楠木ともり/やぎぬまかな『ビター・エスケープ』
ビター・エスケープ
メディアミックス企画『バンめし♪』OP曲
歌唱:楠木ともり(「栗花落 夜風」役として)
作詞・作曲:やぎぬまかな
演奏:侍文化
発行:コナミデジタルエンタテインメント 2018年
『ひなビタ♪』につづく、コナミによる音楽配信企画の楽曲である。
いわゆるキャラソンだ。
声優の楠木ともりが歌うバージョンを中心に書こうとおもう。
作曲者のやぎぬまかなは、カラスは真っ白というバンドをやってた人。
僕はよく知らないが、ジャンルは「ファンクポップ」だったそうで、
ブンブン跳ねるベースの上でウィスパーボイスがたゆたう本作の曲調は、
バンド時代の延長線にあるとおもわれる。
あと歌詞は、田舎暮らしの少女の脱出願望をテーマとしている。
いかにもインディーロック調のサウンドに、幼さを強調した可憐な歌声。
相対性理論を連想させられる。
相対性理論のデビューは2007年。
僕が『ハイファイ新書』を聞いたのが2009年1月。
あれから10年だ。
相対性理論は、アニメ文化への親近感を前面にだして成功した。
そして、あっち系のプレゼンスがますます高まる現在からみると、
コロンブスの卵的な発想のバンドだったなあと痛感する。
そこで楠木ともりである。
彼女は、やくしまるえつこにないものを持っている。
たとえば18歳という若さ、とびぬけた顔とスタイルのよさ、
そしてなにより、すでにメインキャラ3名を演じた人気声優であること。
たしかにこれまでも同様の試みはあった。
花澤香菜とやくしまるのコラボとか。
でもざーさんは、パン屋さんめぐりが趣味のリア充お姉さんであって、
授業中に宇宙人の来襲を妄想してそうなタイプではない。
一方でともりるは、アート指向のサブカル少女だ。
イラストを描いたり、イベントのロゴをデザインしたり、作詞作曲したり、
中学時代のいじめ経験にもとづく自作曲を披露したりしている。
真部脩一とやくしまるが提示した先見的なビジョンが、
10年のときを経て具現化したのが、楠木ともりという存在なのだ。
作曲者による歌唱と、ともりるバージョンを聞き比べよう。
けだるく歌う、前者の解釈の深さも捨てがたいが、僕は後者に軍配をあげたい。
まるで耳許で囁かれる様に聞き手に錯覚させる声の透明度、
拙さも役作りとおもえるキャラソンならではのアドバンテージ。
「選択のない未来に」の部分の、前のめりのアーティキュレーションにハッとする。
背伸びして生き急ぐ、なにかを背負ってしまった少女の切迫感が、暴発している。
『幻影異聞録#FE PREMIUM LIVE ~エンタキングダム~』
幻影異聞録#FE PREMIUM LIVE ~エンタキングダム~
出演:木村良平 水瀬いのり 南條愛乃 小野友樹 小清水亜美など
主催:キョードー東京
企画制作:avex music creative/avex live creative
会場:中野サンプラザ
開催日:2016年5月15日
このイベントは、フリートーク・朗読・ライブの三部構成だが、
目玉は言うまでもなく豪華声優陣によるライブパート。
先頭を切るのはゲームとおなじく、黒乃霧亜役の南條愛乃。
黒い衣装がクールだった。
疾走感あふれる『Reincarnation』で一気に会場を沸騰させる。
つづいて織部つばさ役の水瀬いのりが登場。
衣装はノースリーブの水色ワンピ。
キラキラまぶしいアイドルポップで、ホール全体を多幸感で満たす。
曲数は3曲と一番多く、ヒロインらしいヒロインを演じきる。
朗読パートは、チキ役の最年少・諸星すみれの可憐さにスポットライトをあてる。
『幻影異聞録#FE』は女子が輝いているゲームで、
男性キャラはどちらかと言えばサポート役。
木村良平や小野友樹といった男性声優は、
そんな立場を把握した上で、会場に火をつけて煽る。
観客は男性声優目当てなのか、意外と女性客が多かった。
いかにもゲームは未プレイっぽい、熱心な南條愛乃ファンも見受けられた。
でも、僕が見たのは夜公演なのもあるけれど、ホールの一体感に驚いた。
みな思う存分たのしんでいた。
ハイライトは、ナンジョルノといのすけのデュエット曲『Give me!!』。
クールな霧亜はもっと可愛く、キュートなつばさはもっとカッコよく。
現在ブレイク中の勢いのまま、先輩へぶつかってゆく水瀬いのり。
それを受け止め、ビシッと息を合わせる南條愛乃。
ゲームとリアルが交錯する。
声優に興味ある者なら悶絶必至の瞬間だった。
演技力・歌唱力・ルックス・トークスキル……。
#FEは、水瀬いのりとゆうパフォーマーの潜在力を底の底まで引き出す。
しかもゲームのリリースが、本人の歌手としてのキャリアとぴったり重なり、
このイベントもヒロイックな物語の一部である様な錯覚にとらわれる。
幸運で、幸福な作品だ。
Maison book girl『snow irony』
snow irony
Maison book girlのアルバム『bath room』収録曲
作曲:サクライケンタ
発行:ekoms 2015年
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コショージメグミの吐息まじりの歌声で、しっとりと曲がはじまる。
内省的なアイドルポップだ。
ブクガは「矢川葵のルックス」とゆう飛び道具をそなえる。
こんなに可愛い女の子が存在していいのか不安になるほどの。
カメラの前で遠くをみつめる表情。
天性の才能だろう。
見ためは文学少女だが、松浦亜弥と松田聖子に憧れるアイドルオタで、
甘い声質は曲のアクセントとなり、ライブでは一番客を煽る。
現代音楽のスティーヴ・ライヒに影響をうけた、
変拍子を多用するサクライケンタの音作りも彼女らの強み。
5曲目「snow irony」中間部の5拍子パートでは、
10拍で1ループする主旋律を2拍遅れで輪唱するという
(『Discipline』期のKING CRIMSONや90年代以降のマスロックに通じる)
アレンジが施され、しかもそれが少しも小難しくなく仕上げられています。
僕は楽理はわからない。
ただ和田輪以外のメンバーも、カウントできず感覚で踊ってるらしいから、
聞き手としては「なんか気持ちのいい音」とゆう解釈で十分ではないか。
BiSで横浜アリーナも経験しているコショージメグミと、
秋葉原ディアステージ出身の和田輪は別として、
ほかのふたりは歌唱審査なしでブクガに参加した。
矢川 : 歌もダンスも何もやってって言われることもなく、
喫茶店でちょっと喋って「東京来れますか?」みたいな感じで、
受かっちゃった感じです(笑)。
最初に唯ちゃんと初めて会った時にそのこと話さんかったけ?
井上 : 「歌った?」って。
矢川 : 「やばいよね」って話をしました(笑)。
OTOTOYのインタビュー
じっさい歌唱力は低い。
南波 : 最初の4人を選ぶときは声とか歌ってどれだけ考えていたんですか?
サクライ : そんなに考えていないです。見た目と雰囲気で。
ヴォーカルはどうにでもなるだろうと思っていました。
南波 : 実際、フタを開けてみていかがでしたか?
サクライ : ひどいです。
LoGiRLのインタビュー
ブクガの突拍子もなさを物語るエピソードだ。
耳の肥えた音楽ファンに訴求する尖鋭的な楽曲と、
極端にヴィジュアルに特化したマネージメント。
矛で盾を突き破る様な逸脱ぶり。
〈ふふふふんふふふふん知らない〉って歌詞があるんですよ。
その「知らない」って部分をライヴで言い切ると、
なんとなく気持ちがいいから好きなんです(笑)。
〈そんな世界さえ愛すの?〉って難しいことを考えてたくせに
〈知らない〉って投げやりになるところが、
なんとなく自分もそうなるので「言ってやったぜ!」って気分になりますね(笑)。
OTOTOYでの矢川葵の発言
2月13日の渋谷Star loungeでのライブで、
僕はジントニック一杯だけで異世界へトリップした。
実在を疑いたくなるほどの美少女(もうすぐ22歳だが)に目の前で、
「許さない許さない許さない許さない許さない」と冷酷に断罪されたら、
だれだって全面降伏するだろう。
不条理として提示される、虚ろな官能。
それがMaison book girlだ。
水瀬いのり『Milky Star』 ドラマCD『√HAPPY+SUGAR=IDOL』主題歌
【画像をクリックするとYouTubeに飛びます】
Milky Star
水瀬いのりの楽曲
ドラマCD『√HAPPY+SUGAR=IDOL』主題歌
作曲:カヨコ
作詞:分島花音
発表:2015年
8月8日、六本木のニコファーレで催されたニコ生のイベントに、
声優の水瀬いのりがミニハットをつけて登場。
「きょうは……すごい女の子がいっぱいで、幸せです!」
いつもと客層が正反対なのは、乙女ゲームのRejetのイベントだから。
観覧者は男性声優目当てに集っている。
アウェー戦と言ってよく、出演者としては守りに入るのがセオリー。
「うわぁ、ピンクの色もありがとう……嬉しいです~」
30秒ほどの短いMCで煽られる観客。
いのすけは猛烈な頭の回転の速さを感じさせる。
ジュニアアイドルのキャリアで場慣れしてるのもあるか。
マスコットキャラの「さとぅ」が闖入。
それでも息の合ったダンスをみせる。
「甘い甘いミルキーウェイ 光る恋のスピカ♪」
360度をかこむLEDモニターがキラキラ輝き、まさにそこは乙女の夢の世界。
この日彼女は、イベントを掛け持ちしていた。
『Milky Star』はこれが初披露、そもそも楽曲を単体でリリースする予定もなく、
最高のパフォーマンスでなくても辯解可能だが、完璧なそれを見せた。
「乙女系」の宇宙での自分の立ち位置を把捉、天体望遠鏡のレンズみたいに、
無色透明で最大公約数的な女の子を演じきっている。
アニメとゆう背景を保ちつつ、顔出し仕事も積極的におこなう今の声優は、
「2.5次元」の存在と評されたりする。
なかでも水瀬いのりは、水樹奈々を崇拝し歌手指向が強く、
アイドル・藝能人の定義の更新を迫るミステリアスな人だ。
言うなれば「2.7次元」?
私はイベントで皆さんにお会いして楽しい時間を過ごすことも
素敵だし楽しいと思っていますが
やっぱり自分の軸にある第一の希望としては
自分が声を当てたキャラクターや作品をずっと好きでいてもらうこと。
だからこれからも*声*でたくさん恩返ししていきますねっ。
しかしブログでは「2.3次元」的発言が。
悩ましい。
要するに、次元数にこだわる僕の頭が古いんだろう。
西部劇で有名なジョン・ウェインは駆け出しのころ、自分が無能な役者だと悟り、
日常生活の話し方や歩き方までタフガイらしくふるまうことで、
「ジョン・ウェイン」とゆうキャラクターを独力でつくりあげた。
現代日本では「水瀬いのり」の神話が、全次元を包摂する勢いで進化している。
佐倉アディクション 『矢作・佐倉のちょっとお時間よろしいですか』第129回
矢作・佐倉のちょっとお時間よろしいですか 第129回
パーソナリティ:矢作紗友里 佐倉綾音
構成作家:小林洋平 さいとうしゃん
ディレクター:森葵
配信サイト:超!A&G+
配信日:2015年3月18日
[第123回の記事はこちら]
収録日は暑かったらしく、佐倉綾音がしきりに髪をバサバサする。
黒髪ショートボブがトレードマークの声優で、肩にかかるまで伸びたのは久しぶり。
21歳、そうゆう時期なのだろう。
ふつおたコーナーで、この番組のおかげで恋人ができたとリスナーが報告。
恋愛スキルが不足ぎみのあやねるのため、おなじシチュエーションで練習する。
プロとおもえぬ棒演技に悪寒がはしる。
彼女に春はおとづれるのか。
先輩後輩の関係についても、まなぶべき点はおおい。
矢作紗友里が貸した、女子むけライトノベル『封鬼花伝』第1巻を、
読まないまま「借りパク」していたことが判明。
あるある。
他人から本をすすめられても大抵迷惑だよね。
でもうまくゴマカさないと。
事務所の先輩として、きびしく指導しなくては。
あやねるは極度の寒がりだが、なぜか収録中は薄着をこのむ。
番組Tシャツを着て横をむくと、たわわなおっぱいが突き出る。
天然のクッションにパイセンがヘッドバット。
カラダばかり発育し、心の成長がおいつかない後輩をたしなめる。
あやねるもやる気満々な新コーナー、「サクラ・ア・ディクショナリー」がスタート。
世間と感覚がズレている彼女の脳内辞書を、リスナーのメールで編纂する。
単語が登録されれば、『家庭教師ヒットマンREBORN!』のED曲として有名な、
『Sakura addiction』(2007年リリース)がながれる。
最初のメール。
「【友達】 絵空事。幽霊の様なもの。架空の存在」
いきなりキツイのがきた。
コミュ障のぼっちキャラとはいえ、5年におよぶキャリアで築いた人脈がある。
りえしょん・のじょさん・みかこし・まれいたそ・いのすけ・ペ氏……。
かずかずの仲間の笑顔が脳裏をよぎる。
彼女たちは裏切れない、でも曲は聞きたい、いや聞かせたい。
……りえしょん、ごめん。
「登録されてまーす!!!」
桜咲く 舞い落ちる
何も無い ぼくの手の上
儚くて 優しくて
壊れそう きみみたいな花
浜松町のオフィス街に、開花予想よりはやく桜吹雪が舞う。
蕾のまま枯れてもかまわない。
そうのぞまれているのなら。
あやねるの予測不能な言動が、巷に中毒患者をはびこらせる。