楠元とうか『好きこそももの上手なれ!』
好きこそももの上手なれ!
作者:楠元とうか
掲載誌:『まんが4コマぱれっと』(一迅社)2018年-
単行本:4コマKINGSぱれっとコミックス
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桃井さんご、高校1年生。
容姿は可憐で、性格はほがらかで優しい。
エロゲーから飛び出してきた様な、非の打ち所がないヒロインだ。
ただし、性別は男。
いわゆる男の娘モノは、二つの作風に大別できる。
主人公自身が女装趣味に目覚める「これが……ボク?」系と、
主人公が男の娘に翻弄される「小悪魔」系。
本作はどちらでもない。
主人公の家に居候する男の娘は、すこしも小悪魔でなく、むしろ天使だ。
とても慎み深く、他人に迷惑かけないよう心掛けている。
つまり本作は鉄壁のプロットを放棄している。
さんごは外見も性格もかわいい。
だったらなんの問題もないじゃん、というわけ。
そして葛藤がない本作は、いわゆる日常系に接近している。
ホットケーキを作って女子力をアピールする最中に、
空手で鍛えた握力で泡立て器を捻じ曲げたりとか。
これぞ、男の娘のいる日常。
第7話、横柄な口調でさんごに話しかける人物があらわれる。
さんごの反応から察するに、ただならぬ関係らしい。
このキャラは秀逸なので、ぜひ単行本で顛末を確かめてほしい。
男の娘モノといえばドタバタコメディと相場が決まってるが、
安直なスチャラカで読者の気を散らすより、かわいさを優先すべきでは?
そんな思想を感じる佳作である。
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馬あぐり『純情乙男マコちゃん』
純情乙男マコちゃん
作者:馬あぐり
掲載サイト:『Hugピクシブ』(ピクシブ)2017年‐
単行本:リラクトコミックス(フロンティアワークス)
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主人公は24歳の「鎌田まこと」。
男だがかわいいものが好き。
子供服のデザイナーになりたくアパレル企業に就職したのに、
趣味とかけ離れたセクシー系ブランドでディストリビューターをつとめる。
女らしさのかけらもない先輩にイビられる毎日だ。
たまったストレスは仕事帰りに発散する。
鎌田の趣味は女装。
男子トイレでロリータファッションに着替え、美少女「マコちゃん」に変身する。
マコちゃんの出没先はライブハウス。
とあるバンドのベーシストを熱心に追いかけている。
「女装バンギャ」とゆう珍しい題材をあつかう作品だ。
本作は、馬あぐりの初連載で初単行本。
画力が高く、描き分けは男女ともにうまいし、また世界観の面でも、
アパレル業界やライブハウスなどをリアルに表現している。
さらに、追っかけられる「ダイちゃん」側の事情をコミカルに描くあたり、
ギャグも得意とするオールラウンドプレイヤーである様だ。
マコは幼いころから、かわいい女子に憧れていた。
なのでメンズファッションにとことん疎い。
「あたしのブランドの価値を下げるな」と、デザイナーの「リカ」になじられる。
主人公に共感できるし、脇役もキャラが立っている。
力のある作家なのはまちがいない。
以上のレビューを読むと、マコの恋愛観を知りたくなるのではないか。
つまり、この主人公は性的に男が好きなのかどうか。
1巻時点では、はっきりしない。
新人にありがちな、好物を詰めこんで曖昧化したプロットなのは否定できない。
だがそれでもマコが、性別とか性愛とか関係なく、
ひたすら可愛さを追求するとゆう、自身の哲学をかたる場面は感動的。
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若木民喜『キング・オブ・アイドル』
キング・オブ・アイドル
作者:若木民喜
掲載誌:『週刊少年サンデー』(小学館)2017年-
単行本:少年サンデーコミックス
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『神のみぞ知るセカイ』などで知られる若木民喜の新作は、アイドルもの。
主人公の「遥名まほろ」は養成学校へ入り、頂点をめざす。
本作には、ほのかなSF/ファンタジー風味がある。
まほろの声には魔力があり、人をあやつれる。
「道を空けてください!」と叫ぶと、人混みがザッと左右に分かれたり。
もう一つのまほろの秘密は、男であること。
性別を偽ってまでアイドルになろうとするのは、
養成学校のシステムでホログラムを生成し、若死にした母親と再会したいから。
しかし寮生活で隠し通すのは無理があり、ルームメイトの「瀬奈」にバレてしまう。
まほろは女装趣味の持ち主ではないので、下着は男物。
転ぶとダサいトランクスが丸見えで、かえって危険だったりする。
女の子のかわいさに定評ある作家であり、アイドルものとの相性は抜群だ。
愛くるしく親しみやすいと同時に、独特の艶のある絵柄を、読者は堪能できる。
異性への興味が薄いまほろは、スケベ心ゆえ女子寮に潜入したのではない。
ところが、なぜか歌をうたうとビンビンに勃起する習性があり、
マジメな瀬奈の拒絶反応を誘発し、そのたび大騒ぎに。
このギミックをこの絵柄で描かれると、破壊力がある。
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佃煮のりお『双葉さん家の姉弟』
双葉さん家の姉弟
作者:佃煮のりお
掲載誌:『ヤングアニマル』(白泉社)2017年-
単行本:ヤングアニマルコミックス
高校2年の「寧子」と「乙宏」を中心人物とする、双子姉弟ものである。
乙宏はラノベ主人公風のネガティブキャラで、
寧子は縦にならぶリボンが印象的な、才色兼備の生徒会長。
奇を衒ってはないが、よく練りこまれたキャラデザだ。
学校では模範生の寧子だが、家では重度のブラコン。
ベタベタと弟に甘える姿は、恋人同士にしかみえない。
胸がおおきいので、スキンシップの描写に迫力が。
寧子が弟に執着する理由は、作中で特に説明されない。
そんなヘリクツより、パンツの縫い目やシワや隆起を堪能すべき作品だ。
黒髪の流れもなまめかしい。
おたのしみの入浴シーン。
うなじ・肩甲骨・背中・腰回りのラインに昂奮させられる。
長い髪をツインお団子にし、トレードマークのリボンでまとめてるので、
いつもより幼い雰囲気が、エロスに歯止めをかけている。
寧子の友達である、同級生の「妹子」。
嫉妬心から乙宏に食ってかかる。
妹子には秘密があった。
自分にも双子の兄がいて、しかもその「阿仁」が男の娘であること。
もっこりふくらんだ縞パンの描写は、『ひめゴト』の作者ならでは。
妹子が、自分が阿仁の妹である事実を親友にも隠すのは、
身内が変態で恥づかしいからではなく、かわいさを独占したいから。
ちょっと変則的なツンデレ妹エピソードが語られる7話は、ハイライトのひとつ。
佃煮のりおは、作家性を前面に出すタイプではないが、
「可愛いおんなのこ(男の娘含む)は最高」「みんな仲よく」といった、
ポジティブなメッセージが丁寧な作画につまっており、共感できる。
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内々けやき『グレートヤンキーみちるくん』
グレートヤンキーみちるくん
作者:内々けやき
掲載サイト:『チャンピオンクロス』(秋田書店)2016年-
単行本:少年チャンピオン・コミックス エクストラ
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男子高校を舞台とするショタものである。
読者は子猫みたいな美少年、「大河みちる」を愛でることになる。
私立京北高校は、地元でも有名なヤンキー校。
みちるは転校初日から不良に絡まれる。
ショタは乙女っぽい言動で、不良の巣食うジャングルを生き抜く。
本格的なティーセットを用意し、スコーンにはクロテッドクリームを塗り、
屋上にむさくるしい男どもをあつめてお茶会をひらく。
本作は『しょたせん』と世界観を共有している。
「ショタ×ヤンキー」のミスマッチ感が、かわいさを増幅。
ケンカの場面も、パンチの重さなどをリアルにえがく。
版元である秋田書店のヤンキー漫画に引けをとらない。
内々けやきは、評論家っぽく論じるのがむつかしい。
「意味」を読み取ったり、「解釈」されるのを嫌いそうな作風だ。
ただヌイて笑って泣いてくれればそれでいいと。
今後の研究課題である。
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