細川雅巳『逃亡者エリオ』

 

 

逃亡者エリオ

 

作者:細川雅巳

掲載誌:『週刊少年チャンピオン』2019年-

単行本:少年チャンピオン・コミックス

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14世紀のスペインを舞台とするアクションものである。

主人公の「エリオ」は、弟を殺した罪で収監されている18歳。

決闘において1000の囚人に勝利し、釈放を認めさせた。

 

 

 

 

貴族階級の娘「ララ・レズモンド」が濡れ衣を着せられ、

引き回されるのをエリオが目撃したとき、物語はうごきだす。

 

政情不安定で黒死病が蔓延した、暗い時代背景をうまく描いている。

 

 

 

 

エリオはララを救出すると決意し、素手で警吏に殴りかかる。

骨太な格闘描写は、『拳闘暗黒伝セスタス』を彷彿させる。

 

 

 

 

ララは出自に秘密があり、抹殺するため刺客が送られる。

王家の血を引いてるので生かしておけないらしい。

可憐な殺し屋「デボラ」は特に印象的。

なにせ舞台は中世ヨーロッパなので、ゴスロリキャラに説得力がある。

 

 

 

 

16歳で国王に即位した「正義王」ペドロ1世なども躍動し、

エリオとララの逃亡劇と、大規模な動乱が絡んでゆく様だ。

週刊誌連載作品としては、かなり読み応えが感じられた。





テーマ : 漫画
ジャンル : アニメ・コミック

仲谷鳰『やがて君になる』第44話

 

 

やがて君になる

 

作者:仲谷鳰

掲載誌:『月刊コミック電撃大王』(KADOKAWA)2015-19年

単行本:電撃コミックスNEXT

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最終話直前の「お泊り回」である。

侑は、晴れて恋人同士となった燈子の自宅を、

相手の両親が旅行に出ている隙に、緊張しながら訪ねる。

ところがタイミング悪く、玄関で両親と鉢合わせしてしまう。

女同士なので怪しまれなかったが。

侑自身の人畜無害な雰囲気も役立ったろう。

 

 

 

 

料理中の会話の場面。

「恋人」「付き合ってる」という言葉を使いたくない、と燈子は言う。

客観的に見て、それ以外の何物でもないのだが、

言葉というのはぞんざいで、使い古されて汚れてるから拒絶する。

4巻にもあった、言葉に対する痛烈な攻撃だ。

 

完結により、『やが君』の歴史的意義が明確になった。

本作の斬新さは、ジャンルの爛熟期に現れたジャンル漫画である一方で、

その属するジャンルを否定し乗り越えた点にある。

ロボットアニメの飽和期に始まった『新世紀エヴァンゲリオン』が、

ジャンルの約束事を踏襲しつつ、それを否定する立場を取ったのに近い。

 

 

 

 

夜も更けたころ、ふたりは結ばれる。

肌はやけどしそうなほど熱く、じっとり汗ばむ。

いつもの涼しげな作風の対極にあるシーンだ。

 

 

 

 

侑の広背筋の描写とか、解剖学的な面白さがある。

これまでずっと静かな湖面の様だった絵柄が、

肉体と肉体が複雑にからみあう、三次元のパズルへ急接近する。

本作のテーマが「仲谷鳰の画才を見せつけること」だとすると、

みごとにオペラの終幕を飾るのに成功している。

 

 

 

 

後書きで作者が分析している。

やが君は、やたら感想が多い作品だと。

こんなブログを書いてる人間としては、

天才の手のひらで転がされてる気がして悔しい。

 

ではなぜ、人はやが君について語りたがるのか?

上述した歴史的意義や、作風の空虚さが理由だろう。

エヴァンゲリオンが、語られすぎなほど語られた様に。

 

 

 

 

僕も随分本作について語ったが、語りきった感じはしない。

それほど偉大だったり、深みがあるとも思えないが、

シルエットが不鮮明で、得体が知れないところがある。

とりあえずの結論は、「やが君は10年代の『エヴァ』である」だ。

残酷な百合のテーゼだ。

エゴサした作者が見たら鼻で笑いそうだが。





テーマ : 百合漫画
ジャンル : アニメ・コミック

タグ: 百合 

藤近小梅『ご主人様のしかばね』

 

 

ご主人様のしかばね

 

作者:藤近小梅

掲載誌:『月刊ガンガンJOKER』(スクウェア・エニックス)2019年-

単行本:ガンガンコミックスJOKER

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なんの変哲もない少年「言見」が友人と歩いていたら、

近づきがたい雰囲気を漂わす、長身の女から話しかけられた。

メイドみたいな格好をしており、「ご主人様」と呼んでくる。

 

 

 

 

街では連続通り魔事件が発生していた。

人間を襲う犯人は、これまたメイド服を着た、

「ステップガール」というゾンビみたいな存在。

 

 

 

 

言見に話しかけてきた長身の女の名は「ウルスラ」。

じつは彼女は、ステップガールを退治するのが役目の精霊だった。

通称「戦女中(ヴァルメイド)」。

 

 

人間と精霊の肉片や血しぶきが飛び散るなか、

漆黒のスカートがひらひらと舞う絵面は見応えあり。

 

 

 

 

ウルスラは言見の家に住み込むことに。

無愛想ではあるが、メイドの仕事はしっかりこなす。

 

 

 

 

「メイドとご主人様の絆」が本作のテーマ。

強く凛々しいウルスラも、なぜか一途に平凡な言見を慕っており、

ときおりデレて女らしい素顔を垣間見せる。

 

 

 

 

言見は戦闘能力がないし、性的魅力もない。

ただ恐ろしいステップガールにも向き合い、その怨念を理解しようとする。

 

「だれかに尽くしたい」という女心をしっかりと受け止め、

心から感謝するだけで、世の中の不幸はずっと少なくなる。

そんなメッセージが籠められた作品だ。





テーマ : 漫画
ジャンル : アニメ・コミック

アサダニッキ『あの鐘を鳴らすのは少なくともおまえじゃない』

 

 

あの鐘を鳴らすのは少なくともおまえじゃない

 

作者:アサダニッキ

掲載誌:『プリンセス』(秋田書店)2019年-

単行本:プリンセスコミックス

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高校生の「大橋チカ」は、生物教師の「西目」に憧れている。

かなり本気で。

しかしクラスメートにライバルがいた。

その「猪乃原愛矢」は美人で優等生で、チカとしては分が悪い。

 

 

 

 

なのでチカは決意した。

恋を実らせるためには手段は問わないと。

 

 

 

 

チカは、美化委員の仕事で先生と二人きりになろうと、

偽情報を流して猪乃原さんを出し抜くが、その陰謀は見抜かれる。

なぜなら猪乃原さんもチカの恋心を察し、これまで妨碍してたから。

一番上の引用部分でペンケースを落としたのも、彼女の仕業だった。

 

本作はJK同士の恋の鞘当ての、ドタバタを楽しむコメディである。

こまかく伏線を張ってきっちり回収する、作者の手際が見どころ。

 

 

 

 

舞台は共学校なので、男子生徒も絡んでくる。

ライバル心を燃やす一方で、奇妙な連帯感が生まれ、

美貌ゆえに脅迫されていた猪乃原さんを、チカが助けたりする。

 

 

 

 

週末、チカは幼い弟をつれて戦隊モノの映画を見にゆく。

自分はこれっぽっちも興味がないので、ただの子守役だ。

友達はデートしてるのに私は……とため息をついていたら、

偶然、隣の席に西目先生が座った。

特撮ファンだったという、先生のおちゃめな素顔を知った。

 

 

 

 

西目先生は優しく生徒思いの、善良な人物として描かれる。

しかし巻末の第4話で、チカと猪乃原さんから好意を寄せられてるのを、

先生はとっくに気づいていたことが明かされる。

平然としていたのは、それが思春期の女子が罹るはしかみたいなもので、

教師としては捨て置くべきだと考えているから。

その態度は、真剣に恋する側からしたら、いちばん残酷かもしれない。

 

一筋縄でゆかない、アサダニッキワールドを堪能できるラブコメだ。





テーマ : 漫画
ジャンル : アニメ・コミック

フライ/竹岡葉月『今日、小柴葵に会えたら。』

 

 

今日、小柴葵に会えたら。

 

作画:フライ

原作:竹岡葉月

掲載誌:『コミックREX』(一迅社)2019年-

単行本:REXコミックス

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おしゃれな女子高生の主人公「成田佐穂子」が登校前に着替える、

冒頭のシーンが本作のほぼすべてを物語っている。

誰も見てないはずなのに、他者からの視線を意識してる様な、

スキのない端正なたたずまいが示される。

 

スカートの柄の描写なども、こういうところで手を抜かないぞという、

作画担当者の宣言みたいなものを感じる。

 

 

 

 

佐穂子には気になる人がいる。

おなじ学年の「小柴葵」。

長身でバスケが好きで、いつも男子とつるんでる様なタイプ。

性格が真逆なのもあり、ふたりはほとんど接点がなかった。

 

 

 

 

放課後の駐輪場で、佐穂子は葵とふたりきりになる。

このチャンスに仲良くなりたくて、無意識的にキスしてしまう。

 

原作者はまずキャラ絵を渡され、それから話を考えたと語っているが、

たしかに本作のストーリーは少々とりとめない。

それでもフライは、コミック百合姫の表紙を担当していた人なので、

絵それ自体はなんの瑕疵もなくそこに存在している。

 

 

 

 

第1巻でいちばんエモーショナルな第5話。

明るい態度の下に隠していた悩みを打ち明けた葵は、

おもわず涙をこぼすが、その描写はあっさりしている。

 

 

 

 

むしろ次ページの、月とふたりの少女が織りなす不思議な遠近感の方が、

静かなのにずっとドラマチックに読者の胸に迫ってくる。

 

 

 

 

イラストレーターによるストーリー付きのイラスト集にすぎない、

みたいな低評価もアマゾンなどで散見する。

しかし、そもそも漫画とはストーリー付きのイラスト集なのであり、

本作みたいなシンプルさを許容する懐の深さがあると思う。





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タグ: 百合 
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