津留崎優『SA07』

 

 

SA07

 

作者:津留崎優

掲載誌:『まんがタイムきららフォワード』(芳文社)2019年-

単行本:まんがタイムKRコミックス

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イラストレーターなど、絵の仕事のための専門学校が舞台のコメディ。

「SA07」というタイトルは学生番号の上4桁から取ったもの。

 

 

 

 

主人公「橘茉愛(まちか)」は、かなり破天荒なキャラクターだ。

オタク受けしそうな服装を好むのも、絵の勉強をするのも、

目的はただひたすら、ちやほやされたいから。

「承認欲求の肯定」が、本作の表のテーマである。

 

作者が『ガーリッシュナンバー』のコミカライズを担当したせいか、

「勝ったな、ガハハ」の烏丸千歳を髣髴させるときがある。

 

 

 

 

高校時代の茉愛は3人の崇拝者を支配し、「姫」と呼ばせていたが、

それは単に承認欲求を満たすのが目的だったので、まだ恋を知らない。

ついに初恋を、しかも一目惚れの形で経験することになる。

相手は同じクラスの、プロ並みの画力をもつ「宮田」。

 

 

 

 

茉愛は男からちやほやされるのは得意だが、恋心の伝え方はわからない。

なので教室でいきなり告白する。

会話すらしたことないのに。

 

ほかの女子への牽制などの打算もあるけれど、相当ズレている。

 

 

 

 

キャラ立ちした主人公の奔放な言動がたのしい作品だが、

クラスメイトも個性的で、群像劇としての魅力も捨てがたい。

「永守カガリ」は、美人でおしゃれで絵も巧く、

姫ポジションを狙う茉愛にとっては目障りな存在。

 

 

 

 

ただカガリは見た目に似合わぬガチオタで、エロゲーを熱く語ったりする。

トピックは、エロゲーにおけるエロスチルの意義についてなど。

方向性はともかく、青春ものらしい情熱が感じられる。

 

 

 

 

とはいえ読者がもっとも惹かれるのは、茉愛の二面性だろう。

「オタサーの姫」としては無双状態なのに、

「ガールミーツボーイ」になった途端、花も恥じらう乙女と化す。

 

恋心とは、承認欲求とまったく別物で、もっとピュアな何かである。

笑いの合間に、そんな裏テーマにドキドキさせられる要注目作だ。





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ジャンル : アニメ・コミック

タグ: きらら系コミック 

はまじあき『ぼっち・ざ・ろっく!』2巻

 

 

ぼっち・ざ・ろっく!

 

作者:はまじあき

掲載誌:『まんがタイムきららMAX』(芳文社)2018年-

単行本:まんがタイムKRコミックス

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われらが結束バンドが、2巻では文化祭に挑む。

メンバーは別の学校に通ってるので、個人枠で参加。

出演が決定し、ぼっちちゃんはプレッシャーで死にかける。

 

 

 

 

ライブハウスで演奏した経験もあるバンドだが、

なんだかんだで文化祭は人が集まるし、練習に熱も入る。

辛辣なバンドあるあるネタも冴え渡る。

 

 

 

 

クラスの出し物は、定番のメイド喫茶。

ぼっちちゃんも強制的にメイド服を着せられる。

 

『けいおん!』というレジェンドに真摯なオマージュを捧げる本作は、

それと同時に、ヴィジュアルの強度において限界突破してゆく。

 

 

 

 

ライブ本番にアクシデント発生。

1弦が切れて2弦のペグも故障する、二重のトラブルで窮地に陥るが、

飲んだくれのお姉さんの酒瓶を使ったボトルネック奏法で乗り切る。

きらら系の、極端にキャラの魅力に依存しがちなフォーマットから、

最大限のドラマ性を引き出すステージングに、思わず歓声をあげた。





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テーマ : 4コマ漫画
ジャンル : アニメ・コミック

タグ: 萌え4コマ  きらら系コミック 

はまじあき『ぼっち・ざ・ろっく!』

 

 

ぼっち・ざ・ろっく!

 

作者:はまじあき

掲載誌:『まんがタイムきららMAX』(芳文社)2018年-

単行本:まんがタイムKRコミックス

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彼女たちは「結束バンド」。

拷問でも始まりそうな不穏なバンド名である。

 

本作は『きららMAX』連載の、JKバンドものの4コマ漫画。

第1巻は昨年3月に発売され、すでにかなりの人気を博してるらしい。

同ジャンルの『けいおん!』と比較しつつ、きららの現在と未来を占う。

 

 

 

 

4人組で印象的なキャラは、ベースの「山田リョウ」。

家が裕福なので小遣いは多いが、楽器を買いまくって常に金欠、

雑草を食べて空腹をしのごうとしたら死にかけた。

 

ぶっちゃけベースなんてのは、あってもなくてもいい楽器で、

逆に言うとベーシストをどう描くかが作品の個性だ。

凛として女らしい秋山澪との対比が鮮やか。

 

部室でダベる放課後ティータイムとちがい、彼女らの溜まり場はライブハウス。

テーブルの描写なんかもいちいち凝っている。

作者の妹・日笠希望も漫画家で、背景を手伝っているとか。

 

 

 

 

単行本おまけのカット。

主人公の「後藤ひとり」、通称「ぼっちちゃん」は重度のコミュ障で、

バイトをする羽目になったがどうしても行きたくなくて、

わざと風邪をひこうと氷風呂に入って凍死寸前となる。

それを母親は陰から見守る。

芳文社なのに竹書房的な不条理ギャグに接近している。

 

なおメンバーの名字はアジカンから取っている。

P-MODELから頂いた『けいおん!』へのオマージュだろう。

 

 

 

 

正直僕は、音楽を題材にした漫画が苦手だ。

いくら紙の上で名演奏を披露されても、脳内で音声が再生されないから。

しかし本作の狂気や暴力性が、ステージで爆発する瞬間を目撃したとき、

音楽漫画のあたらしい扉が開かれたのを認めざるを得なかった。

 

 

 

 

『けいおん!』に代表されるきらら諸作への直接的言及もある。

いわく「不自然なくらい女の子しか出てこない」

「特に何の事件もなく話が進む」

「社会に疲れた大人が見るアニメ」など。

自己言及のパラドックスに陥っている。

そしてアー写を撮るときは「きららジャンプ」をこころみる。

 

 

 

 

例のアレである。

マンネリズムのマンネリズムみたいなきらら諸作は、

それがマンネリだと受け手に意識させない論理で構築されており、

社会に疲れた僕たちを現実逃避させるのに一役買ってきた。

 

『ぼっち・ざ・ろっく!』はその方向性でさらに加速しつつ、

素粒子同士が衝突し、スリリングな高エネルギー反応が生まれている。





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テーマ : 漫画
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タツノコッソ『社畜さんと家出少女』

 

 

社畜さんと家出少女

 

作者:タツノコッソ

掲載誌:『まんがタイムきららMAX』(芳文社)2018年-

単行本:まんがタイムKRコミックス

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「人の世の住みにくさ」がテーマの4コマである。

辛い残業を終えた主人公「ナル」は家路を急ぐが、

満員電車の周囲からはカシュッカシュッと、

ストロング系チューハイの缶を開ける音が聞こえる。

 

みんな疲れているのだ。

 

 

 

 

ナルが早く帰りたかったのは、自宅マンションで美少女が待ってるから。

学校制服にエプロン姿の「ユキ」は、

家出してナルのところに身を寄せて2週間になる。

 

まるで初々しい新婚家庭みたいだ。

 

 

 

 

ふたりは、今日あった出来事についてとりとめもなく話したり、

一緒にキッチンでおつまみを作ったり、楽しい夜をすごすが、

それでもナルはストロングなチューハイを我慢できなかった。

社畜としての生活は、飲まなきゃやってられない。

 

以上が第1話の流れで、状況説明の巧みさが伝わったとおもう。

 

 

 

 

居候の身なので甲斐甲斐しく家事をこなすユキは、しっかり者。

オフではだらしないナルに小言をいうこともしばしば。

でも親とうまくいってない孤独感から、ときどき甘えてくる。

 

そんな家出少女のツンデレっぷりを愛でる作品でもある。

 

 

 

 

第4話はデート回。

「好きな相手の見慣れない服装にドキドキ」というお約束の展開は、

同居してる関係では難しいが、ひねりを利かせて印象的なシーンに。

 

 

 

 

ふたりの出会いや、ユキが抱える悩みについては、具体的に描かれない。

おそらくナルは、大学時代に家庭教師をやっており、

精神的に追い詰められた教え子のユキに同情し、

就職したら彼女のための居場所をつくると約束したらしい。

 

作風は『ゆゆ式』の影響が強いが、ざくりと心を抉る情緒性は、

それとは別のストロングなエモーションを提供している。





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テーマ : 4コマ漫画
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マウンテンプクイチ『球詠』6巻

 

 

球詠

 

作者:マウンテンプクイチ

掲載誌:『まんがタイムきららフォワード』(芳文社)2016年-

単行本:まんがタイムKRコミックス

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本巻で読者は「覚醒」を目撃する。

主人公ヨミのピッチングだけでなく、作者の表現力においても。

 

たとえば、高速で曲がって落ちる変化球の軌道が、

「くっ」という擬態語と重ね合わせられる。

 

 

 

 

このページでは、軌道が枠線の役割を果たしている。

右下のコマで描かれる軌道は、補助的に読者の視線を誘導する。

導くというより、首根っこをつかんで揺さぶるみたいに。

 

 

 

 

しかし、ヨミのピッチングがすごいってだけで話は終わらない。

捕球に絶対の自信をもつ珠姫が、一度後逸して振り逃げを許す。

それでも続く打席では、体で止めて1回4連続三振を成立させる。

 

「振り逃げ阻止」なんて地味なテーマが、本作ではクライマックスとなる。

 

 

 

 

最終回、先発の吉川に代わりエース中田が登板。

威力のある速球に新越ナインはビビる。

ただひとり希だけは、退屈そうに投球練習を眺めていたが。

 

中田の球筋はビデオで見て覚えてるし、前の打席で凡退したとき、

グラウンダー狙いの打撃哲学を捨てると決意した。

それが奏功するかは時の運なわけで、いまさら悩んでも仕方ない。

 

そんな希の超然たる天才ぶりをみごと表現している。

 

 

 

 

名勝負と呼ぶにふさわしい梁幽館戦は、完全燃焼感がある。

長期連載となり、来年春にはアニメも始まる本作だが、

これほど成功すると作者は想定してなかったろう。

完結時に振り返り、4-6巻がピークだったとしても僕は驚かない。

 

作者も梁幽館ナインに思い入れがあるらしく、単行本おまけイラストの、

白井と高代の二遊間コンビの仲睦まじい様子から、余熱が伝わってくる。





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