板倉梓『泉さんは未亡人ですし…』

 

 

泉さんは未亡人ですし…

 

作者:板倉梓

発行:竹書房 2019年

レーベル:バンブーコミックス

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医学生の「肇」が下宿先を訪れると、話とちがってその家は、

若くうつくしい未亡人「透子」のひとり住まいだった。

ちなみに物語の舞台は昭和初期。

情報が正確に伝わらないこともあるだろう。

 

高橋留美子のファンだと公言する作者が、

『めぞん一刻』にオマージュを捧げてるのは、冒頭からビシビシ伝わる。

 

 

 

 

なにかと世間の目のうるさい時代だ。

透子は家に男子学生を置けないと拒否し、肇もそれを受けいれる。

ただ野宿させるのは不憫なので、一晩だけ泊まらせることにした。

 

しかしその夜。

夫を事故で失って以来、不眠に悩んでいた透子は、

ぼうっとした頭で、勝手に肇と添い寝してしまう。

 

 

 

 

翌朝、透子は肇に部屋を貸すと決めた。

ただし条件は、毎晩添い寝させてもらうこと。

自分がぐっすり眠るために。

 

肇が適当に口走った「女に興味がない」という発言を真に受けるなど、

透子の天然な言動も本作の見どころ。

 

 

 

 

透子は普段は看護婦として働いている。

肇とケンカして不機嫌なとき、顔は笑ってるけど内心は怒っていて、

無意識に患者に八つ当たりするシーンとか可愛い。

 

響子さんは 嫉妬深くてメンドくさい女ですね 笑

でもすごく内面が丁寧にリアルに描かれてて

時々 あーわかるよ響子さん て思ったり…

結局あたしも含め女はメンドくさい生き物ってことか 笑

 

作者ブログから引用

 

数々の忘れがたいヒロインを送り出してきた板倉梓だが、

今回はあの音無響子と渡り合おうとし、ある程度成功している。

 

 

 

 

本作は膨大な資料でリアリティを追求する、典型的な時代物ではない。

とはいえ浅草の夜景をバックに、しっとりした場面も描かれる。

 

幼い頃から

浅草界隈をはじめ銀座や神田や上野や新宿を

祖父たちと歩いた思い出は

大人になったら東京に住むんだ~と思わせるに

十分な動機になったと自覚してます

 

作者ブログから引用

 

頭でっかちになりそうでならないのが、板倉作品の美点だ。

 

 

 

 

舞台が戦前なのは、大家さんが未亡人でどうちゃらこうちゃらに、

2010年代の貞操観念を適用しても、ちっとも面白くないからだろう。

小津安二郎の映画みたく、日本人の心のうつくしさを描きたかったのでは。

 

しかし板倉ヒロインは、原節子とはちがう。

いろいろ参照してるけど、彼女らは板倉ヒロイン以外の何者でもない。





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板倉梓『幼なじみと神さまと』

 

 

幼なじみと神さまと

 

作者:板倉梓

掲載サイト:『サンデーうぇぶり』(小学館)2018年-

単行本:サンデーうぇぶり少年サンデーコミックス

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長身でグラマラスな高校1年の幼なじみが、神様に憑依されたせいで、

一緒に子作りしようと夜な夜な迫ってくるラブコメ。

 

いろんな出版社で書いてる板倉梓が、ついに小学館に登場。

作風から想像つくが、高橋留美子が好きだったらしく、

ある種のホームアドバンテージが効きそうな気配がある。

 

 

 

 

ふたりは、東京から1000キロ離れた小さな島の出身。

リゾートホテル建設のため森が切り払われ、滅びかけた島の神は、

幼い頃から森で遊んでいた「しろね」に取り憑き、生き延びようとする。

 

どちらかといえば軽い作品だが、作者らしい世界観構築の巧さが光る。

 

 

 

 

しろねは神に憑依されてるとき、額にツノが生える。

大胆なふるまいは、本人が能動的に選択したものではない。

 

『間くんは選べない』と同様、作者は今回もセックスに執着している。

板倉梓はサンデー的であり、非サンデー的でもある。

あいかわらず、とらえどころがない。

 

 

 

 

『少女カフェ』以来、作者を追ってる読者としては、

本作の執筆動機がなんとなくわかる気がする。

おそらく太眉の女の子を描きたかったのだ。

多彩なテーマを描きこなす作家だが、結局それがすべてだ。

 

そして、しろねはかわいい。

シンプルで洗練されて、初期から完成された絵柄なのに、

ますます女の子がかわいくなっている。

環境がフルデジタル化したのも影響してるかもしれない。

 

 

 

 

渋谷へ遊びにゆくシーン。

いつもの板倉女子が流行の服を着る姿に、ファンは満足するだろう。

 

とはいえ『タオの城』『ガール メイ キル』みたいに、

がっつり作り込んで殺伐として陰鬱な「板倉ノワール」も、

またそろそろ読んでみたいと思わなくもない。




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板倉梓『間くんは選べない』完結

 

 

間くんは選べない

 

作者:板倉梓

掲載誌:『月刊アクション』(双葉社)2016年-

単行本:アクションコミックス

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サイテーの二股愛をえがくラブコメが完結。

最終巻では友人の広田が、間を脅迫する。

恋人ふたりにバラされたくなければ3000万円よこせと。

 

 

 

 

銀行預金は270万円しかなく、要求額にまるで足りない。

間はナイフを購入し、受け渡し場所に指定された屋上へもってゆく。

これを見せつけて威嚇し、改心させるつもりで。

 

仲のよかった友人同士が、死ぬか生きるかの瀬戸際まで追い詰められる。

オチもふくめて非凡なエピソードだった。

 

 

 

 

間の行動がおかしいのは、恋人たちも認識する様に。

面とむかって、浮気してないかとあんりに問いただされるが、

間もある意味覚悟を決めており、舌先三寸でごまかしてしまう。

 

 

 

 

作者はおそらく鏡香に肩入れしている。

吊り目でショートカットでクールな物腰、板倉梓のオルターエゴだろう。

最後のラブシーンも熱がこもる。

 

 

 

 

結末に関して言うと、大きなどんでん返しはない。

二股を肯定したまま、丸く収められたらすごいと期待して読んだが、

もともと女子にやさしい作風だし、社会通念から逸脱する内容ではなかった。

それならなぜ、こんな題材をえらんだのだろう?

 

性や暴力を大胆にえがきつつも、可憐でシンプルで洗練された表現。

個々のエピソードの魅力。

目を見張るほどの技量であり、僕は大好きなのだが、でもあいかわらず、

作品ならではのテーマ、言いたいことが稀薄なきらいがある。





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板倉梓『きらきらビームプロダクション』完結

 

 

きらきらビームプロダクション

 

作者:板倉梓

発行:竹書房 2016-7年

レーベル:バンブーコミックス

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アイドルもの4コマ漫画は、完結となる2巻が刊行。

からぁ~ず☆の3人が海で、カレンダーの撮影をおこなう。

2月なので寒くて震える。

 

 

 

 

士気を高めようと、無理な仕事をいれたマネージャーも上着を脱ぐが、

自分たちとおなじく生足になれと、リーダーのあかねが要求。

そんな些細なことでテンションあがる、箸が転んでもおかしい年頃だから。

 

 

 

 

撮影がおわり、温泉であたたまる。

ヌード撮影もこなす女性カメラマンが、「いまこの瞬間を写す意味」を語る。

つい、この人にヌードを撮ってもらいたいと思ったメンバーは、

プロカメラマンのもつ吸引力におどろく。

 

天使の様な無邪気さから、そこはかとないエロスへの落差。

あいかわらず板倉梓は、エピソードの盛りこみ方が巧み。

 

 

 

 

カレンダー発売を記念してのイベント。

ファンから直接「8月のが夏らしく元気でよかった」と言われ、してやったりの表情。

 

うつろう季節のなかで、偶像と実像を表現するアイドルの、

はかなさとしたたかさを描く第24話は、本作の白眉かも。

 

 

 

 

本作は2巻で終了したので、「板倉梓の代表作はなにか」問題は未解決のまま。

僕は比較的萌え4コマを読む方だが、なんでも描ける板倉は、

このジャンルにおいても一流でありつづけてると思う。

 

でもやっぱり、器用なんちゃらなのは否めないかな。





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板倉梓『間くんは選べない』2巻

 

 

間くんは選べない

 

作者:板倉梓

掲載誌:『月刊アクション』(双葉社)2016年-

単行本:アクションコミックス

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第1巻の最後で、仕事仲間のあんりと結ばれた間くんは、

軽く二股(キスまで)をかけてた鏡香に対し、別れ話をきりだす。

ところが鏡香はひどく動揺する。

女子高生にしては大人っぽいから、わかってもらえると思ってたのに。

 

 

 

 

間はその場をごまかし、鏡香を自宅へつれこむ。

制服を脱がされた鏡香は、なにもかもはじめてで、羞恥のあまり身悶える。

よくないと自覚しつつも、間は鏡香の処女をうばう。

 

26歳まで童貞だった間は、とくべつ女癖が悪くはない。

個人の性格や理性では抵抗できない、大きな力に押し流された。

 

 

 

 

それからは二股セックス三昧。

2巻収録の5話だけで、鏡香と3回、あんりと2回。

憧れの女性が求められるまま、フェラチオしてくれたり騎乗位で乱れたり。

夢の様な生活をおくる。

 

成人向け指定されてないのが不思議なほど、2巻はエロい。

ショッキングですらある。

だって『少女カフェ』の作者が、初期から完成してた絵柄を変えず、これだもの。

 

 

 

 

脇役の存在感は、板倉作品の特徴のひとつ。

鏡香の親友である「美沙」が、間を品定めしにやってきた。

 

背伸びするタイプの鏡香が、年上に惹かれるのはわかる。

でもその嗜好につけこまれ、悪い男に遊ばれてないか心配。

 

 

 

 

あんりを交じえた飲み会で口をすべらせ、浮気がバレそうになる。

いつもは軽薄で嫌味な上司が、さりげなく話を逸らせて窮地からすくう。

 

 

 

 

それとは逆に、学生時代からの友人でノイズミュージックが趣味の「広田」が、

急にモテだした間に嫉妬し、二股の報いを受けさせようと暗躍。

 

あちらが立てば、こちらが引っこむシーソーゲーム。

確固たるバランスと構成力は、作者ならでは。

 

 

 

 

ぐっちょんぐっちょんにエロエロで、板倉先生どうしたのと不安なくらい、

相当タガが外れている本作だが、暴走すればするほど逆説的に、

作者の器用貧乏っぷり(失礼)が顕著になる奇妙な作品で、

藝のない僕はいつもの結論をつぶやくことになる。

 

板倉ガールズはやっぱりピュアで、やっぱりかわいいと。





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