親米左翼とゆう視座

『干物妹!うまるちゃん』第10話(テレビアニメ/2015年)

 

 

2015年4月に発表された日米防衛の「新ガイドライン」で、

日本政府は作為的翻訳をおこなっている。

たとえば、supplementを「補足する」でなく「補完する(本来はcomplement)」と、

mayを「してもよい」でなく「できる(本来はcan)」と訳した。

誤訳や意訳などではない。

米軍が日本防衛に加わる印象を強めるためのトリックだ。

 

2010年に外務省が、鳩山とオバマの会話内容を読売新聞に漏らしたとか、

春名幹男『仮面の日米同盟』(文春新書)は政府の無軌道ぶりの記録が満載で、

読んでいて無力感におそわれた。

なぜこんな理不尽がまかり通るのかと。

 

 

 

 

「在日および在沖縄米軍基地はほとんどすべてが

米軍の兵站の目的のためにあ」ることを忘れてはなるまい。

そんな日本の地政学的な価値を最も熟知しているのはアメリカであって、

認識が最も浅いのは日本人自身かもしれない。

 

ペリー提督来航から、アフガニスタン・イラク戦争にいたるまで、

アメリカは日本を「物資補給の有力な拠点」としか見做してない。

これだけ尽くしているのだから、すこしは信用してくれてもいいのに、

やつらのわれわれへの評価は、倉庫の管理人程度のもの。

 

1971年の沖縄返還協定で、法理論をアクロバティックに駆使し、

尖閣諸島の領有権争いに中立を決めこんだアメリカの狡猾なふるまいは、

「そもそも何のための安保か」とゆう問いを日本人に突きつける。

 

 

 

 

誰が泣こうが喚こうが、アメリカは自国の利益を追求するし、中国は膨張する。

日本は太平洋の荒波にもまれながら舵取りせざるをえない。

説明責任を放棄した政府のもとで。

これが手詰まりでなければ何なのか。

 

そこで、エマニュエル・トッドが『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる』で語っていた、

「親米左翼」とゆう視座をおもいだす。

 

実際私は、ヨーロッパにおけるアメリカの優位は、

政治体制としてのデモクラシーがそうであるように、

さまざまな解決策の中で最もマシなものだと考えています。

われわれの大陸がどれほどのイデオロギー的崩壊の中にあるかと思えば、

致し方なしというところです。

 

イデオロギーの死んだアジアの中心で、デモクラシーを叫ぶ。

左翼思想を保持するためアメリカをうけいれ、餌をやり、鎖につなぎ、

行儀が悪ければ叱り、番犬として飼いならしながら、つつがなく隣人とつきあう。

それができるのは親米左翼だけ。






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エマニュエル・トッド『シャルリとは誰か?』

『ストライクウィッチーズ Operation Victory Arrow』Vol.3「アルンヘムの橋」(2015年)

 

 

シャルリとは誰か? 人種差別と没落する西欧

 

著者:エマニュエル・トッド

訳者:堀茂樹

発行:文藝春秋 2016年

レーベル:文春新書

公式サイト/同著者の『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる』

 

 

 

エマニュエル・トッドは情け容赦ない。

 

1月7日の17名の死は本当に、

ワールドトレードセンターの2977名の死に匹敵しただろうか。

感情過多だとしてかくもしばしばバカにされるアメリカ以上に、

フランスは過剰反応した。

いったいぜんたい、2015年1月11日、合理主義的で皮肉のセンスが

あるはずのフランス精神はどこへ行ってしまっていたのだろうか。

 

風刺週刊誌の社屋への襲撃を、瑣末な出来事だと斬って捨てる。

そしてイスラム恐怖症をばら撒く元兇は、ウエルベックの小説を読む様な、

一見穏健そうな、中産階級に属する中高年の人々だと統計にもとづき論證。

 

 

 

 

トッドはサルコジ嫌いの左翼だが、社会党に甘くない。

社会党は「差異」を強調し、移民の子供がネイションの一員となるのを拒み、

経済的・政治的・文化的に隔離していると説く。

フランスの本質は、中産階級の中産階級による中産階級のための福祉国家だ。

決して、1%が99%を牛耳っているのではない。

 

(フランソワ・オランドは)ゾンビ・カトリシズムの完璧な体現者だ。

彼はカトリック教徒のゾンビというもののウェーバー的な意味における

理念型と見做されてもよいだろう。

 

 

 

 

若い世代でイスラム教徒に分類されるフランス人は、人口の10%を占める。

ここまで食い込んだ集団と「対決」する体力はフランスにない。

受け入れ、同化させるしかないし、イスラム教徒の方もそれを望んでいる。

かつてカトリック教会をスムーズに世俗性へ取り込めたのだから、できるはず。

 

 

 

 

中産階級の中高年は、ますます年老いてゆく。

ますます幼少時代のノスタルジーに浸り、現実から視線を逸らすだろう。

 

フランスを批判するのは、

そうすることがフランス市民としての自分の義務と考えるからであり、

また、フランスがひとつの人類学的ケースとして特別に興味深く、

他のさまざまなネイションの現実を考察する上でも

非常に参考になると思えるからです。

 

優先すべきはシリアへの空爆でなく、都市郊外の、労働階層の荒廃の救済だ。






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矢野耕平『女子御三家 桜蔭・女子学院・雙葉の秘密』

(イラスト:平井さくら)

 

 

女子御三家 桜蔭・女子学院・雙葉の秘密

 

著者:矢野耕平

発行:文藝春秋 2015年

レーベル:文春新書

 

 

 

左から順に、東大合格者数と制服のダサさで名を轟かす桜蔭、

私服通学で自由放任の女子学院(通称JG)、

セーラー服が憧れの的となっているお嬢様校の雙葉。

 

女子校文化を知らねば、日本は理解できない。

本書は「女子御三家」について学ぶための参考書だ。

 

 

 

桜蔭といえばジャンパースカートの制服。

夏服と冬服のデザインがほぼ同じなのも、野暮ったさを増幅する。

あまりにダサすぎ、どんなに可愛い子が着ても可愛くならないので、

最初は抵抗する生徒たちも、高2くらいになると諦めてしまう。

 

桜蔭生がオシャレのかわりに熱中するのは勉強。

先生の人気は話のおもしろさでなく、授業のレベルで決まる。

修学旅行でさえ事前に徹底調査し、学びの場とする。

東大寺のガイドは彼女らの知識量に恐れをなし、

「桜蔭が来る」となれば毎年勉強し直すのだとか。

 

 

 

JGは制服がない。

ほかの私服通学の女子校は大抵スカート指定だが、それすらない。

化粧も許される。

 

行事や部活も生徒主導。

JGのクラブ活動は「部」でなく「班」とよばれ、

練習メニュー・スケジュール・荷物の手配など全部自分でやる。

顧問の先生は顔を出さないのが当たり前。

対外試合で、先生に叱られる他校生を見るとカルチャーショックをうける。

 

ただし、学年間の上下関係はきびしい。

自由とゆう伝統を守るには秩序が必要だ。

そんなこんなで、JG生の多くは先輩に恋してしまう。

自立した立ち居振る舞いがまぶしすぎるから。

 

 

 

雙葉は、幼稚園からの一貫教育をほどこすのが、他の二校とちがう。

それゆえ内部生と外部生の軋轢、イジメなどが発生する。

担任の教師を標的にして辞めさせた事例まであるとか。

 

比較すると、桜蔭やJGほどの個性はない様だが、

先輩に恋する文化は雙葉にも勿論ある。

 

 

 

 

 

 

豊島岡女子学園などの台頭で、「女子御三家」の地位は揺らいでいる。

時代遅れの幻想となりつつある。

それでもやはり彼女らは、僕たち私たちが憧憬する存在。






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2015: The Year Democracy Arose

 

 

音楽だったらフルトヴェングラー、美術だったら藤田嗣治などが、

悪しき体制に加担したと戦後槍玉に上げられたのは気の毒だけど、

「黙認」が罪とみなされるリスクを考慮すべきだったろう。

 

一方2015年の日本で、体制に対し自己主張する書物があられている。

 

 

 

 

まづは山崎雅弘『戦前回帰 「大日本病」の再発』(学研マーケティング)。

著者はミリタリー業界の人で、政治的な著作は皆無だが、

もはや戦車のことばかり考えてられない時代だ。

 

日本の戦争遂行システムの異常さが本書のテーマ。

戦争目的である「国体護持」が、国民の生命より優先されたのを批判する。

文部省による合理主義・実證主義・個人主義の否定などを指摘。

 

国民を個人として認めず、国全体をひとつの有機体とみなし、

天皇がその核心部分を占めるシステムを確立した。

エヴァンゲリオンの「人類補完計画」に似ている。

 

 

 

 

国家神道/人類補完計画は、戦後もずっと進展しつづける。

1969年に自民党が「靖国神社法案」を国会へ提出したり。

安倍晋三は、この線路上で踊る傀儡にすぎない。






 

 

 

 

つぎは原武史『「昭和天皇実録」を読む』(岩波新書)。

日本とゆう有機体の核心についての本。

 

2013年に、山本太郎による今上天皇への直訴が話題となったが、

昔は日常茶飯事で、1928年ごろは毎月の様に起きた。

戦後、昭和天皇はしょっちゅう襲撃されている。

パチンコ玉を撃った奥崎謙三が有名だが、ほかにもいろいろ。

 

息子は恵まれてる。

手紙でもなんでも、ぶつけたいものはドシドシぶつけよう。

 

 

『ハワイ・マレー沖海戦』(日本映画/1942年)

 

 

ミッドウェーでの敗北以降の戦局悪化のなか、

『ハワイ・マレー沖海戦』みたいな戦意高揚映画で自分を慰めたり、

比較すると特攻作戦がマトモに見える沖縄への逆上陸作戦を提案したり、

負け戦の司令官の哀愁が漂っていて興味ぶかい。

 

戦後は憲法改正について意見を述べる。

朕の統治権が奪われるのはよろしくないと。

懲りてないってことは、自分なりに満足できる戦争指導だったらしい。






 

 

 

 

最後に、高橋源一郎×SEALDs『民主主義ってなんだ?』(河出書房新社)。

SEALDs創設メンバーである奥田愛基の印象が強烈。

デモを撮影するのでも、アディダスの店の前を通るときはヒップホップとか、

あとで編集してYouTubeへアップロードする作業を想定して計画。

なお、大学生はBPM90くらいのヒップホップでアジるが、

高校生が好むのは150くらいのEDMで、ついてくのが大変とか。

 

転機は5月14日の閣議決定。

むかっ腹を立てた奥田は「自分ひとりでも官邸前で抗議する」とツイート。

SEALDsは本来2016年の参院選に向け発足した組織だが、

感情が飛び火してワサワサと1500人あつまった。

 

 

 

 

「本当に止める。」のキャッチコピーは、あえて変な文法をもちいた。

たとえば「絶対に止める」にしたら日本代表みたいでダサいし、嘘っぽい。

スピーチでも「我々は平和を愛し」なんて言わない。

主語は単数形にして、日常会話へちかづける。

 

民主主義や平和みたいなレアトラックをサンプリングし、

現代のBPMにあわせループさせる。

怒りと希望のビートがズンズン腹に響く。






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施光恒『英語化は愚民化 日本の国力が地に落ちる』

 

 

英語化は愚民化 日本の国力が地に落ちる

 

著者:施光恒

発行:集英社 2015年

レーベル:集英社新書

 

 

 

東大理学部化学科では2014年10月から、英語のみで授業をおこなう。

目的は留学生を呼ぶためで、日本人学生の研究の質を高めることは想定しない。

中学や高校でも「英語のみ」の授業が広まっている。

言語教育の専門家に「ネイティヴに教わるのが一番なんて幻想だ」と批判されてるが。

 

政策決定者たちは、それは「社会からの要請」だと主張するけれど、

より正確に「財界からの要請」と言い直すべきではないか?

目先のカネをもとめ社会が変質している。

たとえばTOEFLの受験料として、毎年数百億円がアメリカに流れる。

 

怪しい「クールジャパンムーブメント推進会議」が提唱する「英語特区構想」などは、

「狂うジャパン」と題した方がふさわしかろう。

 

 

 

 

日本人が英語下手である理由は、それこそ「社会からの要請」。

ずっと輸出に依存しない内需中心の経済だったから、身につける必要がない。

 

グローバル化や英語化を礼讃するのは、団塊またはポスト団塊の世代。

かれらは高度成長期に故郷を離れ、豊かな生活を謳歌する経験をあじわった。

「日本→世界」の流れは「田舎→都会」にちょっと似ている。

 

あと根っからマルクス主義に洗脳されてるので、進歩史観もなじみやすい。

 

 

 

 

見方によれば、近代日本が抱える宿痾でもある。

初代文部大臣をつとめた森有礼は英語公用化を主張していた。

「西洋語でないと立派なスピーチはできない」などと言う雑駁な議論は、

福澤諭吉に「坊主の説教も寄席の落語もスピーチだろう」と嘲笑されたが。

 

一方で東京専門学校、のちの早稲田大学は、

お雇い外国人に頼らない「邦語による教育」の理念を打ち出すなど、

明治はアンビバレントな時代だった様だ。

 

 

 

 

現代の韓国人は、ノーベル賞受賞者数で日本に水をあけられる状況を省み、

翻訳書がすくなく、英語教材で科学研究をせざるを得ない点に原因を求める。

 

ワロン語圏とフラマン語圏の対立が先鋭化し、

国政の停滞を招きがちなベルギーなどの事例もあり、

世界はむしろ国家と母国語のむすびつきに注目している。

 

英米人がこの惑星を牛耳り、英語習得者がその手先となり虎の威を借る、

まるで宇宙戦争みたいな悪夢も、あながち杞憂とは言えない。






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