中村佑介『みんなのイラスト教室』

 

 

みんなのイラスト教室

 

著者:中村佑介

発行:飛鳥新社 2015年

 

 

 

アジカンや『謎解きはディナーのあとで』などで知られるイラストレーター、

中村佑介がツイッターでおこなっているイラスト講座をまとめた書籍。

 

創作系の授業では「お手本」をしめす必要があるが、

自作ばかり挙げたらナルシストと思われるため、他者の作品もとりあげる。

たとえばWeezer青盤の安定した構図とか。

しかし気前よく手札を晒せば、同業者に研究されるリスクをともなう。

 

 

 

 

ポップアートのロイ・リキテンスタインは、「手間をかけること」の重要さの例として。

洋モノはとりあえず無難な教材だ。

 

 

 

 

鳥山明が手がけたドラクエ4のパッケージをとりあげ、

「色と大きさ」をもちいる視覚のトリックを解説する。

発売当時、著者は12歳。

影響とゆうより、血肉となっている作品だろう。

 

 

 

 

なかでも崇拝するのがビックリマンシールの米澤稔。

わざわざパクリ商品と比較し、単純化された絵における、

人体の構造の理解にもとづく立体的表現について語る。

 

ビックリマンシール収集にハマった小学校時代の情熱が、

現在の中村佑介の画業の骨格をなしている。

 

 

 

 

逆に言うと彼は、すくすくのびのび成長したおぼっちゃま。

父は建築家で母はファッションデザイナー、ふたりとも絵がうまい。

 

ちなみに僕が両親にしてもらってとても嬉しかったことは、

学校で描いた絵が、次の日に額装されて、家の壁に飾られていたことです。

プロの父母からしたら、僕の絵なんて下手っぴだったろうに。

それは「自分もプロになれるかも?」という大きな自信となり、

よりいっそう絵を頑張ることへ繋がりました。

 

ただの親馬鹿エピソードに思えるが、本人にとっては貴重な思い出。

まあ僕は親に褒められた記憶がないから、こんなにヒネくれてしまったのかも。

 

高3のときのデッサンを見せ、「僕に勝てるかな?」とうそぶくイノセンス。

幸福な少年期を送ったからこそ描ける、幸福な世界。

本書を読んでも、あなたは中村佑介になれない。

いまその場で葛藤し、苦悶し、心に立ち籠める暗雲を払わねばならない。

親ではなく、自分の力で。






テーマ : イラスト
ジャンル : 学問・文化・芸術

『世界観のつくり方 イラストレーション作家の創造力』

 

 

世界観のつくり方 イラストレーション作家の創造力

 

編著:株式会社Playce

発行:エムディエヌコーポレーション 2014年

[公式サイトはこちら

 

 

 

ファンタジー・ミリタリー・アイドル・大正レトロ・学園生活・オカルト・日常生活。

6人のイラストレーターに6種のジャンルを描かせ、

その世界観がどう構築されているか解説する技法書。

 

しばふ氏の「ミリタリー」が圧巻。

アフガニスタンで治安維持活動をおこなうイギリス軍兵士ふたり。

左の武器はなんて言うんだろう、かっこいい。

マイナー兵器でミリオタをよろこばす。

 

 

 

 

モノだけでは「イラスト」として完成しない。

塗りの段階で右の少女を、笑顔から緊張した表情へかえた。

「憧れ」とゆう関係性がうまれる。

 

 

 

 

女の子の肌は白やピンクに近づけたくなる。

ここは誘惑に抗い、明度を落とす。

天幕の下だから影がかからないとおかしい。

かわいさより、リアリティ。

 

 

 

 

光は、光るべき物にあたえよ。

ペットボトルのラベルは彩度の高い青と赤で、殺伐とした職場の癒やしに。

この水はナルゲンボトルへ補給。

 

 

 

 

黒光りするL85A2。

入念に整備をおこなう、持ち主の几帳面さがあらわれる。

絵師もパーツごとの塗り分けの労を惜しまない。

 

 

 

 

この引用画像では伝わらないが、仕上げ時に空の色を調整、

逆光による「白飛び」にして報道写真っぽく演出する。

肉眼から離れた誇張表現が、見る者を戦場へいざなう。

 

 

 

 

ぶーた氏による「学園生活」。

放課後の一瞬を切り取る。

 

 

 

 

カーテンのシワや陰は、描線でなく色でつけ、窓枠が透けて見える様に塗る。

空気の揺れがあざやかに浮かぶ。

物理が、少女の心理とシンクロナイズ。

 

 

 

 

艶っぽい場面だが、差し色の数をしぼり、中央にあつめ上品な印象に。

赤と緑の補色を交互に配置、ミニマムな表現で最大限のひろがりを獲得する。

 

 

 

 

新井陽次郎の「日常生活」。

下校途中に小学生男子がみた、ハッとする光景。

 

 

 

 

金網の向こうの少女の髪とスカートが、風になびく。

ジブリ出身のアニメーターであるせいか、いまにも空を飛びそう。

 

 

 

 

緑色のおおい構図だが、少女のランドセル・カラーコーン・少年のズボンが赤。

補色を点在させ、「緑っぽい絵」と思われるのを回避しつつ、

四隅に画鋲を刺す様に、幻想を現実世界へつなぎとめる。

 

 

『ラスマス・フェイバー・プレゼンツ・プラチナ・ジャズ~アニメ・スタンダード・ライヴ・アット・ビルボードライブ東京~』ジャケット

 

 

僕は、人間が生きている世界には必ず争いが存在すると考えているんです。

悲しいいさかいやぐれつな殺し合いは、決してなくなることはない。

描いた世界の向こう側に、そういうものもあるのだろうと

感じさせる絵が描けたら良いなと思うんですよね。

 

アニメーター・吉田健一へのインタビュー

 

女の子の笑顔や服装以外にも、世界の構成要素は存在する。

光と闇、補色と同系色、心理と物理、希望と絶望……。

セリフより雄辯に、アニメーションよりダイナミックに、タブレットから音楽を奏でる。






テーマ : イラスト
ジャンル : 学問・文化・芸術

内田静枝編『森本美由紀 女の子の憧れを描いたファッションイラストレーター』

パリ秋冬コレクションのレポート(『ヴォーグ・ニッポン』2005年8月号)

 

 

森本美由紀 女の子の憧れを描いたファッションイラストレーター

 

編者:内田静枝

発行:河出書房新社 2015年

レーベル:らんぷの本

 

 

 

森本美由紀は21歳でイラストレーターとしてデビュー。

アルバイト感覚だったらしい。

 

1980年当時、ファッションイラストはファッショナブルじゃなかった。

「ファッション」とゆう女の子のリアルな夢を、

絵描きのフィルターをとおして見るなんて、まだるっこしい。

 

それでも長沢節直伝の画業が歓迎されたのは、

女たちのイキイキした表情が、共感をあつめたから。

 

 

 

 

森本はブリジット・バルドーの熱烈なファン。

可愛らしさをのこすセクシーさ、女らしさ。

作風への影響をみてとれる。

 

「物語」を感じさせるイラストは映画的。

 

 

『週刊アサヒグラフ』(1994年9月9日号)

 

 

おフランスに憧れる娘なんて、かつて日本には掃いて捨てるほどいた。

森本の血肉になったのは、「セツ・モードセミナー」で学んだこと。

あまりに居心地よくて、プロになってからも入り浸り、

師匠のいれたコーヒーと会話をたのしんだ。

 

「下品な缶ジュースは持ち込まないで下さい」といった張り紙のある、

長沢節の美意識が隅々までゆきとどく空間。

そこは新宿のパリだった。

 

 

 

 

「アートとイラストの違い」は、むつかしくて僕の手にあまる問題だが、

セツ時代の教えに忠実に、モデルをつかっていた森本の仕事は、

狭義の「イラスト」の枠におさまりそうにない。

墨汁の使用も師匠譲り。

 

歌手のNickeyは、2002-13年にクロッキーモデルを頻繁につとめた。

「理想のモデル」と称されて。

森本は女の子が心底好きな人だったんだろう。

でないと11年もつづかない。

 

 

シャネルの香水を描いた作品(『mc Sister』1989年2月号)

 

 

するどい観察眼にもとづく、女の身づくろいの様子。

リアルだが、貧乏臭い生活感はない。

ここにあるのはライフスタイル。

 

 

『groovy book review』表紙(1999年)

 

 

なつかしい。

結構売れたはずの書評集で、立ち読みしたことがあると思う。

中身はまったく記憶にないが、表紙は脳に刻みこまれている。

 

森本は一枚の絵で、本を読む女の子がオシャレだっておしえてくれた。

 

 

ファッションブランド「Spuntino」のための作品

 

 

森本は2007年、故郷の岡山県津山市にアトリエをうつした。

海外からの発注がふえたことが、東京にしがみつく意味を薄れさせ、

帰郷をうながした理由のひとつと言われる。

 

センスの塊みたいな人が、スタイルのない世界に住むのは苦痛だろう。

ヘイト本が平積みされた書店をみれば嘆くだろうし、

女の子のリアルな夢から遠ざかり、

オタクの妄想に寄り添うネット上のイラスト群も、森本にとっては退屈だろう。

2013年10月の、54歳での早すぎる死は、100%不幸な出来事とおもえない。

 

それでもタイムレスでボーダーレスな女子たちはいまも、

「わたしについてきなさい」と後続ランナーを不敵に、そしてやさしく挑発する。






テーマ : レディースファッション
ジャンル : ファッション・ブランド

上月さつき『制服嗜好』

 

 

制服嗜好

 

著者:上月さつき

発行:イースト・プレス 2014年

[版元の紹介ページはこちら

 

 

 

昨年9月に刊行されて以来、すでに3刷をかさねるなど好評を博した、

女学生の制服について愛情こめて解説する図鑑。

著者は素材系メーカーに勤務してるそうで、ただ見てカワイイとゆうだけでなく、

「マテリアルとしての制服」が素人にも理解できるつくり。

 

たとえばプリーツスカートのポケットが左側におおい理由、しってました?

 

 

 

 

オシャレ指向のセーラー服は、胸元にダーツとゆう縫いが施されている。

女子らしい曲線的なシルエットを表現。

 

いくら純粋な学術的関心から発する行動だとしても、

道行く乙女をよびとめ制服を触らせてもらうわけにゆかないので、

本書のさわやかなイラストと丁寧な文章に、知的好奇心が満たされた。

 

 

 

 

冬のセーラー服は紺や黒や灰色。

パーツがシンプルなため、ブレザーとくらべると暗めな印象に。

僕も漠然とセーラーは夏服にかぎるとおもっていた。

 

しかしその分、冬セーラーは三角タイや襟のセーラーラインがきわだつ。

自分がいかに浅薄な理解しかもたなかったか、恥じいるばかり。

 

 

 

 

セーラーもブレザーも、それぞれすばらしい。

両者をイイトコどりした「セーラーブレザー」なる制服も存在。

襟はセーラー、裾はブレザー。

二重人格みたいでミステリアスだ。

 

 

 

 

女子がこれらを着こなすことで、布切れに生命をあたえる。

具体的にゆうと、どう「指定」と折り合うか。

指定外のミント色のリュックと制服がかなでる、夏らしい色彩のハーモニーとか。

 

 

 

 

たとえアレンジをゆるさない学校でも、彼女らのオシャレ心はとめられない。

マフラーのかわいい結び方とか。

 

 

 

 

冬のアウターの定番といえばPコートやダッフルコートだが、

トッパーコートは着崩しがむづかしく、おちついた雰囲気に。

やや薄手の素材によるボディラインと、

末広がりのAラインシルエットが、夏の少女を冬の淑女にかえる。

 

束縛のなかの自由。

無個性を転覆した個性。

制服がおりなす銀河系の広大さにめまいがしそう。






テーマ : ★制服★
ジャンル : 学校・教育

『アート オブ ロバート・マッギニス:THE ART OF ROBERT McGINNIS』

『依頼人を殺すな』1963年/テンペラ画(ブレット・ハリデイ著/デル刊)

 

 

アート オブ ロバート・マッギニス:THE ART OF ROBERT McGINNIS

The Art of Robert E. McGinnis

 

著者:ロバート・マッギニス アート・スコット

訳者:大久保ゆう

発行:マール社 2014年

原書発行:2014年

[ページ見本はこちら

 

 

 

1926年うまれのアメリカの画家・イラストレーターの作品集。

ペーパーバックの表紙や、『007』シリーズなどの映画ポスターでしられる。

 

マッギニスの描く女は、モンロー風の婀娜っぽさと一線を画し、知的で優雅。

会話の最中みたく、こちらに視線をなげかける。

いったい彼女はなにものだろう?

さそってるのか、それとも罠か?

書店のラックをみた瞬間、謎にからめとられる。

 

 

『じゃじゃ馬は死んだ』1959年/テンペラ画(ジェリー・スミス著/デル刊)

 

 

露出のおおい若い女を前面にだす、俗っぽい注文仕事が主だが、

マッギニスはつねに「アート」をてがける意識をもっている。

発注側の指示は女の髪の色だけ、あとは自由裁量にまかされた。

 

ブルネットの女が胸をはだけ横たわる。

だがそれは、窓からの侵入者に殺されたあとかもしれない。

 

 

『森のささやき』1971年/テンペラ画(ノーマ・エイムズ著/エイヴォン刊)

 

 

70年代になると私立探偵ものは下火となり、

女性読者がペーパーバック市場の大半をしめる様に。

マッギニスは「ゴシック小説」の装画でも頂点にたつ。

とりあえず美女を描ければ、食いっぱぐれないらしい。

 

 

かれの独創性は色彩感覚にある。

色数すくないのにカラフル。

闇で逃げ惑う女のブロンドの髪の、不穏なうつくしさ。

 

 

『ジュディス』1979年/テンペラ画(ブライアン・クリーヴ著/バークリー刊)

 

 

ボクは70年代のペーパーバック小説を全然しらないが、

現代日本のサブカルに通じるセンスに興味ひかれる。

Wikipediaをみると舞台は18世紀末のイギリス、19歳のヒロイン「ジュディス」が、

腹黒い親戚から農場をまもる話だとかで、どうでもよくなった。

おそらく絵だけが後世にのこるだろう。

 

 

『トランポリンの子猫ちゃん』1961年/未使用再稿(サタデー・イブニング・ポスト)

 

 

雑誌のためのイラスト。

モデルのオルガがやたらはしゃいで跳ね回り、素材をたくさん撮れたので、

画家も調子にのり連続写真みたいな作品にした。

ここでも髪のうごきが表情ゆたか。

 

マッギニスとモデルたちの関係は、飼い主とネコみたい。

直截的なエロスにむかわない。

 

 

『スラーヴァ』2000年ごろ/油絵

 

 

本書は代表作以外に、近作を多数収録する。

個人的動機にもとづいた絵画作品も、キャリアの主要部分。

 

ここでも美女にこだわる。

着物と花と乳首が、薄紅色の共鳴をきかせる。

 

 

『無題(馬と馬車で川を渡る)』製作年不詳/卵テンペラ画

 

 

アンドリュー・ワイエスに影響うけた風景画家でもある。

川面にうつる影の繊細な描写にすいこまれそう。

 

 

『名前のない猫』1998年/卵テンペラ画(ガイドポスツ)

 

 

本人がゆう、生涯の最高傑作。

自分が描いたとおもえないほど完璧だと。

 

毛色のちがう猫4匹の体勢のおもしろさ。

ブロンド・ブルネット・茶色・赤毛……。

あでやかな髪の女を描きつづけた画家人生の集大成か。




アート オブ ロバート・マッギニス:THE ART OF ROBERT McGINNISアート オブ ロバート・マッギニス:THE ART OF ROBERT McGINNIS
(2014/12/05)
ロバート・マッギニス、アート・スコット

テーマ : イラスト
ジャンル : 学問・文化・芸術

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苑田 健

苑田 健
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