竹内桜『特命高校生』
特命高校生
作者:竹内桜
発行:白泉社 2000年
レーベル:ジェッツコミックス
[同作者の記事→『赤龍の乙女』/『ステューディオ5』1巻/2巻]
転校初日。
二卵性双生児の兄妹が教室へはいると、歓迎どころか怯える反応が。
突然、床が陥没。
ここから立ち去れと警告するみたいに。
「薫」と「千春」の「茗荷(みょうが)兄妹」は、陰陽道をおさめた退魔師。
教育委員会の依頼で、霊障が多発する進学校を内部調査しにきた。
本作の連載開始は1998年。
大ヒットした映画『陰陽師』(2001年)に先駆けている。
『赤龍の乙女』もそうだが、竹内桜の古代アクションものは絶品。
漫画界の技術的進歩はめざましいのに、16年前の絵はふるびておらず、
むしろ今日の指標にてらしても最高水準では。
ドラマチックな風景の切り取りかたに、おもわずうなる。
キャラの造形も申し分ない。
お調子者の薫が、無口な自殺願望少女にちょっかいだしたり。
妹の千春はデキがよい。
呪術をあやつり、校内で暗躍する不逞の輩をおいつめる。
ボクがすきなのは第2話。
また別の高校へうつった千春が、チャラい教師からセクハラぎみに絡まれる。
美術教師とゆう職業の胡散くささがリアル。
「広末涼子や田中麗奈に似てる」なんてセリフがなつかしい!
放課後の廊下をはしる、首なし馬と裸形の娘。
このあざやかなカットは脳裏にやきついている。
「……手は出していたのね!?」
馬上の霊は生前、ここの生徒だったころ、好色教師とつきあっていた。
マジメな千春はつめたい視線で、責める様な口調。
そんな彼女の、男女の機微をしらないウブさが、予想外の結末へつながる。
魔力をもつ巨大なヒヒから、人身御供にされた少女をまもるため、
山村にこもって頭脳戦をくりひろげる、第3話もおもしろい。
妖怪がちかづけないよう、家屋を符でかためたが、そとから兄のくるしげな声がきこえる。
血までながれてきた。
「おにいちゃ…」
罠をうたがうも、衝動的に戸をあけてしまう。
千春は優等生ゆえ、そのやさしい心が弱みとなる。
「呪術バトル」と「兄妹もの」の勘所をおさえたストーリーに血がさわぐ。
十数年たち、広末涼子も田中麗奈もボクも、すっかりイイ歳になった。
当時の映像をみればカワイイとおもうが、それ以上に時の流れがやるせない。
だが千春は、たとえ単行本の紙質が黄ばんでも、信じがたいほどうくつしい。
時代を先取りしすぎたか、一巻で打ち切られた不幸な傑作だけど、
特命おびた双子にまたあう日を、ボクは切望しつづけている。
![]() | 特命高校生 (ジェッツコミックス) (2000/01) 竹内桜 |
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竹内桜『ステューディオ5』完結
ステューディオ5
作者:竹内桜
発行:白泉社 2012-13年
レーベル:ジェッツコミックス
[1巻の記事はこちら]
別にくわしくないがあえてゆうと、史上もつとも「うまい」漫画家は竹内桜でないか。
第2巻をもち完結した、女子小学生日常もので検證する。
縄跳びに興じる姿をみつつ、「なにげにウチの女子ツブそろってね!?」と論評する男子連。
あやしくみだれる手足。
ちらちらのぞく内腿、スカートの裏地、スリップの裾。
脳裏をよぎる奥の木綿のきらめき。
でも、なによりあざやかなのは、デコボコの靴裏。
一輪車は永遠のロリアイテム。
サドルとのむにむにな接触をたくみにえがく。
漆黒の天井が、みあげる構図を強調。
とめどなき美少女崇拝。
あらたなスク水は、スカートつきのセパレートタイプ。
5年におよぶ連載で流行もかわるが、アップデートし食らいつく。
スポーツ万能の「あきら」は機能性に不満。
「みゆきち」みたいなハーパンタイプにしとけばよかつた。
スカートをめくるときのめざましい明転。
モノクロームの魔法。
消しゴムをひろうとき、つい机のしたへ目がゆく。
ホント、どうしてみてしまうのか。
黒板にかかれた英文は、小学校の水準をこえ、呪文にみえる。
ありえないが、ありえなくもない、マジックリアリズム。
『赤龍の乙女』や『特命高校生』で、古代史や呪術をとりあげた作者ならでは。
悪気ないのに「……わざと!?」とうたがわれる。
汚物をみる目つき。
高学年女子は絶対権力者。
図書室で「エマ」が高みから御託宣。
「男の子ってそんなに女子のパンツ見たいモンなの!?
スーパーで三枚¥750で売ってる、ただの女児パンツだよ!?
こっちとしてはガッカリさせられたくないんだよね……男子には。
一応、男の子に理想のようなモノも持っているワケだし。
特にウチは男親いないし……。
素直に見せて下さいって言えば、こんなモンいくらだって……」
なぜボクらはパンツをみたいのか?
議論は多岐にわたり、ここでまとめるのは手にあまるゆえ、結論だけのべる。
それは癒しの白魔法だから。
紙のうえのインクのしみが、世界をうつし、倫理をこえ、哲学をかたり、宇宙の法則をねじまげる。
リアルな幻想を炸裂させてこそ漫画で、その点だれも竹内桜にかなわない。
次回作もたのしみだし、妹ものの最高傑作と信じる『特命高校生』について、いづれ書きたい。
![]() | ステューディオ5 2 (ジェッツコミックス) (2013/08/29) 竹内桜 |
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竹内桜『ステューディオ5』
ステューディオ5
作者:竹内桜
掲載誌:『ヤングアニマル増刊あいらんど』(白泉社)2008年~
[単行本は「ジェッツコミックス」として、第一巻まで刊行]
これだからゆとりは。
肝心の内容は、ある程度の知識がないと全くついて行けない内容。
「見てわかる」というのが漫画というメディアの持つ最大の能力だと
思うのだが、あれこれ補足説明を入れないと理解できないというのでは
漫画である意味が無い気がする。
酒呑童子とか、その辺に詳しい人が読めば楽しめるのかもしれない。
Amazon.co.jpへの「どす恋」のカスタマーレヴュー
古代の英雄と魑魅魍魎を当世に召喚し、
はげしくアクションさせつつ、洗練された画風で萌えくるわせる、
硬軟織りまぜた傑作、竹内桜『赤龍の乙女』によせられた駄文。
おのれの愚鈍を、作者に責を負わせ、「★★☆☆☆」。
世も末だ。
学級崩壊がはびこり、ついに国家崩壊にいたつた。
瓦解する日常。
廃墟と化す小学校。
調理実習で仲間はづれにされたのを怨み、教室でフテ寝する「ちより」。
「愛してる」云々は性愛につゆとも発展しない。
百合は空気、健全なおゆうぎ。
身体測定まえの着がえで、距離をおかれる「はむちやん」。
『ステューディオ5』は、日本の原風景をたづねる旅。
見たことはないが。
「斉藤さん、144センチ」
身長計すら、詩的でありうる。
音楽祭へむけての練習。
作者の好調がつたわるモノクロームのセッション。
クールに白熱する。
冒頭から登場する、膝のうえの変な生き物は、まつたく説明されない。
名前すら明示されない。
そこがよい。
「見てわかる」ものしか消化できないバカスタマーは、
ワンピースでも読んでやがれ。
お気にいりは、寝ぼけ眼の「みゆきち」。
白い御飯が苦手なのに共感。
昼休みまえの拷問。
糖質制限によつて減量をはたした経験にもとづきかんがえると、
学校給食制度はファシズムだ。
「米という字は八十八の手間がかかるのが由来で、
一粒でものこすとお百姓さんに申しわけないですよ」
教師はペテン師。
言語学風のデタラメをかたり、いらない食事をおしつける方が、よほど悪徳だ!
マイふりかけという解決策。
シャカシャカと先生を買収する。
学級腐敗。
漫画はある種のふりかけだ。
教科書的で強制的な、味気ない世界を、穏便に変革する。
机の下にひろがる、ボクらだけのネヴァーランド。
この前衛漫画は、ハトポポコ『平成生まれ』と併読したい。
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竹内桜『赤龍の乙女』
作者:竹内桜
発行:集英社 2009~2011年
[JC.COM]
漆黒の制服をまとい、真剣をたづさえる。
支配者養成学校「御堂学園」の生徒たち。
放課後のつどいに遅れて参じたるは、
アホ毛以外は世間並の女子高生、坂田萌(さかた・めぐむ)。
遭遇戦がはじまる。
JKの神器、ケータイをめぐり。
御堂学園、フリルつきの白いニーソックスが目印の碓井貞光が、
萌のみぞおちに柄をねじこむ。
変哲ないファミレスが、一瞬で戦場に。
でも女なのに、名前が「貞光」つておかしくない?
それには理由があるので、単行本でたしかめてほしい。
この一戦は、どうにか防衛に成功。
見た目はさえないが、怪力の持ち主だ。
今度は自宅を急襲される。
百合という暴力。
なぞのゴスロリ少女・英莉華につれられ、明治神宮前駅をでる。
服の嗜好を染められて。
『ぼくのマリー』『ちょこッとSister』などのヒット作でしられる竹内桜は、
実に四半世紀の藝歴をほこる漫画家だが、
だからこそ当節の流行など、いともたやすく取りいれてしまう。
たつた三人で原宿を占領。
「ぷっは ツンデレ!? やっべ モノホン初めて見た」なんて、英莉華のセリフが小憎らしい。
…ってゆーか あたしと一緒に来る気 無い!?
このクソったれの為の クソったれた世界 壊す為にさ!?
あんた このまま一生懸命 生きた所で
間違いなく 一生 底辺だよ!?
あんたには もう 浮かぶ瀬は無い――
時代の空気を呼吸したつぎのページで、時代を完全否定する。
この毒々しさこそ、竹内桜だ。
そこに前ぶれなく貞光が突入!
斬新かつ精緻な作画は、一平方ミリメートルの隙もない。
国家をゆるがす陰謀の渦中に飲まれた萌たち。
作者にまつわる「ヌルいラブコメ作家」という評価は、
世をしのぶ假の姿と、十分お分りいただけたろう。
鉞(まさかり)かついで金太郎~♪
冗談ではなく、われらが坂田萌は、「坂田金時」の転生者だつた。
その馬鹿力は、故あつてのこと。
緻密な作画、壮絶かつ当世風なアクション、そして古代史マニアの精神。
息もつかせぬ密度の濃さ。
漫画にこれ以上、なにをのぞむのか。
だが悲しむべきことに、掲載誌が廃刊となり、本作は第二巻をもつて終了。
一巻でおわつた傑作、『特命高校生』と同様の運命をたどる。
大衆はとかく俗を好むし、まして漫画に藝術的達成などもとめない。
作家が本性をあらわしたら、商売にならない。
終幕。
魔都東京をみおろす、巨大な天狗。
作者の形代でもある。
身過ぎ世過ぎで俗世をいき、機をみて不意にあらわれ、
時空をねじまげ、街をかきみだし、忽然と消え失せる。
十年ごとに。
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