中山敦支/小高和剛『ギャンブラーズパレード』1巻
ギャンブラーズパレード
作画:中山敦支
原作:小高和剛
掲載誌:『週刊少年マガジン』(講談社)2018年-
単行本:KCDX 週刊少年マガジン
中山敦支作品には、よく瓦礫がでてくる。
建物はとりあえずぶっ壊せ、みたいなところがある。
本作でもそれは踏襲され、全4話を収録するこの第1巻は、
第1話で2度、第2話で1度、ドカンと破壊するシーンをえがく。
キャラクターやストーリーに関しては、「らしくなさ」が目立つ。
いわゆる超サイヤ人的な描写はめづらしい。
少年漫画では、読者の成長願望にそった「能力インフレ」が好まれる。
しかし中山作品のバトルは概して、限定的なリソースを投じての潰し合いだった。
こちらは『トラウマイスタ』最終5巻からの引用。
ソウマとゲルニカが敵の本拠地へのりこみ、高層ビルを破壊して死体の山を築く。
猛獣の牙の様にするどい暴力性、濃厚な死の匂い。
中山作品のド派手なアクションは少年漫画的だが、
精神面においては真逆ですらあり、そのアンビバレンスに読者は戦慄する。
ヒロインが内気でウジウジしてるのも、いつもとちがう。
明るく、やさしく、強く、前向きな、これまでの女性像から逸脱している。
とはいえ、中山ヒロインらしさがスパークする瞬間もあり、
この作家が瓦礫の上にどんなキャリアを確立するのか、僕には予測できない。
- 関連記事
中山敦支/小高和剛『ギャンブラーズパレード』
ギャンブラーズパレード
作画:中山敦支
原作:小高和剛
掲載誌:『週刊少年マガジン』(講談社)2018年-
中山敦支の新連載は、ゲーム畑の小高和剛による原作つき。
『アストラルエンジン』や『オフサイドを教えて』は秀作だし、
中山は作画のみ担当の場合でも、いい仕事をする。
僕は完璧な作品リストをしらないけど、講談社の雑誌には初登場かな。
(いわゆるウェブコミックでは描いている)
テーマはギャンブルである。
主人公の「花梨」は、疫病神といわれるほどの不運体質で、
勝負事にまったく向かないが、高額の賭けにまきこまれる。
極限状況をえがくのが得意な中山にふさわしいテーマかもしれない。
花梨の心理描写など、迫力がみなぎる。
10万円の負けとなりかけた花梨に、救い主があらわれる。
クラス担任の「蜘蛛手(くもで) 渚」。
ギャンブルをはげしく憎み、ギャンブルによってギャンブラーの殲滅をはかる。
中山ファンなら『ねじまきカギュー』のカモ先生を思い出すだろう。
矛盾をかかえこんだ、この蜘蛛手の人物造形は、
死をもとめて戦う『うらたろう』の延長線上にある。
どうも『カギュー』以降の中山作品は、すっきりしない。
太く荒々しい描線が中山の特色だが、本作ではますます太い。
『オフサイドを教えて』で試みていた、ポップな画風を指向している。
気になる点をあげるなら、主人公のキャラや、画面全体の緊迫感のよわさ。
確信もって、主人公とならんで突っ走ってゆく快感がない。
- 関連記事
中山敦支『うらたろう』完結
うらたろう
作者:中山敦支
掲載誌:『週刊ヤングジャンプ』(集英社)2016年-
単行本:ヤングジャンプコミックス
あっけなく完結である。
中山敦支はSNSでピーチクパーチクおしゃべりするタイプではないが、
それでも本作について沈黙しているのは異様だ。
尻切れトンボ的な連載終了で、本作の缺点が浮き彫りに。
ひとことで言うと「自己模倣」。
たとえば、あまりに唐突で理不尽な暴力。
そしてカウンターとして炸裂する、主人公側のプランB。
これらを見開きで、象徴的に表現する。
本作においても、絵そのものはみごとだ。
だれも中山にかなわない。
でも、既視感がある。
なお本項の以下の段落は、軽いネタバレとグロテスクな描写をふくむので注意。
黄泉の国から帰還したちよは、まるでイザナミの様な変わり果てた姿に。
ここでも中山は、ヴィジュアル面でアクセルペダルを床まで踏みこむ。
じわじわひたひた、なおかつ性急に、せまりくる圧倒的な「死」。
それをやさしく受け止める主人公。
『ねじまきカギュー』とくらべ外面的に上達しているが、精神的な成長は感じない。
長い時間をかけ弓をひきしぼったが、肝心の矢が折れていたとゆう印象。
中山敦支は、自身の代表作との戦いに敗れた。
- 関連記事
中山敦支『うらたろう』5巻
うらたろう
作者:中山敦支
掲載誌:『週刊ヤングジャンプ』(集英社)2016年-
単行本:ヤングジャンプコミックス
ヒロインであるちよの死から一年を経て、第二幕「回生篇」がはじまる。
うらたろうは、ちよの生首を鞄にいれて旅をする。
爆散した肉体をすべて拾い集めて復活させるために。
7つに別れたちよを探す旅に出るとかいう
ドラ○ンボールとキ○肉マンをくっつけたような展開に
色んな意味で驚かされます
ちよはバッファローマンにバラバラにされたミートくんだった・・・?
あまりに純粋に週刊少年ジャンプ的すぎて、
かえってジャンプに受け容れられなかった中山ならではか。
恋人の死を経験した、うらたろうの性格は反転。
他者をいつくしみ、生命を大切なものとみなす様に。
中山作品の主人公らしくなった。
でも、僕は信者にちかいファンだからあえて言うけれど、
これまでの4巻はなんだったんだろうとおもう。
うらたろうは「共感しづらいキャラ」として登場したので、
読者との距離がちぢまらないまま話はすすむ。
第二幕に花を添えるのが「もがり」。
色仕掛けの直後に悪態をつく慌ただしさがおかしい。
遺体を奪い合うライバルが「平六代(たいらのろくだい)」。
ちよの兄である。
六代は人形としてちよを愛玩するのが目的。
ネクロフィリアとインセストの混淆は、玄妙なあじわいだ。
乳母の死体を愛した、幼少期のエピソードもかたられる。
「母性への屈折した感情」とゆう、作者にとり重要なテーマがうつくしく再浮上。
以上の引用画像はすべて見開き2ページ。
ストーリーは迷走ぎみで、修正不可能なレベルにおもえるが、
作者のイラストレーター的技量をたしかめられる点では、読む価値がある。
- 関連記事
中山敦支『うらたろう』4巻
うらたろう
作者:中山敦支
掲載誌:『週刊ヤングジャンプ』(集英社)2016年-
単行本:ヤングジャンプコミックス
フィンセント・ファン・ゴッホ『星月夜』へのオマージュである。
『ねじまきカギュー』第16巻でパブロ・ピカソのキュビズム手法を借りるなど、
もともと中山敦支はモダニズム絵画への執着を隠してない。
石にまじって人骨がころがってたり、ちよの側に立つ樹木が枯れてたり、
古典への言及をストーリーや世界観と融合させたのは、作家としての成長だ。
僕の知るかぎり、中山がはじめて描いた男女のキスシーン。
カギュー16巻のそれは、施療の意図があったのでノーカウントとする。
その後の急転直下は、またしても『トラウマイスタ』4巻的。
「人間はどこまで非情になりうるか」とゆうテーマは、
『カギュー』の理事長父娘の関係性をなぞっている。
ただ前作とくらべると、主人公側の動機がやや弱いので、
「熱情vs.非情」の構図が不鮮明に感じられる。
黄泉比良坂の霊力の影響で、主人公は不死の能力をうしなう。
そしてヒロインを復活させることを誓い、第1幕がおわる。
『うらたろう』は作者のファンでさえ、よくわからない漫画だ。
「生死の不可逆性」とゆう、デビュー以来のテーマを捨てたと解釈できる。
おいおい、ナカヤマ先生どうしちゃったのって感じ。
スジャータは決してもどらないから、衿沙の心の傷は決して癒えないから、
主人公たちは重苦しい現実と格闘せざるをえなかったのでは。
そこをあっさり否定しちゃうわけ?
とはいえ、メビウスの輪みたいな死生観をあらわすイメージは、
カギューの「ねじまき」との共通因数を確認できるし、
とりあえず第2幕の進行を見守るしかないだろう。
- 関連記事