峠比呂『これだからアニメってやつは!』

 

 

これだからアニメってやつは!

 

作者:峠比呂

掲載誌:『コミックフラッパー』(メディアファクトリー)2013年-

単行本:MFコミックス フラッパーシリーズ

 

 

 

主人公は29歳の「南坂ちさと」。

アニメ制作会社で「制作進行」をつとめる。

つまり本作は、アラサー女子のお仕事モノ。

 

 

 

 

制作進行、通称「制作」の役割は、視聴者にとりイメージしづらい。

一枚も絵をかかないから。

簡単にゆうと、作画監督・各話演出・原画マンなどと折衝しスケジュールを管理、

自動車ではしりまわりながら素材を回収する仕事。

まともに寝るヒマない激務で、デートはドタキャンばかり。

 

 

 

 

アニメ制作の全工程にかかわる不可缺な職務だが、

クリエイティヴな作業をしない分、アニメーターからただの小間使いとみなされがち。

逆に「パンツ出しとけばOK」といわんばかりの無責任な演出家に、

かぎられた予算と時間のなかで、最大限のクオリティを要求したりする。

 

 

 

 

アニメーターはフリーランスもおおく、個人の仕事場を回収してまわる際、

他社の制作と縄張りあらそいになることも。

 

 

 

 

概してアニメーターはプライドたかく、あつかいがむつかしい。

それぞれの得手不得手をかんがえ発注する必要あり。

女性にパンツばかり描かせればセクハラになりかねない。

 

 

 

 

作画には資料が必須ゆえ、コピーとりも大変。

一日つぶれるほど量がおおい。

 

 

 

 

そんな具合に、地味といえばたしかに地味な、

アニメの裏方のさらにその裏方へスポットライトあてる。

われわれアニメファンなら興味津々だが、親からは理解されない。

 

 

メガネは制作デスクの「竹宮さん」

 

 

現場でスタッフが命けづることを、会社の上層部もしろうとしない。

高品質のアニメができて当然とおもつている。

 

峠比呂先生といえば、『まおゆう魔王勇者 ~丘の向こうへ~』について、

ボクが無智から失礼な記事をかいたところ、熱いコメントをくれたひと。

『まおゆう』でそれなりの売上を記録し、念願のオリジナル連載にいたつたのだろう。

題材は、アニメ専門学校へかよつた経歴をいかしたもの。

そんな裏事情をしつてると感慨ぶかい。

 

ただし、本来ものすごく絵の達者な作家なのに、

連載二本かかえるせいか作画が荒れてる様にみえるのは残念。

「作画崩壊」とまでゆかないが。

 

 

 

 

彼氏にふられ、お見合いが破談になつても、ちさとはやめられない。

潤滑油としてクリエイター同士をつなぐ仕事もまた、クリエイティヴな醍醐味があるから。

表現者の魂がこめられた作品だ。




これだからアニメってやつは! 1 (MFコミックス フラッパーシリーズ)これだからアニメってやつは! 1 (MFコミックス フラッパーシリーズ)
(2013/12/21)
峠比呂

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峠比呂『ヴァルキリーコンプレックス ZERO』

 

ヴァルキリーコンプレックス ZERO

 

作画:峠比呂

原作:CIRCUS

発行:角川書店 2009年

[角川コミックス・エース]

 

 

 

かぼちやパンツからはじまる物語。

2009年時点で、峠比呂には「エロ漫画」の範疇に属す著作が数冊あるが、

『ヴァルキリーコンプレックス ZERO』は、満を持していどむ「一般作品」となる。

ただしエロゲーの原作つき。

しかし、下着から照れ顔に読者の視線をみちびき、低俗になるのを避けている。

 

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次のページ。

この漫画家はよく、縦に大きいコマで人物をえがく。

ヒロインのミコトにカメラが寄り、長回しで表情を追う。

 

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主人公のレオが、剣術の稽古中。

はげしい撃ちあいの一瞬に、はさみこまれる恋心。

リズムがある。

ここまでつよく映像作品をおもわせる漫画はすくない。

 

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剣術の師匠である、カイ。

男まさりの剣士だが、さりげなく全身をみせ、女らしさも匂わす。

 

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ミコトの家で夕食。

なぜか温泉談義がはじまる。

おどろくことに先月、当ブログにコメントを投稿してくれた峠比呂は、

ネームを切るときの苦労をかたつた。

なるほど。

ときに紙幅を贅沢についやしながら、わづか十三ページに、

異世界と、そこで生きる人々が、たくみに詰めこまれている!

 

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さらに神様まで。

愛の女神フィリーヤ。

れつきとした神だが、幼女の姿で出歩くのをこのむ。

本作は、いつもファンタジー作品で閉口させられる、

はてしない固有名詞の羅列におちいらない。

 

 

 

 

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謎の美女ルドゥールとのたたかい。

左右のページをこえて貫く長剣。

かぼちやパンツのたわいなさから、随分遠くへきたものだ。

 

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吐血を顔にあびた、レオの凄惨なまなざし。

峠は、美少女を描かせたら敵無しとおもわれる作家で、

実際『Candy boy』という百合漫画の傑作まであるが、

その内面では、岩漿が沸々と煮えたぎる。

 

 

 

 

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女神フィリーヤが、戦争の不愉快な背景をあかす。

主に対し怒りをぶつけるレオ。

 

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神の目にも涙。

今回は作者のコメントにこたえようと、ネームの切り方に注目したが、

泣き顔のうつくしさは、映像的編集ウンヌンをこえた、

一枚絵としての見どころにちがいない!

 

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ゲームの宣伝をかねて連載された前日譚は、予定どおり半年で終了。

序曲がすぎても、オペラの幕はひらかない。

だが、やけに感動させられる。

『ヴァルキリーコンプレックス』の名は、

峠比呂の旅の出発地として、歴史に刻まれるだろう。




ヴァルキリーコンプレックス ZERO (角川コミックス・エース 254-1)ヴァルキリーコンプレックス ZERO (角川コミックス・エース 254-1)
(2009/12/26)
峠 比呂

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峠比呂『まおゆう魔王勇者 ~丘の向こうへ~』

 

まおゆう魔王勇者 ~丘の向こうへ~

 

作画:峠比呂

原作:橙乃ままれ

掲載誌:『チャンピオンRED』(秋田書店)2011年7月号~

[単行本は「チャンピオンREDコミックス」として、第一巻まで刊行]

 

 

 

魔王城。

世界の命運をかけた決戦。

だが四十三代魔王は巨乳美少女で、どうも勝手がちがう。

角もニセモノ。

 

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ボサボサ髪の魔王が講義をはじめる。

この世の仕組みを知り、ともに変革するため。

 

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勇者が邪悪な魔王を斃せば、世界は平和になる。

そんな「子供だまし」は、もう通じない。

『まおゆう』の原作は、「2ちゃんねる」ニュース速報(VIP)板への投稿で、

未読だが、アップ・トゥ・デイトなファンタジー小説なのだろう。

 

 

 

 

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手をくんだ魔王と勇者は、剣と魔法を封印。

ひとりの力では、世界を変えられない。

まづは食糧生産向上のため、三圃式農業を四回転式にする。

なるほどね。

弱いモンスターで経験値をかせぎ、ボスに挑むRPGではなく、

すすんだ文明で、おくれた文明を制するシミュレイションか。

『ドラゴンクエスト』の舞台で演じられる、『シヴィライゼーション』。

 

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小麦の三倍の生産量といわれる、ジャガイモ栽培をすすめる。

でもさ、だからなに?

中世以降のイノヴェイションを、中世に持ちこめば、成功するに決つてる。

その保證がないから、渦中にいる人間は踏みきれないだけ。

第一、剣と魔法は無意味というなら、舞台がドラクエである必要はない。

オレなら魔法研究に投資し、革新的な魔法を開発させるね。

百倍効率がよい。

ラリホーだけでも、不眠症患者は泣いてよろこぶ。

現代人がうらやむ窮極のテクノロジーに、頼らない理由がどこにある?

結局『まゆおう』も、「子供だまし」だ。

 

 

 

 

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メイド長。

魔王もおびえる、真の支配者?

おそるべきことに『まおゆう』は、現在四誌で漫画が連載中。

石田あきら版(角川コミックス・エース)も買つたが、すぐ閉じた。

峠比呂版は、何回読んでもたのしい。

流麗な曲線。

肢体のやわらかさまで伝わる。

いたづらな微笑み。

 

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女騎士。

魔王が「駄肉」なら、こちらは「絶壁」。

いかなるバストサイズも、あでやかに描きおこす。

おもえば峠比呂の前作は、短編ウェブアニメが原作の『Candy boy』

双子姉妹がイチャつくだけの、無内容の極みといえる漫画だが、

だからこそ面持ちが、衣装が、姿態が、すべてのコマで官能を炸裂させた。

 

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得意の左向き構図。

オレはジャガイモが好きだけど、漫画で見たくはない。

世界には、文明より大切なものがある。

 

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白と黒の魔術。

透明な涙、その熱さまでえがく。

こんなに巧いのに、安つぽい原作つきの漫画ばかりの峠は、

おそらく「絵」にしか興味のない人なんだろう。(※この点に関してはコメント欄を参照のこと)

美少女を描ければ満足。

漫画というテクノロジーは、世界を変えないし、

時代に逆行してる感すらあるが、いまだにオレを虜にする。





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(2011/09/20)
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ページターナー ―― 峠比呂『Candy boy』

 

Candy boy

 

作画:峠比呂

原作:DRM/2008CP

掲載誌:『コミックフラッパー』(メディアファクトリー)二〇〇九年十二月号~

掲載サイト:『Flapper.mobile』(メディアファクトリー)

[単行本は第一巻まで刊行]

 

 

 

寮生活をおくりながら都内の女子高にかよう、

櫻井奏と櫻井雪乃、双子のうるわしき「姉妹愛」を中心とする物語。

短編Webアニメが原作だが、ここは漫画版について一席ぶちます。

 

 

二段ベッドの下段しか使わない習慣をもつふたり。

うつくしい乙女が、うつくしい乙女に夢中になり、

日ごとに奇麗になりながら、たがいの手をたづさえ、

天空の螺旋階段をのぼりつめるのが、百合漫画という聖典。

そのまじわりは純粋すぎて、密室の息ぐるしさがある。

まして本作の道づれは塩基配列までおなじで、

恋愛感情が成立するかうたがわしいほど、かたく結びつく。

 

 

夜の砂浜で、同日うまれの妹が「百合」の神髄をとく。

大切なのは、「なにをするか」ではなく、「どうするか」。

 

 

もしミミストップで「まるまるバナナ」が売り切れでも、

一緒にいること自体が、この世のすべての財宝より値打ちがある。

キスやセックスなんてしなくても、そつと手をかさねるだけで、

わたしたちは満天の星空よりたかく飛べるから!

全人類をなやませる哲学的難問を、

一瞬で解きあかすのが、百合漫画のおそろしいところ。

裏腹に、これ以上かたるべき何物ももたず、無内容の極みといえるけれど。

 

 

 

 

 

後輩の神山咲夜。

奏に岡惚れし、密着しすぎる頂点をひきはがしながら、

いびつなトライアングルをかたちづくる。

軍や警察風の制服が、サマになつている。

からだの凹凸を強調する姿勢のあでやかさ。

咲夜はモバイルサイトの外伝では主役で、全篇の中軸をなす力戦奮闘ぶり。

作画をうけもつ峠比呂は、主役か脇役かは意に介さず、

少女たちをえがくことに耽溺している。

 

 

奏と雪乃の妹、中学一年生の櫻井雫。

アニメ版とちがい、勝気な性格にかわつたらしい。

かくうちに、漫画家のペンが勝手にはしりだしたのだろう。

衣裳や髪型のはなやかさ。

すらりとのびる、華奢な手足。

ふくよかな体つきの婀娜つぽさ。

コロコロとうつろう表情。

無邪気に愛をもとめる、つよい意志。

ボクは絵をかけないが、これほどたのしい画題はないだろうなと思う。

さて、目ざとい読者のかたはお気づきかもしれないが、

この作家は左むきの構図が得意だ。

 

 

アニメ版にはいない登場人物の、眞澄(名字不明)。

はるか山の頂にむけた人さし指に、

読むものの心ははやり、ページをめくる手はもどかしくなる。

乙女らは、いささか頽廃的な百合の園をかけぬけ、

さらにその先の、だれも見たことのない桃源郷をめざす。

 

 

 

 

 

 

以上の薄気味わるい百合ポエムはともかくとして、

背景にすら男がひとりも出てこない漫画『Candy boy』は、

ゆりゆりしい世界にひたれる傑作としてオススメです!



Candy boy 1 (MFコミックス フラッパーシリーズ)Candy boy 1 (MFコミックス フラッパーシリーズ)
(2010/06/23)
峠 比呂

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苑田 健

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