橙夏りり『コスプレ地味子とカメコ課長』
コスプレ地味子とカメコ課長
作者:橙夏りり
掲載誌:『まんがタイムスペシャル』(芳文社)2018年-
単行本:まんがタイムコミックス
[ためし読みはこちら]
「紫ノ井小鈴」は、地味ないわゆる事務職のOLだが、
週末になるとガチのコスプレイヤーとして活躍している。
ところがある日、イベント会場で「織部課長」と出くわし、
絶対に秘密にしておきたい趣味を、よりによって上司に知られてしまう。
課長はガチのカメコだった。
秘密を守るかわりに、もっとコスプレ写真を撮らせろと要求。
パワハラ案件と言えなくもないが、紫ノ井さんは断れない。
課長のカメラの腕がよくて、キレイに撮ってもらえるから。
そんな揺れる女心をコミカルに表現している。
「逢瀬」を重ねる紫ノ井さんと課長を、同僚は怪しみ始める。
USBメモリをこっそり手渡すのを目撃したときは、
一体どんな「プレイ」をしてるのやらと色めき立つのだった。
仕事終わりに雨が降り出したので傘を使おうと思ったら、
撮影用の番傘だったりとか、コスプレあるあるネタ(?)を、
タイム系4コマらしくお仕事モノに落とし込んでいて面白い。
新人の「泉谷れいあ」は、自己紹介で趣味がコスプレと宣言し、
同じ趣味を必死に隠している紫ノ井さんの度肝を抜く。
コスプレって、いつのまにか世間的にアリになってたのかと。
キャピキャピしすぎないレーベルカラーに合わせる一方で、
女子のかわいさも打ち出す、タイム系4コマの醍醐味をあじわえる。
- 関連記事
はづき『ゆめぐりゆりめぐり』
ゆめぐりゆりめぐり
作者:はづき
掲載誌:『コミック百合姫』(一迅社)2019年-
単行本:百合姫コミックス
[ためし読みはこちら]
東京から温泉地に引っ越してきた女子高生が、
地元の女の子と湯巡りしながら、親睦を深めるワイド4コマ漫画。
「つばき」と「ひより」の出会いは、駅前の足湯だった。
黒髪の少女が、うっとりした表情でぬくもりを堪能する様子は、
あまりに絵になるので、おもわず見惚れてしまった。
勿論、裸形を披露するシーンもたっぷり。
ころころぷにぷにで、つるつるすべすべな少女たちの、
ウェットアンドメッシーな裸の付き合いが描写される。
とはいえ、見どころはやはり足湯だ。
道端ですっとストッキングを脱いで入浴する展開は健全なのに、
ありふれた日常を吹き飛ばすエロスの爆弾となる。
ストーリーはあってない様なもの、というかほぼない。
でも漫画に可愛さを求めるなら、本作は全篇がクライマックスシリーズ。
いろいろな意味でアツいテーマパークは読者を癒やすだろう。
- 関連記事
タツノコッソ『社畜さんと家出少女』
社畜さんと家出少女
作者:タツノコッソ
掲載誌:『まんがタイムきららMAX』(芳文社)2018年-
単行本:まんがタイムKRコミックス
[ためし読みはこちら]
「人の世の住みにくさ」がテーマの4コマである。
辛い残業を終えた主人公「ナル」は家路を急ぐが、
満員電車の周囲からはカシュッカシュッと、
ストロング系チューハイの缶を開ける音が聞こえる。
みんな疲れているのだ。
ナルが早く帰りたかったのは、自宅マンションで美少女が待ってるから。
学校制服にエプロン姿の「ユキ」は、
家出してナルのところに身を寄せて2週間になる。
まるで初々しい新婚家庭みたいだ。
ふたりは、今日あった出来事についてとりとめもなく話したり、
一緒にキッチンでおつまみを作ったり、楽しい夜をすごすが、
それでもナルはストロングなチューハイを我慢できなかった。
社畜としての生活は、飲まなきゃやってられない。
以上が第1話の流れで、状況説明の巧みさが伝わったとおもう。
居候の身なので甲斐甲斐しく家事をこなすユキは、しっかり者。
オフではだらしないナルに小言をいうこともしばしば。
でも親とうまくいってない孤独感から、ときどき甘えてくる。
そんな家出少女のツンデレっぷりを愛でる作品でもある。
第4話はデート回。
「好きな相手の見慣れない服装にドキドキ」というお約束の展開は、
同居してる関係では難しいが、ひねりを利かせて印象的なシーンに。
ふたりの出会いや、ユキが抱える悩みについては、具体的に描かれない。
おそらくナルは、大学時代に家庭教師をやっており、
精神的に追い詰められた教え子のユキに同情し、
就職したら彼女のための居場所をつくると約束したらしい。
作風は『ゆゆ式』の影響が強いが、ざくりと心を抉る情緒性は、
それとは別のストロングなエモーションを提供している。
- 関連記事
おりがみちよこ『河原課長とギャル部下ちゃん』
河原課長とギャル部下ちゃん
作者:おりがみちよこ
掲載誌:『まんがホーム』(芳文社)2018年-
単行本:まんがタイムコミックス
[ためし読みはこちら]
42歳でまじめな「河原」と、18歳のギャル系新入社員「レナ」の、
相性最悪なコンビネーションをたのしむ、お仕事もの4コマである。
レナの言動からは、いまどきのギャルの生態を学べる。
出社前にカフェに行き、パンケーキの写真をインスタにアップしたり。
そしてレナは、小言の多い河原になぜかべったりと懐く。
同僚たちは当然、ふたりの関係を怪しみ始める。
ただしレナの内面は、明瞭に表現されない。
過去に何があって、将来どうしたいのか、よくわからない。
妖精みたく河原を翻弄する存在として描かれている。
おそらく「ギャル」とは本来そういうものだろう。
過剰なメイクは、ヴァルナラブルな心を護る鎧だ。
よって本作のカメラは、河原にぴたりと寄り添う。
ときおり見せるセクシーな表情も逃さない。
作者がBL畑の人なのも関係してるだろうし、
掲載誌がタイム系の『まんがホーム』なのもあるだろう。
同じ芳文社でもきらら系なら、決してヒロインから焦点を外さない。
そんな微妙なバランスが、独特の味わいを作り出すのに貢献している。
- 関連記事
松阪『大奥より愛をこめて』
大奥より愛をこめて
作者:松阪
掲載誌:『まんがタイムオリジナル』(芳文社)2018年-
単行本:まんがタイムコミックス
[ためし読みはこちら]
第11代将軍・家斉時代の大奥を舞台とする、歴史もの4コマである。
金髪碧眼の「蒔乃」が新しい女中としてやって来るのが、物語の始まり。
さっそく蒔乃は新人イビリの洗礼をうける。
有名な「裸踊り」である。
実在を疑われてはいるが、捨てがたいエピソードだろう。
御台所(正妻)の「寧姫」は、引きこもりのコミュ障として描かれる。
家斉とは幼なじみの関係だが、結婚後も実事はなく、
側室が懐妊したという知らせを聞いて気落ちしてしまう。
お付きの女中が気を利かせて人生ゲームで遊ぶが、むしろ逆効果に。
大奥ならではの華やかさを、ワイド4コマ形式で演出する。
僕のお気にいりは、眉が特徴的な寧姫の部下。
武家の女らしい凛とした言動がいい。
漁色家の家斉に仕える以上、身分の低い蒔乃も「お手つき」になりうる。
しかし本人は故郷に想い人がおり、床入りには否定的。
本作は、将軍家の血統維持を目的とする機関において、
いかに純情でありつづけられるかというテーマがある。
寛政の改革で知られる松平定信が、大奥を敵視する悪役として登場。
将軍などは、幕政を司るための単なる道具とみなし、
家斉と寧姫の幼なじみの恋を踏みにじる。
やたらと家斉が女に手を出したのは、寧姫を守るためだった。
たしかに幕府主導の婚姻政策は、安定した統治に有効だったが、
大奥での浪費が財政を圧迫したのもまた事実。
功罪半ばであり、そこに歴史ものとしてのドラマが生まれる余地がある。
- 関連記事