冬目景『空電の姫君』1巻
空電の姫君
作者:冬目景
掲載誌:『イブニング』(講談社)2019年-
単行本:イブニングKC
ウェブ媒体への移行を拒み、出版社を移り、タイトルもちょっと変え、
『空電ノイズの姫君』は『空電の姫君』として再始動した。
連載途中での移籍は難しいというが、そこは冬目景作品、
何事もなかったかの様にマイペースにスタートを切る。
マオとヨキコのだらだら女子トーク。
恋愛をレンアイと書くオトメっぽさが楽しい。
いわゆるダレ場だが、読み飛ばしは禁物。
弛緩したやりとりの中に、食い違いや擦れ違いを見て取れる。
高校でのシーン。
なにかとマウントを取ってくる女子グループへむけて、
マオが一瞬だけ鋭い視線を投げる。
叙情的だが、情緒に流されはしないのが、冬目景の作風。
本巻でマオは、大失敗した前回のライブのリベンジを果たす。
あくまで冬目基準において、いつになく『空電』はポジティヴだ。
今年出たソニック・ユースの伝記を読んだら、藝術性と商業性を両立した、
理想的なキャリアに見えたバンドが、実はレコード会社との関係に苦しみ、
ずっとフラストレーションを抱えながら活動してたと知った。
好きなことをやって食ってくのは大変なのだ。
ソニック・ユースですら。
インタヴューなどでのクールなたたずまいは、ポーズだったのだ。
冬目景のキャリアは、ソニック・ユースのそれに何となく似ている。
ただし、まだくたびれてなさそうなところは違う。
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冬目景『空電ノイズの姫君』2巻
空電ノイズの姫君
作者:冬目景
掲載誌:『月刊バーズ』(幻冬舎)2016年-
単行本:バーズコミックス
やはり冬目景のかすれた様なタッチには独特のものがあり、
自分で描いてるらしい背景も相まって、キャラクターに実在感をあたえる。
やわらかく透明な雰囲気がいい。
本作は、くせっ毛のギタリスト・マオと、黒髪の歌い手・夜祈子の、
ダブルヒロインを看板とする青春音楽ものである。
なにげない仕草や表情がすてきだ。
ふたりのイチャイチャは、『イエスタデイをうたって』のハルと、
『羊のうた』の千砂の夢のコラボとゆう感じで、初期作のファンにはたまらない。
そしてガールズトークのたのしさは、冬目景が時代に先んじてそなえた特質で、
このマイペースな作家をサバイブさせた主要因だろう。
ストーリー進行は本作もゆっくり。
夜祈子はいづれマオのバンドに加入するのだろうが、作者は焦らす。
もっと序盤から見せ場をつくればいいのに。
ただ、対バンでマオを打ちのめすイケメンガールズバンドなど、
「音楽」とゆうテーマを推し進め、世界観を着実に構築してはいる。
「冬目景ルネッサンス」は本物みたいだ。
まぶしい夏服セーラーがそれを物語っている。
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