ホーキングとシミュレーションゲーム

模型機関車であそぶホーキング

 

 

十代のスティーヴン・ホーキングは、友人とゲームづくりに熱中。

ウォーゲームはマス目が4000もある大作だったし、

封建領主が勢力をきそうゲームには、複雑な系図をあしらった。

宇宙の原理をしりたいとゆう慾望が、すでにめばえていた。

 

父は自分とおなじ医学部進学をのぞんだが、ホーキングは生物学がきらい。

観察にもとづく分類と記述ばかりで、ものたりない。

人類がどこからきて、なぜここにいるか、かんがえる手段がほしかった。

 

1962年、大学院生の資格でケンブリッジの門をくぐる。

当時活発なのは素粒子物理学だが、すでに完成の域に達し、

ホーキングの目には植物学の同類とみえた。

宇宙論をえらばなかったら、時代にとりのこされたかもしれないと彼はゆう。

 

 

イングランド東部のカム川で、最初の妻ジェインと舟遊び

 

 

ALS(筋萎縮性側索硬化症)を発症したホーキングが、実験で成功するのは至難。

理論家として生きるしかない。

 

彼は代表的業績であるブラックホール研究を、観測に裏づけられた證拠なしで完結させる。

「先端分野の研究はあくまで実験的にすすめねばならない」とのべた、

素粒子物理学が専門で、宇宙論ぎらいのリチャード・ファインマンの間違いを證明。

つまりカール・ポパーの「反證主義」に対する反證が、ホーキングの人生だ。

 

宇宙を理解するのに、宇宙の存在はいらない。

頭脳さえあればいい。

 

 

『マトリックス』(アメリカ映画/1999年)

 

 

1999年の映画『マトリックス』公開後、物理学者はあるアイデアについて議論をはじめる。

「いま目にうつる世界は、コンピュータが脳に直接おくった假想現実ではないか?」

 

 

『ファイアーエムブレム 覚醒』(任天堂/2012年)

 

 

科学者がうたがう根拠はある。

この宇宙は、我々にとってあまりに都合よくできている。

たとえばビッグバン後の、膨張と重力が絶妙につりあう「臨界宇宙」。

水素原子が核融合をおこしヘリウムを形成するときの、

エネルギーが放出される効率「0.007%」も、やたら生命にやさしい。

 

世界はいわば、ヌルすぎるシミュレーションゲーム。

だれかが仕組んでるとしかおもえない。

光の観測において、基礎定数が微調整されたらしいなんて、天文学の證拠もある。

 

 

 

 

われわれの現実がゲームかどうか、たしかめる方策がひとつ。

「シミュレーションのなかで生きている」とゆう発想をひろく伝道すること。

それはプログラマにとり、シミュレーションの継続を妨害する行為だから、

提唱者はなんらかの形で「削除」されるはず。

 

 

無重力を体験するホーキング

 

 

ホーキングはノーベル賞をおくられてない。

「ブラックホールが粒子を放出する」とゆう予測を、理論物理学者の大半は支持するが、

実地の観測で立證するのはきわめて困難だから。

より権威ある「基礎物理学賞」をもらえたので、本人は気にしてないが。

 

すさまじい障碍は、学究生活の妨げとならなかった。

講義や会議を免除され、むしろ得をした。

彼の人生もまた、「仕組まれた」匂いをただよわす。







【参考文献】

スティーヴン・ホーキング『ホーキング、自らを語る』(あすなろ書房)

マイケル・ブルックス『ビッグクエスチョンズ 物理』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)



ホーキング、自らを語るホーキング、自らを語る
(2014/04/03)
スティーヴン・ホーキング

THE BIG QUESTIONS Physics ビッグクエスチョンズ 物理THE BIG QUESTIONS Physics ビッグクエスチョンズ 物理
(2014/03/31)
マイケル・ブルックス

テーマ : 宇宙・科学・技術
ジャンル : 学問・文化・芸術

グレゴリー・チャイティン『ダーウィンを数学で証明する』

エルンスト・ヘッケル『生物の驚異的な形』

 

 

ダーウィンを数学で証明する

Proving Darwin: Making Biology Mathematical

 

著者:グレゴリー・チャイティン

訳者:水谷淳

発行:早川書房 2014年

原書発行:2012年

 

 

 

メイナード・スミスとサトマーリの定義によると、生命とは、

「変異をともなう遺伝をしめし、自然選択による進化をおこしうる存在」のこと。

その本質は軍拡競争で、おなじ場所にとどまるための全力疾走でもある。

遺伝子は決して「利己的」じゃない。

ただひたすら創造性をたかめ、進化したがっている。

性によりゲノムの半分をすてる行動の、どこが利己的か?

 

 

 

 

数学者でコンピュータ科学者のチャイティンは、身体とDNAの関係を、

コンピュータのハードウェアとソフトウェアのそれになぞらえ、

ダーウィン的進化が作用することを数学的に證明。

 

『種の起源』の冒頭でダーウィンも、育種家による人為選択と、

自然選択の類似性をもちい論をときおこしている。

著者チャイティンの見立ては、そう突飛なものじゃない。

 

 

 

 

やや社交性に難のあるクルト・ゲーデルは、

プリンストン高等研究所の夕食の席で、わかい天文物理学者に対し、

「わたしは経験科学を信じない。信じるのは演繹的(アプリオリ)な真理だけだ!」といった。

苛酷な職場だ。

 

ところが「経験科学」の代表選手たる生物学に、

ゲーデル的かつチューリング的な「創造性の数学」がハマるのが、おもしろい。

 

 

 

 

著者は、計算可能性理論の「ビジービーバー問題」をとりあげ、

計算の数値が、生命体の「適応度」をあらわすとみなす。

3つの進化形態で、「累積的進化」が「しらみつぶしの探索」よりずっと速いとわかった。

 

有利であるちいさな進化が累積して進化がおこるとゆう、

半分しかできてない目などについての、ダーウィン理論の骨子と一致。

 

 

『生物の驚異的な形』

 

 

古代ギリシアや支那やルネサンス期イタリアが創造的で、古代エジプトが退屈なのは、

都市国家による分権支配と、中央政府による全体支配のちがい。

著者が属するユダヤ人社会も、律法集の内容やラビの任命など、

知識と知性をおもんじ、議論をこのむ伝統をもつ。

イスラエルの軍人は、退役後ハイテク企業を設立することがおおい。

つねに戦争状態だから、創造的でありつづけることを強いられる。

 

アメリカ人の6割しか進化論を支持しないことは、よく嘲笑の対象となるが、

ボクがおもうに、数学的に證明されないから信じなかった面もあるのでは。

 

さあ端末をいじり、ソフトウェアをヴァージョンアップしよう。

この場にとどまるために。




ダーウィンを数学で証明するダーウィンを数学で証明する
(2014/03/20)
グレゴリー・チャイティン

テーマ : 自然科学
ジャンル : 学問・文化・芸術

ムーアの憶測

アップルI(1976年)

 

 

「コンピュータチップのトランジスタ部品数は2年ごとに倍増する」とのべた、

ゴードン・ムーアによる1965年の論文は、自他ともにみとめる「まぐれ当り」だが、

歴史的にはチアガールの声援みたいな意味があった。

この予言が世界中のエンジニアを駆りたて、半導体産業を牽引する。

ムーアの憶測は、ムーアの法則となった。

 

チップへつめこむトランジスタの数は物理的限界がある。

トランジスタは、物質の基本要素である「原子」よりちいさくできず、

単一原子によるトランジスタが存在する以上、すでに頭打ち。

 

 

作成者:Jbw2/WhiteTimberwolf

 

 

だが量子コンピュータの微視的なはたらきが、限界をデリート。

粒子は同時にふたつの状態となりうるので、

量子ビット(キュービット)は「0」「1」「01」の三つの値をとれる。

たとえば3桁の2進数なら、量子システムは8個保存できるうえ、

それらの数値で同時に計算をおこなう超高速コンピュータに。

量子コンピュータが途轍もなくはやいのは、

「多宇宙(マルチヴァース)」で同時に計算実行してるから、なんて解釈もある。

 

1957年に「多世界解釈」を発表したヒュー・エヴェレットは、

非難と無視により物理学界をおわれ、失意のまま51歳で早世した。

いまは、チップのなかに他世界への扉があるとマジメに論じられる。

 

 

DNAでつくられた論理回路

 

 

この量子コンピュータも、キュービットの寿命がみじかいとゆう難問があるが、

研究者はムーアの法則のただしさを證明しつづけるため邁進。

シリコンのかわりにDNA鎖を情報ビットの土台とする方法など模索する。

 

DNAコンピュータは、生物の設計図が暗号化された分子で、2進数の1と0をやりとり。

1994年にレナード・エイドルマンが、試験管へいれた生物分子に、

「巡回セールスマン問題」を解かせるのに成功した。

生体適合性がよく、医療分野で応用される可能性がたかい。

 

これよりさきの進化なんて、ボクには憶測すらできない。







【参考文献】

ヘイリー・バーチ/マン・キート・ルーイ/コリン・ステュアート『ヴィジュアル版 人類が解けない科学の謎』(原書房)



ヴィジュアル版 人類が解けない科学の謎ヴィジュアル版 人類が解けない科学の謎
(2014/03/28)
ヘイリー バーチ、コリン ステュアート 他

テーマ : 自然科学
ジャンル : 学問・文化・芸術

須藤靖/伊勢田哲治『科学を語るとはどういうことか』

長月みそか『のぞむのぞみ』(TSコミックス)

 

 

科学を語るとはどういうことか 科学者、哲学者にモノ申す

 

著者:須藤靖 伊勢田哲治

発行:河出書房新社 2013年

レーベル:河出ブックス

 

 

 

ビリヤードの比喩であやしげな因果説をデッチアゲる哲学の珍論にブチギレた、

東大の宇宙物理学者・須藤靖に対し、京大の科学哲学者・伊勢田哲治が、

「科学哲学は一応マトモな学問です」と辯護する、毛色かわつた対談書。

 

たとえばトーマス・クーンの「パラダイム論」は、新旧の枠組みに比較はなりたたず、

パラダイム全体の反証可能性をみとめないとゆう議論だとか、

過激な「反実在論」をといたファン=フラーセンは量子力学にくわしいとか。

 

だが数学と実験にささえられた物理学者を、言論でときふせるのは困難。

最新の物理学では、「まちがつた理論が偶然に実験結果を説明する可能性」など、

鼻でわらうしかない精度で議論がおこなわれている。

数式と自然の一致に、われらはただ驚嘆するのみ。

科学哲学が科学に貢献したいなら、なんらかの処方箋を提示せよ!

すくなくとも既存理論と同程度の完成度をもつ解釈を。

 

うつくしさ、いいかえると簡便性や経済性が、科学の判断基準。

おなじ現象を説明できるなら、假定のすくない理論をえらぶ。

あらたな実験結果にあてはめては、取捨選択をおこないつづける。

哲学者は「うつくしさは理論の正当性を保証できない」と批判するだろう。

それは否定しないし、物理学者同士の争点のひとつでもある。

だからといつて、方法論がうまく機能していることにかわりない。

 

 

宮野ともちか『リカ』(ジェッツコミックス)

 

 

科学と哲学の翻訳不可能性にかなしくなるが、

それでもウィトゲンシュタイン以外の哲学者に沈黙はゆるされない。

果敢に揚げ足をとりにゆく。

 

須藤さんが一方で科学の一番基礎の部分である帰納を認めるかどうか

というのが完全に趣味の問題だということも認めつつ、

他方ではそれを「合理的」「健全」という言い方もされていて、

中立的な観点から見てもその選択が支持できるものだ、

と思っていらっしゃるようなニュアンスを感じるんですよね。

そのずれにちょっと「あれっ」と思わざるを得ない。

 

「科学」とゆう言葉自体に、ある種の規範性がつきまとう。

だからひとは「非科学的」の四字を非難としてもちいる。

科学者は「価値の話などしたくない」といいつつ、価値判断をふりかざす。

 

「物理」で説明できないことがらを「趣味」と定義しかたづけるなら、

世界には「物理」と「趣味」しか存在しないことになる。

それ以外のカテゴリーがありうることすら認識できない学問が、客観的な世界の記述といえるのか?

 

 

吉富昭仁『へんなねえさん』(F COMICS)

 

 

哲学者にとり議論での敗北は、万死にあたう恥。

一時撤退し、伝家の宝刀をぬく。

その名は「自由意志」。

 

古典力学的な決定論にせよ、量子力学的な確率的ふるまいにせよ、

物理法則と自由意志は、矛盾といわないまでも相性わるい。

だが自由意志は、現実世界で決定的意味をもつ。

みとめなければ、あらゆる犯罪行為が免責される。

刑法学でも具体的論争をおこなう分野だ。

 

道徳心理学の実験で、「近親相姦はなぜいけないか」と質問する実験がある。

被験者のあげた理由にいちいち、「それがあてはまらない状況ならかまわないか」と問いなおすと、

最後はかならず「とにかく近親相姦はいけない」とゆう結論に。

はじめから直感で答えがきまつており、あとから理屈がつくられる。

社会的合意とちがう、この直感はなにか。

 

 

影崎由那『おにいちゃん☆コントロール』(アクションコミックス・コミックハイ!ブランド)

 

 

確率的かつ必然的かつ自由に誘惑する、「シュレーディンガーの妹」假説。

妹とゆう無罪の悪魔。

ゆらいでゆく倫理の公理系。

世界平和のため、あらゆる知性を結集すべき難問だ。

ボクも妹研究者として、科学のうつくしき発展に寄与したい。




科学を語るとはどういうことか ---科学者、哲学者にモノ申す (河出ブックス)科学を語るとはどういうことか 科学者、哲学者にモノ申す (河出ブックス)
(2013/06/11)
須藤靖 伊勢田哲治

テーマ : 宇宙・科学・技術
ジャンル : 学問・文化・芸術

タグ:  

コンピュータ・アーキテクト、モンティ・デノー

『マトリックス』シリーズ(アメリカ映画/1999-2003年)

 

 

コンピュータ設計者は、建築家に似る。

概念的問題を、幾何学的に解決する専門家だから。

 

デジタルチップはトランジスタと抵抗器、それをつなぐワイヤーを内蔵。

ワイヤーが接触しないよう、複数の階層にいりくんだ配線をほどこす。

数学者や藝術家とちがい、電力供給や排熱や故障に苦労するのもおなじ。

 

 

 

 

IBMワトソン研究所のモンティ・デノーは1948年、ニュージャージー州にうまれた。

MITに入学し、はじめ哲学(存在論と神学理論)をまなぶが、数学へ転ずる。

イリノイ大学での指導教官は竹内外史で、

無限次元の「ヒルベルト空間」に関する難問を、博士論文の課題にされるなどした。

 

 

 

 

IBM入社後は、並列プロセッサの発展に寄与。

多数のプロセッサを連携させるなどバカげてるといわれながら。

 

通信のおくれを回避するため考案されたのが、格子状のクロスバースイッチ。

メッセージを網の目にはしらせることで、

図でゆうと「横Yから縦Z」と「横Zから縦X」を同時につたえられる。

 

 

 

 

最新のペタフロップマシンは、毎秒1000兆回計算できる。

物理法則の限界まで、コンピュータは加速。

 

 

 

 

デノーは1990年代、「レイトレーシング(光線追跡法)とゆう計算アルゴリズムの実行にかかわる。

光が目にとどく経路を逆にたどり、物理現象を假想的にシミュレート。

断片的記憶から、世界を再構築する技術だ。

テレビ会議など画像転送に応用できる。

 

 

「トリニティ」役のキャリー=アン・モス

 

 

だが革新的発明にありがちなことに市場がなく、

開発は頓挫しかけるも、「某政府機関」の資金提供にすくわれた。

顧客がだれなのかアーキテクトは決してあかさないが、

おそらく最近話題のNSAが、暗号解読などにつかつたのだろう。

 

スパイは、最高のマシンを必要とする。

 

 

 

 

並列マシンの弱点は、歩留りがわるいこと。

「サイクロプス」のチップはIBMの歴史でも最大級で、塵ひとつで故障する。

 

デノーは特異な思想をもつ。

なぜ160個のプロセッサすべてが良品でなくてはいけないのか?

158個が正常にうごくなら、かまわないでないか。

機械はさわるほどこわれやすく、チップ交換は時間のムダ。

故障したプロセッサを回避する仕組みをつくればよい。

 

モノはこわれて当然だから、不具合をみこし設計……建築家の発想だ。

 

 

 

 

機械の進化の速度に、人間はおいつけない。

いまだプログラミングは、30年前とかわらぬC言語やC++言語で、

ハードウェアとソフトウェアを融合させるのが困難に。

 

まるで象形文字の様なAPL言語に触発され、

少数派だが創造的なプログラマは、表現力のたかい配列言語をつかう。

数千のプロセッサを統御する助けになるかも。

 

 

 

 

並列マシンは、高額な大型汎用コンピュータよりはやい。

デノーがIBMで先導したパラダイムシフトは、皮肉にもIBMの失墜をもたらした。

まつたく、ヒトの手にあまるじやじや馬だ。







【参考文献】

デニス・シャシャ/キャシー・ラゼール『生物化するコンピュータ』(講談社)



生物化するコンピュータ生物化するコンピュータ
(2013/09/19)
デニス・シャシャ キャシー・ラゼール

テーマ : 宇宙・科学・技術
ジャンル : 学問・文化・芸術

最近の記事
記事の分類
検索とタグ

著者

苑田 謙

苑田 謙
漫画の記事が多め。
たまにオリジナル小説。

Twitter
メール送信

名前
アドレス
件名
本文

カレンダー
01 | 2020/02 | 03
- - - - - - 1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
月別アーカイヴ
02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03