、三の事柄」をみて
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テーマ : 映画
ジャンル : 映画

「みなみけ」と「それ町」をよんで

マンガをよみたい気分だったのでアマゾンの上位で気になる作品をかってみた
どちらもおもしろく、うれているのも納得だった
それだけでなく共通するなにか、この時代の空気みたいなものもさぐってみたい

「みなみけ」
桜場コハル/講談社


三人ぐらしの南家姉妹の日常生活をえがいたコメディ
どういう事情で親がいないのか、生活費はどこからでているのか、まったく説明はない
トールキンもはだしでにげだす純然たるファンタジーだ
描きこみのすくない白っぽい作風で、舞台も家庭や学校のなかがほとんど
トラブルメーカーの次女・カナ(こいつが最高)と秀才の三女・チアキのドツキ漫才を軸にすすむ
チアキは姉のことを「バカ野郎」とよぶのが口ぐせで、はじめは異様におもえるが、よみすすむうちにそれがだんだん快感になってくるのがたまらない
すっきりとした絵柄と、ありえない舞台設定と、所帯じみたホームドラマが融合してふしぎな空間をかたちづくっている
恋愛要素もあるけれどただのおままごとで、恋の雰囲気をスパイスとしてあじわうという塩梅だ

この作品の最大の魅力は、桜場の繊細な描線にある
たしかに描きこみはすくないし、登場人物はみなおなじような顔をしている
でもよくみると目つき顔つきが微細にちがって、わずかな表情の変化をながめるのがたのしい
三姉妹はみな髪がながいが、さらさらとゆれておもわずふれてみたくなる
衣服のしわの描きかたもていねいで、そういう細部へのこだわりにこそマンガの存在価値があるのだ
えてして漫画家はえらくなるとアシスタントに全部描かせて楽をして、作品をころしてしまうが…
しかし「みなみけ」は一回8ページのよみきりで、そのまれなる贅沢な悦楽を実現した

「それでも町は廻っている」
石黒正数/少年画報社


「それ町」は東京下町のいんちきメイド喫茶でバイトをしている女子高生が主役のコメディ
「みなみけ」とは対照的に、描きこみが必要以上におおい作品だ
ずいぶん絵の上手な作家だなとおもったら、大阪芸大卒らしい
作者は小原愼司の「菫画報」に影響されているらしく、ダークにねじれたサブカルっぽさはたしかにあの名作を連想させる
主人公・歩鳥は探偵にあこがれる高校生で、コメディのヒロインをはるにふさわしいトラブルメーカー
中性的なルックスで恋愛にはおくてなところもまさに王道

歩鳥がはたらく喫茶店の店主はメイド服をきた老婆のウキで、正直気色わるい
秋葉原あたりではやっているメイド喫茶を服だけまねしてみたらしい
これもありえない設定だなあ
ウキは歩鳥にとっての母親的存在で、喫茶店は擬似家族をえんじるままごとの舞台となる
また住民どうしが気軽に会話をかわす下町風景が上手に描かれているが、そのぶん歩鳥の実の親の存在感はうすい
ていうか顔すら描かれない
おれは東京下町をよくしらないのでこれがどこまでリアルな下町なのか判断できない
ちなみに千葉県千葉市の出身で、いまは東京23区の西側にすんでいる
でもよくかんがえてみれば秋葉原も下町の一部みたいなものだね
アキバも下町もおれにとっては同様に東京の謎であり、ファンタジーだ

デッサン力のたかい石黒だが、描線のうつくしさよりもコマごとの情報量のおおさに目をうばわれる
小道具もいちいちこまかく描かれていて、たとえば歩鳥がつけている時計はあきらかにBaby-Gだ
中性的なトラブルメーカーにBaby-Gはよくにあっていて、なんともかわいらしい

物語らしい物語はなく、舞台に現実味もないけれど、そんな作品の一コマ一コマに贅沢にもられた創意工夫をたのしむ
そんなままごと、遊戯、ゲームとしての「物語」がリアルにかんじられるのかもしれない

みなみけ 1 (1) (ヤングマガジンコミックス)みなみけ 1 (1) (ヤングマガジンコミックス)
(2004/11/05)
桜場 コハル

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それでも町は廻っている 1 (1) (ヤングキングコミックス)それでも町は廻っている 1 (1) (ヤングキングコミックス)
(2006/01/27)
石黒 正数

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ジャンル : アニメ・コミック

タグ: 百合 

いまの浦和でみるべきものといえば

J1 第7節 浦和-大宮 埼玉スタジアム2002
結果:0-0

…細貝萌の顔だろう
交代するときの苦みばしった表情にどきっとしてしまった
おれ男なのに…
かれは引退したら役者に転向すれば成功するにちがいない
「サッカー選手は顔がすべて」が持論のおれにとってはすばらしい選手
逆にいうと浦和は細貝の顔しかみるべきものがない
田中、梅崎、山田、坪井をベンチにおきながら、ピッチでは目をおおいたくなるのろまなサッカー
格下のはずの大宮からホームで一点もとれなかっただけでなく、ほとんどの時間で劣勢だった
首位あらそいに参加する資格のあるチームにはみえない

今季の大宮はよく組織されたたたかう集団だという噂をきいていたので、最高のかたちでダービーを制してくれるかと期待していたが、ちょっとくるしかったかな
内田や藤本などの怪我人がいるせいで駒不足なのか、最後の20分はパフォーマンスがおちた
しかしそれ以外の時間ではいいサッカーをしていた
攻撃がはじまるときチームにスイッチがはいるのが感じられ、シンプルにパスをつなげて浦和の両ウイングバックをおしこんだ
守備での連携もたくみで、赤いユニフォームの魚たちがかんたんに網にかかっていた
ピッチの中央に位置する小林慶行と斎藤雅人のうごきがよかったとおもう

相対するのは闘莉王と細貝
顔なら浦和のセンターハーフの勝ちなのだが
闘莉王も髪の生えぎわがさびしいだけでなかなかいい男だし
今日は欠場していた鈴木啓太もグッドルッキングガイ
しかし闘莉王の中盤起用は取ってつけた感がありありで、本人もうかぬ顔だ
ようするに細貝が男も萌えるような笑顔をみせるようになれば、浦和は復活するだろう
いい表情をみせるのが交代のときだけじゃどうにもならない
「細貝萌」っていうくらいだしね…って、ちゃんとオチがついたでしょうか

[テレビ観戦]
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テーマ : Jリーグ
ジャンル : スポーツ

松代直樹の綱わたり芸

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J1 第7節 鹿島-G大阪
結果:[0-0]

鹿島は新井場と内田の両サイドバック、大阪は播戸を欠いて、おたがいに攻撃の最後の一工夫がたりなかったとおもう
とくに大阪はトップにはいった山崎(69分からは佐々木)が機能せず、こわさをかんじなかった

両チームともブラジルスタイルの4-4-2で、サイドバックの攻撃参加がゲームの趨勢を左右する
実際にサイドバックを経験した人はわかるとおもうが、これはなかなかむずかしいポジションだ
目のまえに広大なスペースがあいていればつっぱしりたくなるが、ピッチを全速力で上下動するのはすごくつかれるし、自分が上がったあとにできる空き地を味方がうめてくれるという信頼感も必要
ようするにチームとして心理的な主導権をにぎらないとなかなか機能しない戦術といえる
現時点でのチーム力はほぼ互角だが、ホームアドバンテージにあとおしされてか前半は鹿島が優勢になった
いつものようにうしろから攻撃を支援するバランスがよく、なめらかなサイド攻撃をくりだしていた

よわり目にたたり目という感じで、大阪にアクシデントがおこる
32分、GKの藤ヶ谷が故障して松代と交代
おされている状況での出場は34歳のチームキャプテンにも困難だったろう
ところがしばらくすると、鹿島の攻撃の歯車がかみあわなくなった
雨がふっていたので、遠目から地をはうシュートをうてば大阪の守備はまちがいなく崩壊した
解説の木村和司も「ワシなら絶対うっちょる」といわんばかりでおかしかった
ピッチを突如ふきぬけた心理の乱気流は、鹿島にそんな定石をうつ機会をうばい、むずかしい時間をのりこえた大阪はその後リズムをとりもどした
綱をなんとかわたりきった松代は、後半開始直後にもすばらしいセーブをみせた
勝ち点1をもたらしたベテランの精勤ぶりをたたえたい

無得点でやや低調な試合だったが、実況の曽根優はうまく放送室の空気をコントロールしていた
頭のわるいアナウンサーは、点がはいらないとたいてい不機嫌な口調になり、テレビのまえのわれわれをさらにイライラさせる
まだわかいけれど、ことばのえらびかたが慎重でいいアナウンサーだとおもった

[テレビで観戦]
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テーマ : Jリーグ
ジャンル : スポーツ

たつ鳥あとをにごさず ― [ノーカントリー]をみて

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ノーカントリー
No Country for Old Men
(2007年 アメリカ)
出演者:トミー・リー・ジョーンズ ハビエル・バルデム ジョシュ・ブローリン
監督:ジョエル&イーサン・コーエン

[※このエントリは若干のネタばれをふくみます]

偶然にマフィアの金をひろった男と、それを追う非情な殺し屋の追跡劇
コーマック・マッカーシーの小説の映画化で、アカデミー賞を4部門受賞
コーエン兄弟ってのはアメリカ人からずいぶんと愛されてるね
プロの殺し屋の話なんて荒唐無稽におもえるけど
この兄弟の作品には、かの国のひとびとにうったえるなにかがあるらしい

原題は[年よりがすむべき土地はない]といったところか
[ノーカントリー]じゃ意味がさっぱりわかりませんが
タイトルに[年より]っていれたらわかい観客がこないという配慮ですかね
映画は保安官役のトミー・リー・ジョーンズの視点でかたられる
テーマをおおまかにまとめるなら、今日のアメリカはモラルがくずれ暴力がはびこり、むかし風の正義をしんじる自分たちの居場所はない…みたいな
おそらくコーエン兄弟自身の世界観はもっと楽天的なはずで、なんか語り口がうそくさい
トミー・リーの演技もいまいち
トミー・リー・ジョーンズがトミー・リー・ジョーンズを演じているようにみえる
テキサスやニューメキシコの荒涼とした風景にはっとさせられるが、観光地の宣伝写真と大差ない

大金をもって逃走するジョシュ・ブローリンがすばらしい
ベトナム戦争での従軍経験があり、溶接工をやめてトレーラーぐらしをしている男
趣味はライフルをつかっての狩りらしい
貧乏でも自分のことは自分でやるという一匹狼で、アメリカ人ごのみのキャラクターだ
キャスティングはかなり難航したらしいが、ブローリンはむずかしい役をうまくこなしている
マフィアの金をぬすめばどうなるかというリスクをわかったうえで、追跡者をまく努力をしていきのびようとする覚悟にしびれる
けっきょく自分の痕跡を完全にけすことはできずやられてしまうわけだが、そこにいたるまでの一対一の鬼ごっこのリアリティはなかなかのもの
おなじくリアル系殺し屋映画の傑作[コラテラル]にもまけていない

殺し屋役のハビエル・バルデムの怪演がうりの作品だが、わるい意味で漫画的な演技だった
銃で相手をおどしながらお説教するシーンが続出するが、そんなのはただの弱いものいじめであって、対話としておもしろいともおもえない
西部劇なら最後で保安官が悪を撃ちたおしてカタルシスをえる
しかし本作ではそれもなく、すかした終わりかたをする
腰くだけの現代映画では、たしかにNo Country for Sheriffsなのだ
善も悪もへったくれもない世のなかでは、人目にたたないよう身をかくし、おのれの痕跡をけしながら生きのびるチャンスをうかがうしかないということか

[新宿アカデミー劇場で鑑賞]
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テーマ : 映画感想
ジャンル : 映画

モノクロームの誘惑 ― Perfume [GAME]

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GAME
Perfume
2008年/徳間ジャパンコミュニケーションズ/56分

アキハバラブとかいってたやぼったいシンデレラが、今夜の舞踏会では一躍注目のまとに
時計の針がてっぺんをまわるころ

きみがわるいくらい絶賛されている作品なので、不満点からのべよう
ミックスがいつものystk音源とだいぶちがう
お得意のスピーカーがこわれそうな重低音、耳につきささるエフェクトの影がうすい
これじゃいまいちノれない
そして、のっちがいない
かしゆかもいない
特徴ある声質をもつふたりの歌声が引きぎみで、コーラスやトラックにとけこんでしまっている
ぜんぶあ~ちゃんの声にきこえる
これはのっち派としてはゆるしがたい
pinoみたいにあまくてマイルドで口あたりのいい、お子ちゃまむけの音になっちまった
録音・ミックス・マスターともにystkがクレジットされているのに
電池男もうれてひよってしまったのか?

のっちとかしゆかの声は、これまでPerfumeの楽曲の最大の武器だった
のっちのように濡れてつやのある声質は、男女とわず聞くものの脳に快感物質を分泌させる魔法
古今東西のあらゆるボーカル音楽にとって、ダイヤモンドより価値のある宝物だ
[街ゆく猫だって空をとんじゃう街で キミの存在さえ リアリティーがないんだよ]
エレクトロワールドはかしゆかの舌たらずなボイスでふわりとだだよう
そういう[色]をystkはあえてはぎとってしまった
Perfumeの三人ももうすぐ二十歳
交際のはばもひろがり、年相応の恋愛を経験し、さまざまな音楽にもふれてきたはず
そんなかの女たちにシンプルに等身大のじぶんを表現させるystk師匠
だから、歌唱のスキルがいちばんたかいあ~ちゃんの声がめだつのだろう
もうかの女たちは原色の衣装をきたアイドルではなく、ぼくたちのとなりにいてもおかしくない生身の女の子で、ベッドのまわりのあれこれを自然ににおわせるおとなになった
そういう親密さがこのアルバムにはある
12時をすぎたシンデレラはガラスのくつとドレスをぬいで
夜、あかりをけして、闇、モノクロームの夢

2曲目の[plastic smile]はいかにもPerfume/ystk的な曲名だ
ポリリズムにも[ああプラスチック みたいな恋だ]ってフレーズがあるよね
つぎの[GAME]は最高にクールで、またべつの機会にあらためてかたりたい曲
命令形で[Play the GAME!]とさけび、あたらしい時代のはじまりをどうどうと宣言する
10曲目の[Butterfly]はなにかににてるな
[あなたはアジアのパピヨン~]…あれだ!島谷ひとみもびっくり!
ystk先生もネタぎれなんでしょうか、パクリが露骨になってきました
11曲目はおれが偏愛する[Twinkle Snow Powdery Snow]
CD音源できけてうれしいなあ
つぎは最後の曲か…wonder2みたいなゆるい曲でしめるんだろうな

…あれ?ベースとギターがざくざくいってるぞ
しかもなんだこのベース?ふつうのベースじゃん
平凡なリズムの[Puppy love]はサビで疾走する

絶対的な信頼と 対照的な行動
絶望的な運命が ある日恋にかわる
一方的な表現の ツンデレーション
キミが すき わかりにくいね
puppy love


…べ、べつにツンデレなんてすきじゃないんだからね!
アジカンみたいなロック調のほんとうにすなおなラブソング
歌声が、伴奏が、メロディが、そよ風のようにやさしく耳をくすぐる
ystkはよくもわるくもこった曲づくりをする男だが、Puppy loveはまるで一筆でかいたみたい
シンプルだからこそ胸がかきむしられる、ぜったいにわすれられないような名曲だ

ダンスミュージックとポップスの融合なんていうテーマをあっさりと超越して、あたらしくてだれもがすきになってしまいそうな音楽がここにうまれた
広島弁の三人娘の加速はとまらない
それでもやっぱりのっちの声やystkベースがきこえないのはさびしいけど…

GAME(DVD付) 【初回限定盤】GAME(DVD付) 【初回限定盤】
(2008/04/16)
Perfume

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ねむれよい子よ ― 「彼女について私が知っている二、三の事柄」をみて

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かの女についてわたしがしっている二、三のこと
2 ou 3 choses que je sais d'elle
(1966年 フランス)
出演:マリナ・ヴラディ アニー・デュプレー ロジェ・モンソール
監督:ジャン=リュック・ゴダール

ゴダールがつくった映画をみるのはいつだってたのしい
きちがい道化師がつづる私小説のやりきれなさに、暗闇のなかでにやにやしながら悦にいる
おれは映画館のいすにうずまりながら缶コーヒーをちびちびのむのを無上のよろこびとしていて、かれの作品はそういう鑑賞スタイルにぴったりなのだ
コーヒーがのみおわると一気にねむくなるのは勘弁してほしいが
山崎邦正のような天然ボケのお笑い芸人にも芸風がにている
ゴダールなんかといっしょにされたら、スベリ芸の名人である山崎がおこるかもしれない
まあかれらが計算しているのか、たんなるバカなのかはだれにもわからない
たしかなのはバカにみえるということだけ

マリナ・ヴラディふんするヒロインは、夫には秘密で売春をつづける団地妻
その金で買い物をしたり、カフェで男をさがしたりと享楽的な生活をおくる
ゴダールは雑誌で報じられた実話をもとに、実験的な手法をもちいてパリ郊外の退廃をえぐりだす
…書いてるだけでわらえますね…団地妻の売春て(笑)
ゴダール先生さすがです
本作には、意表をつく編集のわざ、ノイズの挿入、雑多で難解なモノローグの洪水といった、のちのゴダールを特徴付ける手法がすでに出そろっている
「ヌーヴェルヴァーグ時代」の初期ゴダールと、「分断と再構築によるメタ映画」の中期以降のゴダールをつなぐ重要な作品なのだ!
政治に関心をつよめているまっ最中のゴダール先生のことですから、ベトナム戦争にかんする言明ももりだくさんで、はずかしさのあまりに闇のなかで顔も赤らみます
ヒュー・グラント主演のロマコメのほうがまだましです

この作品のあとの1967年、ゴダールは「中国女」をつくる
毛沢東主義をテーマとし、五月革命を先どりしたともいわれる作品
…毛沢東(笑)
いや、毛沢東ってあの毛沢東のことですよ
大躍進政策の失敗で何千万もの餓死者をだし、文化大革命で大量殺戮をおこない、チベット人などの少数民族を虐殺したことで世界的に有名な方です
―ゴダールは中国政府を積極的に支持したことはないからOK
―ゴダールは「政治の映画」をつくったのではなく、「映画の政治」をおこなっただけだからOK
あたまのいかれたゴダール信者はそんな失礼なことをいって先生を擁護しようとします
しかし、ぼくのだいすきなアンヌ・ヴィアゼムスキーと二人三脚で地雷をふんでこそ、ヨゴレ芸人たるゴダール先生の本領発揮といえるでしょう
バカには先生の芸のおくふかさがわからんのです
毛沢東は数億人の死に直接の責任がありますが、たのまれもしないのにヨーロッパでの毛の宣伝役を買ってでた先生にも0.1%程度の間接的責任があるでしょう
すくなめにみて数十万人をころしたことになりますかね

おそらく「二、三のこと」をつくった1966年にふみとどまるべきだったんでしょうね
五月革命は1968年、先生は革命前夜の空気にあたってすっかり頭に血がのぼってしまいます
でも先生は革命の当時38歳ですよね
そうとう未熟で世間知らずの映画バカわかわかしい感受性のもちぬしだったんですね

「二、三のこと」にはマリナ・ヴラディの娘役で金髪のかわいい女の子がでてきます
まだ三、四歳くらいでしょうか、映画のなかでギャーギャーなきわめくシーンが二回あります
ふつうにマジ泣きです(笑)
共演のおとなの役者にしてみたら悪夢ですが、先生はそんなアクシデントも作品にとりこみます
ていうか先生の芸風が赤ん坊にそっくりです
わがままで予測不能な行動、突然のなきわめき、不明瞭な言語コミュニケーション能力
まさにそのものです
先生が政治的発言の是非をとわれないのも当然です
乳幼児に責任能力はありませんからね
先生の映画をみてると、「おれはなんでこんな映画をみてるんだろう…はやくおわらないかな」と腕時計をみながらつぶやきたくなります
むずがってねむろうとしない赤ん坊をあやす母親のきもちににていますね

女優をきれいにかわいく知的にみせ、構図がかっちりきまったうつくしい風景をきりとり、弦楽器の旋律をたくみに配してふかい瞑想にさそい、ユーモアとニュアンスにとんだセリフをちりばめる
映画作家ならだれもがうらやむような、そんな先生のセンスはたぶん世界一です
悪気がないので、他人に迷惑をかけてもゆるされる人徳もおもちです
でも悪気がなさすぎなのもちょっとこまりものですね
先生が映画でいいたいことって、おっぱいのみたいとか、おしっこしちゃったとか、その程度のレベルじゃないですか
ちょっと失礼ないいかただったかもしれませんね
でもいいたいことがあるなら、観客にもわかるように作品ではっきり表現するべきでしょう
何年映画つくってるんですか?
そろそろ落とし前をつけないと、中国やソビエトの亡霊たちにいざなわれて、地獄の門をくぐることになりますよ

それでは、今夜も先生がやすらかなねむりにつけることをおいのりしております

[早稲田松竹にて鑑賞]
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テーマ : 映画感想
ジャンル : 映画

毛沢東よりわるいやつら

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本が好き、悪口言うのはもっと好き/高島俊男 著/文春文庫

高島俊男の本をとりあげるのも三回目だ
さいきん中国についてかんがえる機会がおおいからだろうか
まえにこの文集をよんだのは十年ちかくむかしだったはず
ほとんど内容をわすれていた
カフカが書いたような随筆の「つかまったのが何より証拠」、狩野享吉についてかたる「回や其の楽を改めず」なんかは、ずいぶん魅力的な文章であることにいまさらきづいた
おれのよむスキルもすこしは上達しているようだ

まえに、当ブログでもいわゆる中国/チャイナのことを「支那」と書きあらわしたが、それは本書の「『支那』はわるいことばだろうか」に影響されている
ひさしぶりによみかえしたが、この話題を文庫本43ページにあますことなくまとめる筆力に感嘆した

高島は「『支那』とは、日本人が中国/チャイナをさげすんでよぶときにつかう蔑称だ」という見方を、おおくの文献をあげながらたたきつぶす
「支那」という語の起源は1500年以上まえのインドで、日本には平安時代にはいり、19世紀にはひろくもちいられるようになった
むしろ「中国」がいまの意味でつかわれることはまったくなかった
支那は国号がコロコロとかわるため、それを通時的にあらわす民族文化圏の呼称が必要なのだ
隋や唐は中華人民共和国ではない
地理・民族・文化・政治的にまったくべつのものだ
ようするに「支那」ということばに差別的な意味あいはない

問題は「中国」ということば
「中央なるわが国」という意味の普通名詞であり、固有名詞として地域や人種につかうのはおかしい
いや、この語には価値判断がふくまれており、事情はもっとわるい
自国民がつかえば「おれさまの国」という意味になり
他国民がつかえば「あなたさまの国」になる
かの国を「中国」とよぶことは、わが国を下等であるとみとめるのとおなじこと
しかし、官庁・学校・マスコミはわれわれに「中国」をつかうよう強制し、故人の著作を復刊するときにさえ「支那」という語をかきあらためた
なんという不合理な暴力

どうやら犯人は霞ヶ関にいる
1945年、八年にわたった日中戦争は終了
戦勝国である中華民国は、日本国を占領する連合国の一員として代表団を日本に派遣
この代表団は日本政府にたいして、「支那」をやめて「中華民国」の国号を称するよう要求した
これをうけて日本政府は、外務省総務局長岡崎勝男の名をもって、各省次官あてに通牒をはっした
まあ理屈はぬきにして、とりあえず外交文書で「支那」の文字をつかうのはやめましょうね
先方もなんかおこってらっしゃるようですし
ところがマスコミは役所の予想をこえて無制限に範囲を拡大
偉大なる官僚さまがおっしゃるからには「支那」は最低のことばなんでしょう
だったら金輪際活字にいたしません!
そしてわが国の出版物から「支那」の文字はきえた

中国問題では左翼的・朝日新聞的な言説が批判されることがおおい
チベット問題をかたるブログをみていても、みな朝日がきらいなようだ
たかが一新聞になんであんなにむきになって牙をむくのだろう
ぎゃくにアメリカの暴力、たとえばイラク戦争の話題では左翼が元気になる
ばかばかしいとおもわない?
外国の問題なのに、右と左のあらそいにエネルギーをついやして
敗戦国の官僚たちは、おのれの保身のために植民地根性をフルに発揮した
アメリカ・ロシアだけでなく、中国も勝ち組であることをわれわれはわすれがちだ
韓国・北朝鮮もふくめてもいい
「支那」にかんする中華民国の要求は、外交戦略の観点からみて不当というほどでもない
勝ち組にたいしてしっぽをふりつづける霞ヶ関の犬たちのしつけに問題があるのだ
マスコミはそれを正当化する業務にしか能がないというだけ

政治的にニュートラルな人間がチベット問題についてかたるブログをみるとする
じぶんが購読する新聞への罵詈雑言にひいてしまうかもしれない
反日とか売国奴とか自虐史観とか
「この問題についてじぶんは発言するべきじゃないかも」とおもうかもしれない
たいくつな紅白歌合戦にはもうあきた
チンピラどうしの小競りあいを、千代田区あたりからニヤニヤながめてる連中がいるのだ
たとえばかの国をどうよぶかについても、上下左右じゃなくて、事実にそくしてかたることができる
チベット問題もイラク問題も議論の輪がもっとひろがることをおれはのぞむ

本が好き、悪口言うのはもっと好き (文春文庫)本が好き、悪口言うのはもっと好き (文春文庫)
(1998/03)
高島 俊男

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ジャンル : 政治・経済

最後の将軍をたたえて ― 丸谷才一「蝶々は誰からの手紙」

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蝶々は誰からの手紙
丸谷才一 著/マガジンハウス

Googleで「アナログ最後の砦」を検索するとなぜか辺境のわがブログが3位に
この言葉にだれも注目していないことにがっかりした
これはニューメキシコうまれのジェフ・ベゾス氏のはいたフレーズ(the last bastion of analog)
Amazon.comというろくでもない通販サイトの創設者としてしられる人物
まあおれも毎週のように利用してはいるが
去年の11月、新商品の電子書籍リーダーをおひろめするときに忘恩の弁をなしたのだった

「本」は500年前の発明で、これまでかたくなにデジタル化をこばんできた
しかしかれの新商品は、最新のテクノロジーをもちいて「本」を過去のものとし、「よむiPod」になると
さんざんグーテンベルクの骨董品でもうけてきたくせに、いまさらなにいってんだ
そもそもあんたの新商品は紙を画面におきかえただけじゃないか
だれがそんなものに何万円もだすかよ

通販屋などにいわれなくても、本というメディアが時代おくれになってることはみなしっている
書籍の編集作業はすでにデジタル化されているのに、なぜ糊、紙、縫合なんていうわずらわしい材料をもちいて製品にするのだろう?
だいじなのは中身の情報そのものなのではないか?
「本をあいする」というフェティシズム?
いや、それはない
本ほどかさばっておき場所にこまるガラクタはない
もっていると手がつかれるし、ページをめくるのはめんどうだし、とじるたびにしおりをはさまなくてはならないし、すぐに変色しボロボロになる
本ずきであればあるほど、その欠点にやりきれないおもいをかかえているはずだ
PCや携帯電話の猛攻にさらされ、あすにでも陥落しそうな最後の砦

さて、丸谷才一の新著のはなしだ
書評が中心で、本をかたる芸に自信のあるひとだから内容は安定している
ただ、みょうに気になる記述があった

ほかの媒体(たとへばCDやLDなど)とくらべても、便利さは本のほうが圧倒的に上だらう。
もともと本といふのは、車や枕とならべてもいいほどのもので、人間の発明した最上の道具の一つなのだが、その差当りの完成形態が、現行の本の形なのだらう。
(中略)
わたしたちは本の制覇の時代に生きてゐる。


ちょ、丸谷さん楽天的すぎじゃないの
本の未来に頭をなやませてたおれがアホみたいじゃないか
しかもいまどきLDって…なおせよ

失礼だが丸谷才一はいま文学人生のおわりにさしかかっている
「最後によむ本はなにか」という問いにはこうこたえている
こどものころのジョイスがかいたという、パーネル礼賛の未発見の小冊子
それが奇跡的にみつかって、その複製本をよんでいるときに死にたいと
やるべき仕事ははたしたという自負心と、いまだおとろえぬ探究心をかんじさせる
かれは戦後の出版文化の隆盛の一役をにない、時代や国境をこえてアナログ文化を継承した
自分の闘争は最終的に勝利だったとおもっているだろうし、たぶんそれはただしい
あとにつづく世代がその遺産をくいつぶす愚物ばかりという問題はあるにせよ

音楽にはライブがあるし、映画だったら劇場で作品を共有することができる
読書にはそういう特別な「場」がない
かいた人間とそれをよむ人間のこころのなかの一騎討ち
だからこそ、「本」には感覚的なてごたえが必要なのだ
一冊の「本」は、0と1の信号にもビット数にも還元できない
デジタル機器はいまだにそのてごたえを再現できていない
それをくつがえす革命もいつかはおこるだろうが、いまのところおれは最後の砦によりかかりたい
けっして居心地はわるくないし
ブックスタンドをつかうなどそれなりに工夫をして、いまの時代にふさわしい読書法を模索している

蝶々は誰からの手紙蝶々は誰からの手紙
(2008/03/21)
丸谷 才一

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ジャンル : 本・雑誌

レッサーパンダの憂鬱 ― 「ジャンパー」をみて

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ジャンパー [原題:Jumper]
(2008年・アメリカ)
出演:ヘイデン・クリステンセン ジェイミー・ベル サミュエル・L・ジャクソン
監督:ダグ・ライマン

どうやらしろうと筋でも批評家筋でも評判がわるいらしい
話が荒唐無稽だとか、無内容だとか、うすっぺらだとか
いつも無内容な海賊映画やロマコメばかりみてるくせにわらわせるな
たしかにこの映画はうすっぺらだ
でもわれわれのいきるこの世界がうすっぺらなのだからしょうがない
そしてこれがいまいちばんリアルな映画なのだ
トマス・フリードマンの「フラット化する世界」をおよみになったろうか
ヤンキー魂が炸裂する粗雑で能天気な本だ
インターネットの発達や中国・インドの経済成長により世界の経済が一体化し、
世界中がおなじ条件のもとで競争する時代になったとかなんとか
いろいろおかしな面のある本だけど、「ジャンパー」とおなじ空気をすっていることは否定できない

本作は、世界中のどこへでもテレポートする能力をもつ「ジャンパー」と、
かれらの抹殺を使命とするなぞの組織「パラディン」の攻防をえがく作品
たしかに荒唐無稽ですね
びゅんびゅんと瞬間移動するヘイデン君のたちふるまいはクール
なにせ登場人物があるく場面がほとんどないので、映画のテンポがいい!
かんがえてみれば街なかをあるく映像ってあんまり意味がないのだ

ジャンパーの能力をみて、おれはFirefoxなどのタブブラウザを連想した
無料でダウンロード、きがるにインストール
クリックひとつで世界中をとびまわり、ありとあらゆるものを見聞できる
有名人や権力者の悪口もいいたい放題
運がよければ一夜にしてコミュニティのヒーローになることもある
でも、どこかむなしい
ジャンパーは、そんなモニターのまえの若者たちのはかない全能感の象徴におもえた
ヘイデンの演技もかすかな影がさしており、なかなかの好演といえる
超能力をもちながらそれを人助けにまったくつかわないヒーローというのは、逆に不自然で感情移入しづらいものなのだが、かれのおかげで映画は破綻していない

ぼくにとってこの映画は可能なかぎり現実に忠実であることが重要だった
たとえば、「ボーン・アイデンティティー」で主人公がスパイとして現実世界にいたらどうだろう、とおもったのと同様に、超能力をもったデヴィッドがこの世界にいたらどうかなってことなんだ


やはり監督のダグ・ライマンはリアリティの信者だった
ロケ撮影にこだわり、規制のうるさい東京では赤信号の55秒間ごとに撮影したとか
撮影時間が1分以下…おそるべきテクニシャンだ
いなかくさい日本映画よりリアルに東京をうつしているのがぎゃくにかなしい

ブス顔の女優をこのむ、というか女優をきれいにとらないのもライマンならでは
フランカ・ポテンテ、ジュリア・スタイルズ、アンジェリーナ・ジョリー…
本作のヒロイン、レイチェル・ビルソンもどうどうたる不美人
だからこそ嫉妬ぶかいおれもヘイデンを応援する気になるのだ
二枚目で超能力者で、しかもかわいい恋人までいたら不愉快でしょ?
エピソードとしてはかるいものだが、主人公の両親もじょうずにえがいている
母親役はダイアン・レインで、いまでもきれいだったなあ

世界はフラット化して、地球上のあらゆるものは等価値な商品になりはてたのかもしれない
おれがきづいていないだけで
でもひとはいまも恋愛や、親子の愛情や、組織による暴力に日々翻弄されるものだし、むしろそれが人生の中心なんではないだろうか
あなたは中国人やインド人相手の競争のことだけかんがえていきていますか?
フラットなのは自分の気分だけで、人生はもっと谷あり山ありなのでは?
43歳のダイアン・レインのすっきりとして清潔な美貌をながめながらそんなことをおもった

難点もかいておこう
「ロスト・イン・トランスレーション」のときもおもったが、外国人は「東京」がひとつの街だとおもっているらしい
だから渋谷、銀座、新宿の風景がおかしなつながりでスクリーンにうつってがっかりする
世界の市場で客をよびたいならそこまでこだわらなくては
あと本作には直接関係ないが、Doug Limanの発音は「ダグ・ライマン」だろう
本人もDVDのコメンタリーでそういってたし
どうよめばリーマンになるのやら
馬鹿ばかりの某国の映画業界

ところでFirefoxって「レッサーパンダ」のことなんだってね
「外国には火をはくキツネの化け物がいるのか、かっこいいな」とおもってたのはぼくだけでしょうか
きょうFirefoxをつかいながらしった知識です

[新宿プラザにて鑑賞]
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ジャンル : 映画

鏡のなかのマリオネット ― かしゆか頌

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おれはふたり兄弟の長男だった
たがいの人格を否定するかのような壮絶な殺しあいケンカをへておとなになった
ストリートファイターⅡでまけたらコントローラをなげつけてリアルファイト
そんなだから妹ってやつにあこがれがある
元気でかわいくて、あまえんぼで
ときに母親のように兄をさとしたりして
「もう、おにいちゃんってば!」
数年前、弟が結婚したためおれには義理の妹ができた
ぜんぜんうれしくない
ちがうんだ、妹ってのはそうじゃないんだ



歌手はじぶんのからだを共鳴させて歌声をひびかせる
その秘密には諸説あるけれど、なんにせよクラシックの声楽家のおおくはふとっている
そして歌手としてかしゆかはほそすぎるような
そのせいかどうかはしらないが、ライブでは声量のよわさがでることが
かの女のきびきびとしたダンスも、みているとふと不安になる
あのからだに十数曲のセットリストをこなすカロリーをたくえわえられるのだろうか
ほほえんでるけどほんとうはつらいんじゃないかな?
たかいヒールであんなステップをふんだら、足の骨がぽっきりおれてしまうんじゃ?
外反母趾にならないかな?
みためは優雅でも、水面のしたでは足をじたばた
マリオネットがおどる白鳥の湖

わたしは兄がいるんですけど、福山雅治さんにあこがれて歌をやりたいといって、
体験レッスンとかをたくさんうけているときに、わたしはひまだったのでぼーっとしていたら、
母に「あんたもいっしょにうけたらどう?」といわれて、おまけでうけていたんですよ
べつに歌手になりたいとか、だれみたいになりたいというのはとくになかったんですよ


福山がすきな兄がいなかったら、いまのかしゆかは存在しなかった
おにいちゃんのあとについていってるうちに迷いこんだショービジネス
ほかのふたりのちびっこ時代とはずいぶんちがう
あ~ちゃんはモデルをやってかわいい服で写真をとられて
のっちは歌手になるというあつい野望をそだてていた
プロっぽくなくてがっついてなくて、どこかふわふわ
そんなかしゆか





初演のPSPSのパーフェクトパフォーマンス
ポニーテール!ポニーテール!ポニーテール!
きっと世界中のどんな馬よりもしっぽがゆれている
ハルヒのオープニングとかそういうアニメやCGの領域だ
生身の女性がそこでうたいおどっているとはしんじられない
高度なスキルを、プロっぽくみせずにかわいいかんじで表現する
とんがったダンスミュージックをしたしみやすいポップスとしてきかせる
それがPerfumeのPerfumeらしさ
カタギのお嬢さん風のかしゆかがいてこそ自然体の白鳥の湖になる
もしかの女がメンバーにいなかったとしても、Perfumeは成功していたかもしれない
でもそれはふつうのアイドル、アーティストになっていたにちがいない
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テーマ : 音楽
ジャンル : 音楽

チベットのサムライたち ― M・ダナム「中国はいかにチベットを侵略したか」

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中国はいかにチベットを侵略したか [原題:Buddha's Warriors]
マイケル・ダナム 著/山際素男 訳/講談社インターナショナル

雪山のくに、チベット
どこか日本ににている
うつくしい山の風景、趣向をこらした工芸品
仏教国であり、ながい鎖国を経験した歴史、それにダライ・ラマ信仰を中心にまとまった社会システムも、わが国と共通点がある
なんといっても顔つきがにている
そんなチベットのすべてを、すりつぶすように抹殺しようとたくらむひとびとがいる
中国共産党と、その追随者たちだ
無関心という雨戸をほんのすこしだけあければ、チベット人の運命は他人事におもえなくなるだろう
本書は、祖国をまもるためにちっていったブッダの戦士たちの物語

毛沢東は悪知恵だけはだれよりもはたらく男だ
まずは低姿勢にチベット社会にはたらきかける
僧、貴族、富裕な商人に金をばらまき、中共軍が進駐してもかれらの立場をまもると錯覚させた
その国に危機がせまっているとき、えてして上流階級は役にたたない
むしろ自分たちの既得権益をまもるために害をなす
そもそも中共軍がチベットに進攻した名目は、「チベットを帝国主義者から解放する」というもの
当時チベットにいた外国人は、ラジオ技術者や登山家などの欧米人がたったの8人
これでどうチベットを植民地化するというのだろうか
いまではわらうにわらえない冗談だ

支那にとってチベットがどういう戦略的価値があるのかはよくわからない
なんにせよ中共軍は本性をあらわにした
その蛮行についてここでくわしく引用する気にはならない
おれは人間の暴力性に関心をもち、すれっからしの読書家でもあるつもりだが、読みとおすのがつらいほどの残虐さだったとだけいっておこう
女性も、子供も老人も、僧・尼僧も無差別に、「死んだほうが何倍もまし」という恥辱をあたえて、そしてそのあと無残に殺した
ゆたかな文化をつたえる建築物、書籍、芸術品は灰燼に帰した
それでもチベット人はあきらめない
ふるい文化がのこっているせいなのか、かの国の男たちはサムライの精神をもっている
誇りたかく、銃や刀を愛し、絶望的な情勢でも勇敢にたたかう

ブッダの戦士たちを支援したのはアメリカのCIAだ
莫大な物資を投入し、チベット人をアメリカで訓練してゲリラ戦術をたたきこみ、B-17からパラシュートで祖国の地に降下させてたたかわせた
アメリカの「反共産主義」(なつかしいひびきだ)の国是にもとづく作戦にはちがいないが、とおい国のゴタゴタにこのんで首をつっこむアメリカの工作員たちもやはりすごいとおもう
とはいえ秘密作戦には限界がある
1969年、ニクソン-キッシンジャーは支那との国交樹立に合意
しょせんは米政府の一機関にすぎないCIAはチベットへの支援をうちきることになった
駐インド大使のガルブレイス(有名な経済学者)がそれを後押ししたとか
一般市民のあずかりしらぬ陰の工作活動などむなしいものだ

そう、ある国の悲劇については、その近隣国の政府がどうどうと責任をおわなくてはならない
そしてその責務をはたさなかったのが、インド初代首相のネール
インドにはたくさんのチベット難民がながれこみ、インド政府は中共軍の暴虐をよくしっていたのだが、ネールはもちまえの「友愛精神」にのっとり毛沢東を擁護
うわさが外国人メディアにもれないように情報封鎖した
亡命してきたダライ・ラマはうけいれたが、亡命政権樹立はゆるさなかった
チベット人の生死には無関心で、卑屈にも毛のごきげんとりに終始した
そんなこんなで1962年、中共軍は突如インドを侵略して純情可憐なネールはびっくり仰天
なんというグダグダな外交政策

後世の目からみて、当時の指導者の失政をあげつらうことはたやすい
そもそも関係者全員が幸福になる政治なんて不可能なのだし
それは現在の日本政府(笑)の対応、そして自分自身の言動をかえりみる材料としたい

中国はいかにチベットを侵略したか中国はいかにチベットを侵略したか
(2006/02)
マイケル ダナム

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ジャンル : 政治・経済

湯冷めにご用心 ― 片山杜秀「近代日本の右翼思想」

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近代日本の右翼思想/片山杜秀・著/講談社選書メチエ

おれはたぶん左よりの人間だ
保守とか反動とかは生理的にうけつけない
歴史関連の本をよむのはすきだし、ふるいものごとはできるだけ尊重する
だが古い時代を理想とかかげて現在に異議もうし立てをしたり、または現在をまるごとまもろうとする思想はうけいれがたい
社会思想として不潔だとおもう
外からかえってきて手もあらわないで料理をはじめるようなもの
そしてわれわれのいきる世の中は、未来にむけてひらかれてあるべきだ
未来志向の思想のほうがSFぽくてわくわくするし、断然クールだ
そんなおれにとって本書はじつに啓蒙的であるといえる

安岡正篤を再評価する第2章がおもしろい
細木数子の「元夫」であり、歴代首相の指南役をつとめ、「平成」の元号の考案者ともいわれる男
わかい安岡のキャリアはおどろくべきものだ
幼少から父によって漢学をたたきこまれたかれは帝大にすすむが、在学中に北一輝や大川周明としりあい、右翼的思想団体の同人となる
あらっぽい行動家たちも老熟した安岡の漢学的教養にまいってしまったらしい
大学をでて数年にすぎない安岡の勉強会には、そうそうたる官僚や軍人たちがつめかけた
早熟にもほどがあるだろうといいたくなる

片山は安岡の思想をある種の個人主義と位置づける
右翼思想なのに共同体ではなく個人におもきをおくという矛盾
それは阿部次郎らの大正教養主義からの影響がおおきいと片山はいう
この意見の妥当性はおれの知識ではわからないが、それなりに説得力はかんじた
どうせ社会をうまくかえられないなら、自分でかえようとおもわなければいい
そうやって安岡はのらりくらりと戦後もいきつづけ、「陰の御意見番」として天寿をまっとうした

そんな無責任ぶりゆえ、かれは仲間のはずの右翼連中からは「口説の徒」「うその標本」とバカにされていたらしい
血盟団の青年たちとの宴会でのエピソードが興味ぶかい
宴席で即興で漢詩(達筆すぎてだれもよめない)を書いたあと得意げに朗読し、「きみたちもこれくらいよめなければダメだぞ」とお説教
政財官のエリートには効果覿面のお座敷芸も、血気さかんな右翼青年につうじるわけもなくあざわらわれることに
政治・経済の現象をすべて指導者のこころの問題とかたづける安岡の思想は、指導者層にとってはここちよいぬるま湯だが、頭のゆだった行動家たちにはぬるすぎるのだった

大指導者様がいなかの若造にこけにされたところでいたくもかゆくもないかもしれない
そもそもすべては個人の問題、こころの問題らしいからね
今日でも「けっきょくは人それぞれ」ってぬるいいいかたをする人はおおいね
人は人、自分は自分
でもほんとうにそうおもってるのかな
すくなくともおれはちがうな
世の中そんなにあまくないんだぜ
たとえば人は人にたいしこんな罠をしかける

戦時中の政治に影響をあたえたといわれる安岡だが、国やぶれてもなんの反省もせず、ましてや戦争責任などとるわけもなく、指導者育成に注力しながら1983年に享年85にて死去
それはそれで立派な人生だといえる
だがかなしいかな、まさにその人生最後の年に、当時バーをやっていた細木数子につかまった
認知症の症状があったといわれる安岡は細木に「結婚誓約書」(!)なるものを書かされ、細木はそれをもとに婚姻届を受理させる
無責任男は孫みたいな年の女のせいで、たいしてかがやしくもない人生の晩節をけがした
翌月安岡は他界、そして(悪)名をあげた水商売の女が1985年に出した『運命を読む六星占術入門』はベストセラーとなった

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アレン翁の収支計算 ― 「タロットカード殺人事件」

タロットカード殺人事件 [原題:Scoop]
出演者:ウディ・アレン ヒュー・ジャックマン スカーレット・ジョハンソン
監督:ウディ・アレン
2006年 イギリス・アメリカ

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以前、外国で映画をとると優秀な作家でもみなだめになるということを書いたが、だれもがしるニューヨークローカル映画作家のウディ・アレンは、70才にしてロンドンで映画をとりはじめた
しかも本人にとってなんら縁のないはずのイギリス階級社会をネタにするという無茶ぶり
どうも事情は金らしい

アメリカのスタジオがキャストや脚本にまで口をだすようになったのが気にいらないとか
アレンが年をとってわがままになったのかもしれないし、アメリカの映画製作状況がそれだけわるくなっているのかもしれない
おれは業界内の事情などなにもしらないが、若造の映画屋連中が40年の偉大なキャリアをもつ作家にさんざん無礼をはたらいたんだろうな、となんとなく想像がつく
ゲージュツに理解があるのか、好景気のせいかはわからないが、くもり空の街がかれをうけいれた
師匠・ベルイマンの珍妙なパロディ(死神)もあって、ここにゲージュツ作品が完成しました

出演はヒュー・ジャックマンとスカーレット・ジョハンソン
どちらもおれはきらいだ
カンガルーの大陸からきたジャックマンは愛嬌がなくてつまらないし、ジョハンソンの価値ははっきりいっておっぱいだけだとおもう
そのおっぱいも整形手術によるものとうわさされてるらしい
本作ではぼやき漫才のアレンにたいするつっこみ役をまかされたわけだが(大役だ)、発声に抑揚がなく、ただがみがみとうるさい
吉本興業にはいって修行しなおせといいたくなる
アレンはそんなジョハンソンにぞっこんらしく、三連続でヒロインに起用
ダイアン・キートンやミア・ファローにつづく第三のミューズ(苦笑)登場、と批評家筋では評判だ

だがしかしこれも金だ
ジョハンソンはほとんどノーギャラで出演してるはず
アレンは女優をきれいにとってくれるし、箔もつくし、だれだってかれの映画にでたがる
名前だけはりっぱな役者がタダででてくれるのだから、こんなにありがたい話はない
おっぱいがすきとか、ユダヤ系だからとかの理由でジョハンソンをじっさいに気にいってるのかもしれないが、冷静に算盤をはじきながら映画をつくっていることもまちがいない
そして本作ではかの女に最高にださい眼鏡をかけさせて、演技のアクをぬくことに成功
すきな女優だったらいかりくるうところだが、この場合はこころやすらかに鑑賞できた
酸いも甘いもかみわけたベテラン作家の手練手管をたのしめる作品だ
まぬけな邦題だけは気にくわない

[早稲田松竹にて鑑賞]
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てにをはのっち

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ワイルドでクールな踊り手で、ときに少年のように無邪気で
だれよりもセクシーなうごきで視線をさそい、ときに少女のようにあまえてみせる
かの女は百の顔をもつショートカットの悪魔


小学校3年生ぐらいのときにSPEEDがはやっていて、SPEED「に」なる!という夢をきめたんですよ

[インタビュアー] SPEED「に」なるんですね

[かしゆか] 本人「に」なる…


そう!
それでアクターズスクール広島をうけて、そこでであって
歌手「に」なりたい!という夢をもう一段階うえでもちました


[あ~ちゃん] なんかすごい人だよね(笑)

私はなる!といったら歌手「に」なれました(笑)

[かしゆか] すごいことがあるもんだ!


[格助詞]
《変化をあらわす表現とともにつかって》
変化の結果としてもたらされる、ものごと・立場・状態などをあらわす

かの女がつかう、てにをはの魔法




Twinkle Snow Powdery Snowをわきからぬすみ見る
高島屋の包装紙みたいな花柄のスーツが迷彩服にみえるふしぎな個性
ほかのふたりだってダンスはじょうずなのだけれど、かの女は次元がちがうかんじ
ステップをふむたびにかるく前にけりをいれている
リズムのタメをつくっているのだろうし、ひとりだけダンスをたのしんでいるようにもみえる
人間はメトロノームじゃないんだし、振りつけどおりおどるんじゃつまんない
短髪の悪魔に仕事とあそびの区別なんて無用
最後によろけるのはご愛嬌


三十男がモニターのむこうの19才に本気でいれこむつもりもないのだけれど
小悪魔のしっぽをさがしているうちに、一線をこえてしまったような気もする春ふかい夜
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中田英寿とジーコが日本代表をこわした

円陣


上の写真は去年のアジアカップの対オーストラリア、延長戦開始前
おれはオフト時代から日本代表をみてきたが、この試合はベストではないかとおもっている
東南アジアの暑気にうんざり気味のオージー野郎もこの試合は殺気満々でのぞんできた
それでも中村憲剛や遠藤らが、たかい技術で攻撃をつくっていたと記憶する
高原が殺し屋の本能を発揮したゴールもわすれがたい
あなたがどんなにひねくれものだとしても、日本はガチ勝負で1年前のワールドカップの無残な敗北をのりこえたのだから、すくなくともその点だけでも評価すべきだ
ところが大会後、メディアはこのチームへの風あたりをさらにつよめた
非論理的で感情的にも納得できないものだった
数ヵ月後、ここまで精緻にチームをくみあげた老将は病にたおれた
すべては無に帰した

サッカーマガジン4月15日号は、いまさらジーコ時代の代表をふりかえっている(12~13ページ)
いわく「ジーコジャパンは崩壊していた」と
ほんとうにいまさらだ
かれらに「あのとき」にそれをいわなかったことを恥じる職業的倫理感はないのだろうか

佐藤俊は「黄金世代」の反乱について(いまさら)書いている
控えに固定された小野、稲本、小笠原、中田浩二は、中田英寿と中村俊輔が支配するチームに欲求不満を暴発させ、紅白戦はぎすぎすとした内戦となった
かれらはなかば意識的にレギュラー組にケガをおわせた
ひどい話だ
それでも同世代の遠藤は「どちらもいやな気持ちになる」と一線をひいていたらしい
やはりかれはかしこくて人間的な魅力のある選手だ
その後代表の中盤に君臨したのもうなずける

荒川敬則と三浦憲太郎は中田英寿の孤立を(いまさら)報告する
ブラジル戦の2日前、中田の所属事務所が予約をいれたボンのレストランで、代表メンバーたちは決起会をひらいた
それはさむざむしいもので、日の丸の寄せ書きになにも書かなかった者が5人いたとか
中田が年下の選手たちにきらわれていたのは、ヒステリックにどなりちらしたからでもある
みずからのコンディションに問題をかかえながら他人を批判し、反論の余地をあたえなかった
自分を特別あつかいするジーコにたいし、選手起用やポジションの交渉を直接おこなったりもした
かれもずいぶんとかんちがいをしていたようだ
ブラジル戦のあと、たおれこんだ中田をほかの選手はひややかに放置した
もうわすれてしまいたい、非スポーツ的で異常な光景だ

中田は過大評価されすぎた
むろん才能がなかったとはいわない
だが、あれだけ国内外の注目をあつめたのは単にタイミングがよかっただけだ
いまでは海外の実績も、ほかの日本人選手とくらべてとびぬけたものではない
いや、むかしだって奥寺たちがいたのだが
そう、スターがスターであるためには論理的根拠はいらないのだ
そして中田や中村の上げ底の「才能」を盲信したジーコがチームの土台をくさらせた
いまではフェネルバフチェに同郷人をかきあつめて成功しているらしいが、それで数年前の罪がきえるわけではない

「日本代表」はこの市場で最大かつ独占的な商品だ
そのメッキがすべてはがれるその日まで、おおくのひとびとの人生をくるわせるだろう
だれもそれをコントロールすることはできない(サッカー協会会長なんてもってのほか)
オシムはじつによくやったが、メディア(よわい敵)とみずからの肉体(最強の敵)にかてなかった
岡田武史はじぶんがのったのが泥舟だときづいておどろいたにちがいない
就任以降のその用兵、発言は混乱をきわめており、批評する価値すらかんじない
天使のような遠藤をはずしてまけた馬鹿げたバーレーン戦のあと、なにかにきづいた人はおおい
しかしおれにいわせれば、たぶん地獄はこれからはじまるのだ
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ジャンル : スポーツ

暴走する音楽ロボ ― capsule「Starry Sky」

Starry Sky
capsule/作詞・作曲:中田ヤスタカ/5分38秒

[音楽ロボ・中田ystk研究シリーズ第4弾]

ystkとはいったい何者なのか、おれはつかみつつある
とんがった音をくみあわせながら歌謡曲の輪郭をかたちづくったり
歌詞を工夫してクラブミュージックの音に繊細な感情表現をしのばせたり
それではystkのよってたつ砦、capsuleの名曲を偵察してみよう

Starry Skyはボーカル部分が3分の1程度でしかないクラブ仕様の曲だ
しかしここでもPerfumeや鈴木亜美の楽曲でみせた技がつかわれている

この曲のパートはおおきく4つにわけられる

【イントロ】
みじかいフレーズのベースとギターのくりかえしだが16小節とながい
【ぶーぶっぶぶぶ、ぶーぶぶぶ】
ドラムの音数はすくなめで、うなりをあげるベースラインが前面にでる
これも16小節
前戯ずきのystkとはいえ、じらしすぎにもほどがある
【あいしんふぉ~ゆー、あいしんこ~びゅー】
1分30秒たってはじめてこしじまとしこの声がきける
そしてこれが唯一のボーカルパート
例によって陳腐で無内容な英語詞だが、油断はできない
【たらりらららりら(ウ~ウ~)】
きらきらとかがやく高音のフレーズがはばたく
2回目からはサイレンににた音がそえられ、もりあがりは尋常ではない

BPMははやく、みじかいボーカルパートはスタッカートをきかせて起伏がほとんどない
曲の構成要素をべつべつにみた場合、この曲にポップスらしさ、歌謡曲らしさは皆無
それはオリコンの番付とは接点のない音楽だ
ystkとしては、すきなようにすきな音をつなげて、フロアを熱狂させればいい
しかしそうはできないのが音楽サイボーグのさがなのだ

BPMのはやさを考慮し各パートの長さを8小節とみなせば、この曲も「Aメロ-Bメロ-サビ」という、日本のポップスにしみついたベタな構造がくみこまれている

【ぶーぶっぶぶぶ、ぶーぶぶぶ】がAメロだ
ベースラインはystkの声であり、そうきこえるミックスがほどこされている
ボーカルパートがBメロ
これまでみてきたように、ystkはBメロを重視する
じわじわとメロディは下降し、こしじまは曲をゆっくりとおちつかせる
「A↑-B↓-サビ↑」のながれだ
声をはりあげるのは「Starry Sky」のところだけ
きくものの脳裏に満天の夜空がうかぶ
きらめく星にいろどられつつも、それは夜、闇、黒のイメージ
【たらりらららりら】がサビ
フラッシーなフレーズが漆黒の空に星をまきちらす
サイレン(ウ~ウ~)はボーカルにちかい音質で、こしじまがえがいた黒のイメージをさらに濃くする

BPMをキープしてさえいればなにをしてもゆるされるジャンルなのに、歌謡曲をつくってしまうystk
クラブで耳がこわれるような大音量でながす曲なのに、曲調はどこか暗くなる
フェラーリとメルセデスを分解してくみあわせて自転車をつくるようなわけのわからなさ
この音楽アンドロイドはそうとういかれている
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テーマ : 音楽
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そんな失恋ディスコ Perfume/パーフェクトスター・パーフェクトスタイル

パーフェクトスター・パーフェクトスタイル
(本稿ではPSPSと呼称)
Perfume/作詞・作曲・編曲:中田ヤスタカ/4分18秒

電池食い男・中田ヤスタカ(ystk)研究シリーズ第3弾です
ちなみにいまのところ反響はゼロです

おおげさなファンは「Perfumeに捨て曲なし」と豪語するが、この名曲がシングルカットされてないのだからそれほどいいすぎでもない
PSPSがおもしろいのは、せつない失恋ソングでありながらバリバリのダンスチューンであるところ

予期せぬかたちで恋がおわれば人はかなしいし、気分はしずむ
だからそういった心理状態をなぞったような曲はこの世にかぞえきれないほど存在する
いっぽうダンスミュージックは反復を多用して聴き手の気分を高揚させる
よくもわるくも能天気な曲がおおい
それは冷蔵庫からだしたばかりのドレッシングのようにまじりあわないのだ
ところがPSPSは重低音のベースラインがブリブリうなるダンス音楽でありながら、あまりにせつない
曲のながれにそいながら秘密をさぐろう

PSPSはサビからはじまる
結論からいうとここがすべてだ

>[のっち] I still love ― きみの言葉が まだはなれないの
>[あ~ちゃん] あの日あの場所で こおりついた時間が
>[のっち] あえないままどれくらい たったのかな きっと
>[あ~ちゃん] 手をのばしても もうとどかない

ふわふわした声質のかしゆかをスルーすることで曲のムードを決定づけている
伴奏はじわじわともりあがり、のっちの2回目のフレーズにベースラインがのって曲がうごきだす
そう、PSPSはのっちのための曲なのだ
「あ~えーないまま どれくらい…」
あまくてせつない声にノックアウトだ
通称大本彩乃ことのっち、じゃなかったのっちこと大本彩乃は、じぶんでは美容院の予約もできなかったほどの人見知りだったそうだが、えてしてそういう人のほうがうたうと感情表現がゆたかだ
のっちをおおきくフィーチャーすることでかなしい恋のうたが成立する

では、ystkは失恋のつらさとダンスの興奮をどうかけあわせているのだろうか
じつは歌詞に上向きのベクトルがかくされている

>たぶんね きみは本当はそう すべてパーフェクトなスター
>つかめない風のように 気楽そうにうつるスタイル
>ありのまま ゆらがないように 後ずさりなんてできない
>いまもたいせつなあのファイル そっとかかえた あのまま

じぶんをふった恋人のことをかんぺきなスターというあっけらかんとしたいい回しが、曲が絶望の荒野に着地するのをすくっている
自然体でありながらどこかふわふわとしている、典型的なPerfumeの曲調にかさなるのだった

そしてすばらしいダンス
初演とはおもえないPSPSのパーフェクトパフォーマンス(YouTube)
ポニーテールをふりまわすかしゆかの華麗なステップ、曲の前はわらいをとりながら曲がおわると泣きだすあ~ちゃんも素敵なのだが、やはり中心はのっち
ノースリーブからみえるちょっとふとめの二の腕にみとれてるだけじゃないですよ
こぼれおちそうな笑顔と、胸をかきむしられような歌声と、うつくしく力づよいダンス
大本さん、あんたは最高だ!!!!!

うわさでは、今月16日発売のニューアルバムはどうやらどえらいクオリティになっているらしい
そしておれは革命前夜を動画共有サイトをながめながらすごすのだった
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苑田 謙

苑田 謙
漫画の記事が多め。
たまにオリジナル小説。

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