アシュラガールズの日本文化論 ― Perfume『ポリリズム』

阿修羅

ポリリズム

Perfumeのシングル曲
作詞・作曲・編曲:中田ヤスタカ
(2007年/徳間ジャパンコミュニケーションズ)


七十年代はじめの「日本語ロック論争」ってご存知ですか?
黎明期の日本のロックは英語でうたわれるものが主流で、
「日本語はロックのリズムにのらない」が定説だった。
内田裕也などのミュージシャン、中村とうようなどの評論家によって、
はっぴいえんどに代表される「日本語ロック」が糾弾された。
この手の論争は何度もむしかえされる宿命にあり、
たとえば最近では「日本語でラップは可能か」など、
愚にもつかない議論でエネルギーが無駄についやされている。
外国の音楽は現地語でうたうのが一番適しているのはあたりまえで、
論争においては洋楽純粋主義者がつねにただしい。
だがしかし、いうまでもないことだが、
どの論戦においても日本語が最終的に勝利した。
ロックであろうと、ヒップホップであろうと、「日本語」はペロリと胃袋におさめる。
抵抗は無益だ。


Perfumeの楽曲を制作する中田ヤスタカ(以下ystk)は、
松本隆や桑田佳祐が苦心してつくりあげた
日本語ポップスの秘術を自家薬籠中のものとしている。
音楽の才能があって、わかくして成功して、見た目もよくて、
しかも言葉を魔法のように自由につかいこなせるのだから、
正直嫉妬せずにはいられない。
かれのつむぐ言葉はメロディやトラックと微妙にひびきあい、
わかい娘の繊細な恋愛感情を丁寧にえがきだしながら、
ときに絶妙な言葉あそびをまじえて聞くものをニヤリとさせる。

あの日の思い出 もう離さないで
やっと縮められた キミとの距離は
まだ元通り じゃないしスローリー
心の氷 溶かせたらいいね

"Twinkle Snow Powdery Snow"

はやいテンポの曲なので、語呂あわせが耳にここちよい。
スローリーなかしゆかの歌いかたもかわいらしい。
"I still"→「あいしてる」 (パーフェクトスター・パーフェクトスタイル)
"see new world"→「死ぬよ」 (edge)
のように、ystkは空耳系のもじりも得意だ。


で、ようやく『ポリリズム』の話なのだけど、
この曲の歌詞の職人藝がまたあざやかだ。

ほんの少しの 僕の気持ちが
キミに伝わる そう信じてる
とても大事な キミの想いは
無駄にならない 世界は廻る
ほんの少しの 僕の気持ちも
巡り巡るよ


NHKと公共広告機構によるCMへの起用をうけてかかれた曲で、
恋愛と環境保護のメッセージが重ねあわされている。
恋人どうしの愛と、環境をまもろうという愛は根がおなじだと。
本当かどうかしらないが、曲として提示されているから説得力がある。
そして『ポリリズム』という曲名は、間奏でもちいられている複合リズムと、
ポリ容器の「ポリ」の語呂あわせだ。
この着想はやはり斬新だとしかいいようがない。


『ポリリズム』にかぎらず、Perfumeの楽曲はどれも平仄が独特だ。
全体的に言葉数が多めで、しばしば不自然なリズムを歌い手にしいている。
難解な技巧をさりげなく聞かせるPefumeもエライのだけれど。
とくにのっちはリズムをキープする能力がたかく、
日本語として聞きとれるかどうかギリギリの線までくずしてうたう。
たとえば"love the world"では、

きっと、ひ〜とりでな・や・ん・で 教え、て〜くれて、いんだよ

てな具合。
ショートカットのリズム天使は、テクノの軽快なリズムにノリながら、
女の子らしい情感をたっぷりと言葉にまぶしている。
あ〜ちゃんはどちらかといえば優等生的な歌い手で、
かしゆかは舌たらずでかすかに拍子におくれぎみ。
そして、この三位一体が不思議な歌の空間をつくりだす。
のっちの才能も非凡なのだけれど、
どんなリズムでもノせてしまう日本語の力もおそろしいというか。
支那でもポルトガルでもイギリスの言語でも、
ロックでもテクノでもヒップホップのリズムでもノッてしまう。
とりあえず、その場その場でカッコよければええんじゃけー。
のんべんだらりと抑揚にとぼしいリズムレス言語だからなのか。
それとも高度かつ難解な韻律をもったポリリズム言語なのか。



Zepp Tokyoでのライブ

さらにこの動画。
MC大将軍あ〜ちゃんが観客をあおりにあおり、
一気に『エレクトロワールド』〜『ポリリズム』となだれこむ。
七分十秒からの「ポリループ」での熱狂の渦がすさまじい。
三度にわたって絶叫にちかい歓声があがる。
たかが間奏なのに…。
Pefumeの動画もいろいろ見てるからちょっとやそっとじゃおどろかないが、
これにはさすがに鳥肌がたったよ。
インド舞踊のような振りつけがおもしろい。
まるで三面六臂の阿修羅像をみるかのようだ。
「ポリループ」にはいるまえの殺気だった面もち、
天竺風のクールな無表情、ループ後のさわやかな笑顔。
みっつの顔をコロコロとかえながら、三人娘はうたいおどる。
とくにかしゆかのポーカーフェイスはどこの菩薩さまかとおもってしまうよ。
てなわけで、ポリリズム文化の国のポリアイドルは、
人界をかるがると飛びこえてしまいそうだから底がしれない。
『ポリリズム』は本当に桁はずれの名曲だ!


ポリリズムポリリズム
(2007/09/12)
Perfume

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genre : 音楽

tag : Perfume

焼きマシュマロをたべながら ― リサ・ローブ 『キャンプ・リサ』

リサ
(注意!アンジェラ・アキではありません)

キャンプ・リサ
リサ・ローブ
[Camp Lisa - Lisa Loeb]
(2008年/アメリカ/36分9秒)


わたしのお盆やすみはまたたく間におわってしまいましたが、
みなさま夏のバカンスをいかにおすごしでしょうか。
アメリカ合衆国には足をふみいれたこともなく、
知人の一人もいないので聞きかじりで書いていますが、
当地の子どもは「サマーキャンプ」なる行事にでかけるのが一般的だそうです。
米国のそれはかなりの長期にわたる本格的なもので、
子どもたちはハイキング、カヌー、キャンプファイヤーなどに興じます。
最近では演劇や音楽などの専門分野に特化したものも人気があり、
障害者や難病をかかえた子どものためのキャンプもあるそうです。
こまかいことはともかく、アメリカの子どもたちにとってサマーキャンプとは
一生の思い出になる大切なもよおしなのです。
すくなくとも学習塾の夏期講習よりたのしいのはまちがいないですね!
でも、経済的な事情でキャンプに参加できない家の子もいます。
本作は、そういう子どもたちのために設立した「キャンプ・リサ基金」の
資金あつめを目的としてつくられたチャリティアルバムだとか。
慈善事業もいろいろありますけど、目のつけどころがよいですよね。
なんだかたのしげで、応援したくなります。


『キャンプ・リサ』は、リサさんが大すきなキャンプの定番曲と、
自身のこころはずむ記憶もとにしたオリジナル曲をまとめたアルバムです。
黒ぶちメガネのリサさんは女教師然としたキャラクターの持ち主ですので、
こういう良心的な構想の作品にぴったりです。
歌声から素朴でやさしい人柄がつたわってきます。
少年少女をあつめてコーラスに参加させたり、キャンプのゲームをさせたりして、
テントやキャンプファイヤーの情景が目にうかぶようです。
リサさんは地元オースティンのちかくでひらかれたキャンプで
ギターのひきかたをまなんだそうですから、
自分のルーツにかえるという意味もあるんでしょうね。
ニール・ヤングの"Love Is A Rose"のカバーもあります。
アメリカ民謡の"Home On The Range(峠の我が家)"は
日本人でもだれもがきいたことがあるはず。
ギターの弾きがたり、もしくはシンプルな伴奏が中心で
プロらしい飾り気などまるでありませんが、
キャンプの出し物としてはこれが自然なスタイルですよね。
たぶんアメリカで子ども時代をおくった人なら、
なつかしさで胸がキリキリとしめつけられるアルバムではないでしょうか。
だってキャンプに縁のないボクでもそう感じるんだもの。


オリジナル曲も全部いいなあ。
"Going Away"は「下着に名前を刺繍しなきゃ」とか、
出発まえの準備のあわただしさをえがいた曲。
前日の夜に荷づくりをはじめるタイプのオレは、この気もちよ〜くわかるよ。
"Best Friend"ではキャンプ地で友だちをつくることに成功する。

あなたはポケットに手を突っ込んで
帽子を目深に被ってた
あなたは誰も知り合いがいないみたいで
私も誰も知らなかった
で 自己紹介が始まり名前が飛び交い
みんなまじめな顔をしていたけど
あなたと私は涙が出るほど笑ってた

人見知りのふたりが、気づいたら親友になっていたという夏の魔法。
キャンプのドキドキは、学校の修学旅行では絶対にあじわえない。
"It's Not Good Bye"は、キャンプ最終日のせつなさをうたう。

さよならじゃなくてちょっとの間離れるだけ
最後まで友だちでいよう
泣かないで 来年の7月はもうすぐそこ
さよならは言わずまた会う日までと言おう


本作には恋愛を直接におわせる表現はないけれど、
集団生活で何事もおこらないわけがないよね。
リサ自身の失恋の経験も曲に反映しているかもしれない。
まあ男女のあいだのできごとはともかく、
ながいようなみじかいようなキャンプ生活には様々なドラマがあって、
そのすべてがキラキラとかがやく宝物になる。


実はオレはリサのファンでもなんでもなくて、
持ち歌もデビュー曲の"Stay"くらいしかしらないのだけど、
このアルバムは夏の愛聴盤になりそう。
透明感のある歌声も、耳にのこる素直なメロディも、
十年以上まえから全然かわっていないんだね。
オレは子どものころからインドア趣味で野外活動は苦手だったし、
キャンプファイヤーでは好きな女の子の顔もロクに見れなくて、
キャンプの思い出なんてひとつもない。
でも胸にわきおこるこの甘酸っぱい感情は一体なんなのだろう?


キャンプ・リサキャンプ・リサ
(2008/05/28)
リサ・ローブ

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theme : 音楽
genre : 音楽

死と変容 ― Perfume "love the world" "edge"

死の天使

love the world
Perfume
作詞・作曲:中田ヤスタカ
(2008年/24分23秒/徳間ジャパンコミュニケーションズ)

かの女たちの実質的なファーストアルバムである"GAME"は自他ともにみとめる傑作ということになっているが、過大評価のきらいがなくもない
アルバム制作は工程に余裕がなく、楽曲の質や統一感がいまいちだったとおもう
"チョコレイト・ディスコ"や"Twinkle Snow Powdery Snow"のような古い収録曲のほうが、どうしてもききくらべて魅力的にかんじられる
贅肉をそぎおとしつつドライブするタイトル曲や、かわいくてせつない"puppy love"などで新境地をひらいていたのは事実だけれど、アルバムを一枚とおしてきくことはほとんどなかった
そんななか7月9日にあたらしいシングルが発売された
これがなんともすばらしい
やはりアイドルはシングルにかぎりますね!
暗いB面が明るいA面にたいするアンサーソングのようになっていて、陰と陽が宙になげられたコインの裏表のようにみえかくれしながら歌の世界をふかめてゆく


"love the world"では、アゲハチョウのようにひらひらと舞うフレーズにみちびかれてやさしい歌声がながれだす
いつものように声は加工されているが、のっちが前面にでてきこえる

こっそり秘密をあげるわ
ずっとすきにしていいのよ
きっとキミも気にいるよ
ふたりだけの特等席


だれがなんといおうと、のっちの甘くぬれた声質はPerfumeの最大の武器だ
脳のなかの普段つかわない部分が刺激され、すきな女の子とふたりきりになったような心のたかぶりをおぼえる
"GAME"にたりなかったのはこれなんだよ
転調を多用しているらしくけっして単純な構成ではないが、サビはキャッチーでたのしい曲だ

刺激的 ほらステキ
みえる世界がきらめくわ

やわらかな キミのタイミング
ずるいでしょ チュチュチュ
love love the world


日本の「世(よ)」ということばは男女の仲を意味し、さらにひろく世間一般のこと、現実世界そのものをさすこともある
高校の古典の授業でそうならったときは、腑におちなかったものだ
わがごとく我を思はむ人もがなさてもや憂きと世をこころみむ
(わたしが相手をおもうようにわたしをおもってくれる人がいてほしい。それでも人と人のなかはいとわしいものなのかためしてみたい)
でも、「彼氏といっしょにいるときに、いちばん世界に存在するという実感をおぼえる」というわかい女の子はけっこういるかもしれない
でもって「やわらかなタイミング」でキスをもとめられたりして
男の子らしい欲望に翻弄されつつも、恋愛のあまずっぱいよろこびが曲にあふれている

だれか書いたシナリオ?
まだ このさきがみえない
一番星さがす 手がふるえても


しかし一筋縄ではいかないystk先生、Bメロの歌詞に不安の種をまいている
神でもなんでもよいけれど、いまのふたりの関係はだれかがさだめた筋書きの一場面にすぎないかもしれなくて、まだみぬ将来の不吉な予感にかすかにふるえる
唐突な口づけも、ひょっとしたらなにかのおわりをつげているのかもしれない


B面の"edge"はもっとそっけない曲で、おもたいビートのくりかえしがつづく
むかしはやっていたケミカルブラザーズみたいな曲調だ
「だんだん すきになる きになる すきになる」のフレーズが八回反復されながらじょじょに変容し、いつのまにか英語の歌詞にかわってゆく
ここでものっちらしき巻き舌のボーカルがきこえる
冥界に一歩ずつおりてゆくような感覚

だれだっていつかは死んでしまうでしょ
だったらそのまえにわたしの
いちばんかたくてとがった部分を
ぶつけて see new world


あからさまに「死」が、かの女たちの口から二回もとびでる
公式の歌詞は"see new world"だが、実際には"死ぬよ"にきこえる
そうかんがえれば、"new world"もどこの「世界」をさすのか意味深長だ
女の子にとって恋愛はおもうようにならなくてもたいせつで、だからこそその刹那において、じぶんがいちばんじぶんらしくありたいとねがう
絶対にゆずれない矜持がそこにある
それを相手にもわかってもらいたい、でもそのすべてをわかってもらえはしないことも自覚している
恋愛のそういう不完全性もふくめてうけいれる覚悟が、「死」という表現にあらわれている

聞き手をふかいところへいざなう死の天使たちは、地獄の底につまさきをつけた瞬間に翼をひろげながらうたいあげる

そうなんだね それはそんなかんじで
you say! oh yeh! I loving you yeh!
ああそっかで 話きいてないのね
I know. oh yeh! say loving you yeh!


いろいろ解釈はあるだろうが、恋人の無関心をなかばあきらめつつもなげいているとみてよいだろう
けっきょくキミはわたしの外面しかみていないんじゃない?
もちろん顔も髪型も服もだいじだし、ほめてもらえればうれしいけれど
でもわたしたちがいっしょにいるのは、それだけが理由じゃないでしょう
すきなのは見た目だけじゃない?性格もすき?
ちがうのよ、そんなことをいってるんじゃないわ
どう説明したらわかってもらえるのかな
…三十男がこんなふうによみといてみました
青春の光と影を十分あまりの二曲に完璧にとじこめた、あまりにもうつくしいシングルだ


しかしこれらの曲の陰影はあまりにも輪郭がはっきりとしすぎて、現在進行形の女の子たちのこころに直接とどくのかどうかはおぼつかない
曲のなかでPerfumeがえんじるヒロインたちは同世代の平均をはるかにこえて感受性がするどく、人生をいきぬくために必要である以上に運命のはかなさを理解しすぎているようだ
すれっからしの聞き手にとってはそこがおもしろいわけだが
死の天使たちは、神=ystkの意図に忠実すぎるともいえる
とはいえ、いま世界でこの陰のあるラブソングをうたいこなせるのはこの三人だけだろう
そういう意味では神が天使たちにふりまわされているといえなくもない
神が天使を支配しているというのは幻想であって、天使の存在によって神ははじめて神であることができるのかもしれない
なにかと深よみをしすぎるおれもその魔力の犠牲になっているのだろうか
それはそれでよいのだけれども
のっちとボクが「ふたりだけの特等席」にいる、とかんじさせてくれてこそのアイドルなのだから

love the world(通常盤)love the world(通常盤)
(2008/07/09)
Perfume

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genre : アイドル・芸能

tag : Perfume

おやすみキム・ゴードン ― Melody Gardot "Worrisome Heart"

キム

Melody Gardot
Worrisome Heart
(2008年/アメリカ/33分12秒)

上の画像の左がソニックユースのキム・ゴードン
右が夫でバンドの中心人物のサーストン・ムーア(身長2メートル)
本エントリのメロディ・ガルドー嬢と関係はまったくありません
この"Worrisome Heart"というアルバムをきいていたら、キムが雑誌のインタビューでかたっていたことをおもいだした
女性のシンガーソングライターを揶揄する内容だったと記憶している
なんで女のひとってシンガーソングライターになりたがるのかなあ?
ギターやピアノのひきがたりは音楽として保守的すぎるし、せいぜい歌詞で自己表現するだけでつまらないとおもうわ
女性アーティストももっと大胆な表現に挑戦するべきよ
うろおぼえだがこんなかんじ
キムはおれのあこがれの女性でもあるので、これをよんだときは得心したのだが、でもおもうのだ
だれもがキム・ゴードンになれるわけじゃない
ニューヨークを拠点に実験的な音楽をうみだし、世界中に地下のネットワークをひろげて、ステージで耳ざわりなノイズをまきちらす
ロックのあたらしい潮流をつくりだし、オルタナティブな音楽のゴッドマザーとして崇拝される
あなたが特別すぎるんです

夜ふけには女性の歌声がききたくなる
べつにおれがさびしいひとりぐらしだからってだけではないとおもう
寝床にはいって本でもよみながら、スピーカーにつないだiPodにある曲をシャッフルで再生するのだが、そのプレイリストに女性のシンガーソングライターがけっこうはいっている
ファイストとかキャットパワーとかシゼル・アンドレセンなんかがおきにいりだ
騒音だらけの昼間にきくとさっぱりだけど、草木もねむる時刻になると本来のひびきをとりもどす音楽がある
ミズ・ゴードンみたいに、男たちにまじって白日夢のノイズにたちむかえる女性は例外なのだ
そして90分や120分のスリープを設定して、しばらくしてからねむりにつく
なんというか、人間のこころのどこかに子もり歌をもとめる願望があるのかもしれない
もちろん深夜にソニックユースをきくのもたのしいんですけどね

余談がながくなったが、メロディ・ガルドーはフィラデルフィア出身で1985年うまれのシンガーソングライター
"Gardot"は英語よみなら「ガードット」だとおもうが、インタビュー映像で本人が「ガルドー」といっていたのでそれにあわせることにする
なんだかミステリアスな名前だ
19歳のときに交通事故にあい、記憶障害と、光と音にたいしての過敏症をわずらった
いつもサングラスをかけているのはそのためらしい
「事故にあったときの痛みは、10段階でいうなら40くらい」というほどの災難だったようだ
後遺症にくるしむメロディにたいし、医師はきずついた脳の神経回路をいやすために音楽をはじめることをすすめる
だからかの女にとって音楽活動とはリハビリの一環なのだ
その歌声には「人気ものになりたい」「ひとを感動させたい」といった欲があまりかんじられず、自分と外の世界のあいだの溝を音楽をつうじて手さぐりするような感触がある
レビューとしては、音そのものに関係ない部分にこだわりすぎているかもしれない
レコード会社は商品に神秘的な装飾をほどこして宣伝するものだし、はなし半分というつもりできかなければならない
でも、そういういかがわしさもふくめてポップミュージックの魅力だとおもっていたりもする

全9曲(10曲目はみじかいアウトロ)は、3曲ごとに雰囲気がことなっている
最初の3曲はジャズ的なムードが支配している
トランペットにみちびかれて歌がはじまる表題曲は、やはりよい曲だ
円熟のジャズシンガーをきどってはおらず素朴なうたいぶりで、"All That I Need Is Love"のスキャットでは「のっぺらぼ〜」と空耳がきこえる
中盤はカントリー/フォークのようなシンプルな曲調
ちょっと器用なアメリカ娘なら鼻歌でつくれそうなメロディだ
でも個人的には"Sweet Memory""Quiet Fire"あたりが、アルバムのなかでもいちばんすきかもしれない
シンプルにはちがいないのだが、意外と曲ごとの目鼻がたっている
音楽としての目あたらしさはまったくないけれど

7曲目の"One Day"からは夜のしじまにしずみこんでゆく
つぎの"Love Me Like A River Does"では、
Love me like a river does
Endlessly
Love me like a river does
Baby don't rush you're no waterfall

と、川のようにやさしく安定した愛情をもとめていて、ちょっとせつない
美空ひばりの「川の流れのように」(秋元康作詞)はじぶんの人生をやたらとおおげさにふりかえる曲だったが、お国によって川の歌もずいぶんかわるものだ
最後の"Goodnite"も軽快なリズムをもつ佳曲だとおもう

わかいミュージシャンなのでこれからどんなキャリアをかさねるのかさっぱりわからないが、サングラスごしの色あせた風景をひかえめにゆびでなぞるような音楽をつくりつづけるのだろう
そんな歌声が海をこえてひとのこころをいやせるのだから、音楽ってのはふしぎだ
キム・ゴードンになれなくたって、夜になればそこにはしずかな歌声のための空間がある

Worrisome HeartWorrisome Heart
(2008/02/26)
Melody Gardot

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theme : 洋楽
genre : 音楽

ブリストルのエレベーター ― Mark Stewart "Edit"

エレベーター

Mark Stewart
Edit
(2008年/イギリス)

国内版の解説は予想どおり大鷹俊一で、この人のレビューに蛇足をつけたしても無意味におもえる
おれのかずすくない尊敬する人物のひとりなのだ
でも書くけどさ
かれは冒頭でスリッツのアリ・アップの発言を引用している

マークはオリジナルのパンク・スピリットをもった人よ
パンクといえばジョニー・ロットンがイメージされるんだろうけど、かれよりもマークのほうがパンクな存在よ


マーク・スチュワートはパンクの嵐がふきあれる1978年、ブリストルでザ・ポップ・グループを結成しボーカルと歌詞を担当した
フリージャズやダブが渾然となったはげしい音楽に政治的な歌詞をのせるというスタイルで、売り上げはともかく、あとにつづくミュージシャンへの影響がおおきいバンドだった
その後マークはソロで活動し、骨太な音楽性と過激なメッセージはすこしもかわらずにいまにいたる
そして本作は13年ぶりのアルバム

イントロのあと最初の曲である"Rise Again"がはじまる
うねるベースラインとねっとりとしたギターのカッティングがせまるファンクだ
とはいえ単なるイケイケではなくて、群集を扇動しようとたくらむ革命家の計算もかんじられる
マークの音楽はひたすらおもくしずみこむようなものがおおくて個人的にはすきではなかったのだが、このアルバムは聞き手をあおりたてるようないきおいがあっていい
6曲目の"Secret Suburbia"も破壊力がある
サミア・ファラのうつくしい歌声とモーグ・シンセサイザーのひびきがからみあいながら、こぎれいな郊外の退廃した風景を撃つ

7曲目からはB面的なながれ
ノイズの暗雲がたちこめる"Almost Human"から最後まで、たるみなくつながる
アリ・アップがボーカルでくわわった"Mr. You're A Better Man Than I"は、なんとヤードバーズのカバー
歌詞に共感してえらんだらしい
最後の"Secret Outro"は"Secret Suburbia"のアウトテイク的な曲で、70年代ディスコ風のトラックの上でモーグが5分21秒間、野放図にうたいあげる
じつにきもちよい曲で、いちばんすきかもしれない

ブリストルの後輩であるポーティスヘッドのあたらしいアルバムは地獄よりもさらにふかい底をめざす陰鬱な傑作だったが、ぎゃくに30年選手のマークはこれまでになく開放的な作品をつくった
だれにたのまれたわけでもなく「なにものか」とたたかいつづける音楽ゲリラは、このさき30年間も過激でありつづけるのだろう

EditEdit
(2008/04/26)
マーク・スチュワート、マーク・スチュアート 他

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theme : 洋楽
genre : 音楽

書いているひと

ケン

Author:ケン
男。ファミコン世代。
千葉市出身、新宿区在住。

メールアドレス
nekrasov.aoe■gmail.com

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