秋アニメOPを語る 『となりの吸血鬼さん』と『アニマエール!』

 

 

『となりの吸血鬼さん』は、400歳の美少女吸血鬼と、

おせっかいな女子高生の同居生活をえがくコメディだ。

 

「ソフィー」は吸血鬼だが温厚な性格で、けっして人間を襲わない。

血液はアマゾンで購入している。

 

 

 

 

本作はゴシック要素が薄い。

かわいい女の子がいっぱいで、絵面もぱっと華やか。

 

 

 

 

僕は基本的に吸血鬼ものが苦手だ。

血を吸うという行為が、どうも不衛生に感じられる。

そして露骨に性的すぎるとおもう。

 

しかし本作は、「少女同士のちょっと過剰なスキンシップ」がモチーフで、

吸血行為がむしろそこに埋没するのがおもしろい。

 

 

 

 

OPアニメーションは、コンセプトデザインの杉村苑美が担当。

本作のビジュアル面をリードしている様だ。

ちらちらと健康的なエロスをアピールする。

 

 

 

 

園田健太郎による楽曲はにぎやかで、いわゆる電波ソングに分類できそう。

感心するのは、ソフィー役をつとめる富田美憂の歌唱力。

電波ソングはある意味、声優が強引な譜割りをたどたどしく追う、

「歌わされてる感」が魅力だが、この人はさらっと歌いこなす。

役柄もぴったり。

堕天使や吸血鬼をやらせたら、右に出るものはない。

 

相方をつとめる篠原侑は、アイムエンタープライズ所属の若手声優。

本渡楓や千本木彩花のひとつ下で、嶺内ともみの同期。

若いふたりの掛け合いが中心なのに、安定した芝居に感じられるのは、

音響監督・明田川仁の力量が大きいとおもわれる。

 

Studio五組制作ということで、『きんいろモザイク』をなぞる雰囲気を出しつつ、

「日常/非日常」「明/暗」「友情エピソード/ギャグ」「若手声優/中堅声優」などの、

絶妙なバランスをたのしめる秀作となりそう。



 

 

 

 

『アニマエール!』はチアリーディングを題材とするアニメ。

制作はきらら系を得意とする動画工房で、ハズレはないだろうと期待させる。

 

OP曲はチアを模しており、掛け声が飛び交って元気いっぱい。

おもわず体がうごくアクティヴな曲だ。

 

 

 

 

主人公ではないが、チア経験者の「有馬ひづめ」が鍵となるキャラ。

優等生で、ふだんは無表情。

 

 

 

 

しかし演技がはじまった途端、人がかわった様なキラキラの笑顔をみせる。

チアにかける情熱がつたわり、グッとくる。

 

 

 

 

僕が好きなのはサビのはじめの部分。

カメラが奥に、つづいて横にうごくなかでとらえた、勢いよく跳ねるポニーテール。

熱い青春の一コマを象徴している。



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『殲滅のシンデレラ』 第12章「嵯峨野」


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 アヤは父と輸送防護車に乗り、京都市南西部にある桂駐屯地へきた。後方支援を主な役割とする、陸上自衛隊の施設だ。敷地内では迷彩戦闘服をきた隊員があわただしく行き交うが、さほど殺気立ってない。戦闘に参加する可能性が低いからか。

 司令部庁舎の三階へのぼり、駐屯地司令職務室にはいる。壁に日の丸と地図が貼られている。窓には赤いカーテンがかかる。駐屯地司令をつとめる一等陸佐が起立し、惣吾に敬礼する。

 ほかに紺色の戦闘服をきた二名がいた。海上保安庁に属する特殊警備隊、通称SSTだ。ふだん大阪の基地に配備された部隊で、京都での騒ぎにもっともはやく反応した。自衛隊法にもとづき、いまは防衛大臣の指揮下に組み入れられている。

 SST隊員は、アルミ製のブリーフケースをデスクに置く。アヤは仰天する。ノビチョクの噴霧器がはいっていたのと同型だ。

 青褪めるアヤに惣吾が尋ねる。

「このケースに見覚えがあるか」

「わ、私は」

「答えはイエスかノーだけでいい」

「あります」

「わかった。これは実物だが、除染ずみだ。安心しろ。いまから羽多野に尋問をおこなう。お前も同席してほしい」

「お父さん。私、どうしたら」

「いるだけでいい。自分からは一切発言するな。俺にまかせておけ」

 紫のスーツの羽多野が、自衛官につれられ職務室に入ってくる。体のうしろで両手首をバンドで拘束されている。アヤがいるのに気づき、くすりと笑う。駐屯地司令が空気を読み、自分のオフィスから出る。

 職務室にいるのはアヤ、惣吾、SST隊員二名、そして羽多野の五名。SST隊員はサブマシンガンMP5の銃口を、羽多野にむけている。

 惣吾がデスクをまわり、駐屯地司令の椅子に座る。羽多野にむかって言う。

「あらかじめ言っておく。裁判をうける権利は期待するな。SSTのふたりも承知している」

 ヘルメットをかぶる隊員二名は、まったく表情を変えない。集中している。異変を察知したら、まよわずトリガーにかけた人差指をひける。

 羽多野は何食わぬ顔で部屋を横切る。許可もえずに、来客用の革張りのソファに腰をおろす。後ろ手に縛られてるので窮屈そうだ。

 小馬鹿にした口調で、羽多野が言う。

「後援者に対し大層な仕打ちだな」

「お前みたいな」惣吾が答える。「チンピラを使ったのが、人生最大の過ちだ」

「まだ俺には利用価値がある。なにしろ情報をもっている」

「小娘たちに語った与太話のことか? 京都が核ミサイルで狙われてるとか」

「信じないのは勝手だが」

 惣吾が合図すると、SST隊員がソファの前のテーブルに一枚の紙をおく。カラー写真が印刷されている。さまざまな人種の男女十数名が、庭を背景に笑顔をみせる。

「ロン・メイシン。中国人。お前の妻だった女だ。イスラエルのソフトウェア開発会社、ゼペット・テクノロジーにいた」

「こんな写真があったんだな。ありがたくいただくよ」

「ゼペット社は四年前、フレンドリー社に買収された。先進的なAIを開発したらしい。つまりお前はワイズとつながっている」

「その程度の証拠で疑うのか」

「政治家のコネクションをなめるな。俺は中東に顔が利く。お前の金の出どころを完璧につかんだ」

 羽多野のまばたきが増える。神経質な仕草で、パーマをかけた髪をいじる。

 アヤは胃が重くなるのを感じる。

 自分は不用意に羽多野を信じたのではないか。口座に三十億円が振り込まれたのは確認した。アヤにとっては大金だ。

 しかし、羽多野の背後に巨大な組織がいるとしたら。フレンドリー社の時価総額は六千億ドル。ワイズの個人資産は七千億ドル。三十億円など吹けば飛ぶ数字だ。

 トワが、京都が灰燼に帰すのを未来予知したというのも、本当かどうか。トワは羽多野に忠実だった。嘘をつく動機がある。嘘でなくとも、そう自身に信じこませたかもしれない。

「いまから言うのは」惣吾が続ける。「サウジアラビア総合情報庁から聞いた話で、確証はない。ワイズ氏は、AIで大規模な相場操縦をおこなった。そのせいで政府機関の捜査対象となった。彼が大統領になったのは、資産を守るためらしい」

「出来のわるい陰謀論だな」

「株がらみでFBIなどの捜査をうけた事実は、すでに報道されている」

「あんたは信じるのか」

「最初は信じなかった。だがお前の動きもあわせて考えると、妙に説得力がある」

 羽多野が背もたれに後頭部をのせる。苦虫を噛み潰している。

「ネタはほかにもある。たとえば、あんたの女についてとか。ここでしゃべってもいいぞ」

 卑劣な脅迫だ。それでも惣吾は動揺をみせない。アヤはそっと惣吾の手をにぎる。

 羽多野は鼻を鳴らす。

 米軍を恐懼させるブラッディネイルが、いじらしい箱入り娘に変貌した。思春期の女は、たやすく洗脳できるが、移り気なのが玉に瑕だ。

 羽多野はテーブルの下にあった物体を蹴る。円形で直径は二十六センチ。92式対戦車地雷だ。

 SST隊員二名がそれをみて叫ぶ。

「あっ!」

 その隙に羽多野は立ち上がり、革張りのソファを地雷にむかい蹴倒す。起爆はしない。羽多野は倒れたソファに右足をのせ、職務室を睥睨する。

 羽多野は周到だった。この部屋で尋問されるのを見越し、反撃の手段を仕込んだ。地雷が、安全ピンが抜かれた待機状態かどうかはわからない。ハッタリかもしれない。

 アヤは父の手をにぎったまま硬直する。

 舞踏術をつかえば、父と自分が逃げるくらいは容易だ。逆に羽多野を守るため、SST隊員を無力化することもできる。

 決断しなければ。

 私が帰るべき場所は我が家か、それともシンデレラ城か。

 できれば父の味方をしたい。でも、羽多野がワイズの手先だったなんて真実なのか。あのまっすぐな瞳のアイドルたちさえ、騙されてたなんて。

 それとも全員、嘘をついてるのか。

「アヤ……こっち、こっちよ」

 職務室のなかでアヤひとりが、金髪の少女の存在に気づいた。アリスが赤いカーテンから顔をだし、アヤを手招きしている。




 嵯峨野の竹林の小径を、十名の女が二列をなして歩く。先導するのは京娘セブンだ。各人は待ち伏せ攻撃にそなえて距離をたもち、できるだけ目立たない様に移動する。

 ワイズをのせたブラックホークは、アヤの投げた手榴弾のせいで飛行不能となり、五キロと離れてない小倉山のふもとに不時着した。ソリストがとどめを刺すか、海兵隊が先に救出するかの競争だ。

 天を摩してそびえる竹のあいだを、涼風が駆け抜ける。おもわず瞑想にさそわれるが、最後尾にいるアヤの心は乱れている。

 駐屯地に置き去りにした父が気がかりだ。アリスに誘われて不思議なトンネルへはいるとき、背後から銃声が響いた。無事を祈ることしかできない。

 肩を落とすアヤを見上げ、アリスが言う。

「アヤ、元気ないみたい」

 得意の作り笑顔でアヤが答える。

「そんなことないよ。二度も助けてもらったのに、お礼を言ってなかったね。ありがとう」

「どういたしまして」

 アリスはスカートを持ち上げ、女の子の挨拶をする。続けて言う。

「つらいときは、お歌をうたうといいわ。私はいつもそうするの。それに日本の歌も知りたいし」

 アリスの目が好奇心で輝く。はやく歌えと無言でせがんでいる。奇想天外な世界に迷いこんでも平然としている、例のおしゃまなヒロインそのもの。

「あなたは本当に」アヤが言う。「あのアリスなのね」

「ええ、そうよ。コスプレじゃないわ」

「そんな言葉、よく知ってるね」

「二十一世紀の日本について、いっぱい学んだもの。コスプレってすてきな文化だわ。いろんなキャラクターになりきるなんて。アキハバラという町にも行ってみたいわね」

「私が案内するよ」

「うれしい!」

「でも、なぜアリスだけ具現化してるんだろう。ほかのシャドウはソリストに憑依するのに」

 かわいらしく首をかしげ、アリスが言う。

「さあ。ドジスン先生に聞かないと」

「あなただけモデルがいるからじゃない? 本名はアリス・リデルというんでしょ」

「私はアリス・リデルであって、アリス・リデルじゃない。つまりアリスよ」

「むつかしいな。ドジスン先生って、ルイス・キャロルのことだよね。彼と交流した記憶はある?」

「もちろん。とっても楽しい人」

「キャロルは少女愛者だと言われるけど」

 アリスが眉をひそめるのをみて、アヤは後悔する。下世話な関心から、つい七歳の少女に余計なことを聞いてしまった。

「よくそういう質問をされるわ」

「ごめんなさい。気にしないで」

「きっとみんな想像がたくましすぎるのね。二十一世紀の人は自由だから」

「そうかな」

「自転車にのる女の子をみたとき、私は腰が抜けるほどおどろいたわ」

「そりゃあ、ヴィクトリア朝時代とくらべたら」

「でもドジスン先生のご本は、ちっとも堅苦しくないの。そうおもわない?」

「たしかに。説教くさくない。なさすぎるくらい」

「ドジスン先生は、女の子を勇気づけたくて物語を書いたんじゃないかしら。おそらくアリス、つまりこの私は、先生が書いたプログラムなの。永遠に女の子を応援する使命を担った」

「プログラムって、コンピュータを動かすあれ?」

「ええ。論理学者であるドジスン先生が現代に生まれたら、優秀なプログラマになったでしょうね」

 アリスは誇らしげにウィンクする。そのつぶらな瞳は、とてもプログラムにみえない。




 ドーンッ!

 二列縦隊の先頭あたりで爆発がおきた。小径の両脇に設置したクレイモア指向性地雷を、海兵隊が同時に起爆した。京娘セブンのミナとヤエが直撃をうけて吹き飛ぶ。即死した。

 浅葱色の衣装のハルが、頭部を撃たれる。竹林のどこかに敵の狙撃兵が潜んでいる。小径の奥から、海兵隊一個小銃小隊がむかってくる。M16アサルトライフルを発砲する。

 アヤはアリスを抱きかかえ、垣根をこえる。落葉の積もった地面に伏せる。銃弾があたった竹が震える。まわりの竹が共鳴し、自然のオーケストラが鳴り響く。山吹色の衣装のエイコが腹這いになり、レミントンMSRで敵の狙撃兵と対峙する。

 アリスがアヤの腕からすり抜ける。立ち上がって叫ぶ。

「失礼しちゃう! 私はアヤとお散歩を楽しんでたのに。邪魔するのは、とってもいけないことだわ」

 子供らしい身軽さで、アリスはまた垣根をとびこえる。小径にあらわれた少女を、銃弾の嵐が襲う。アリスは両手を突き出し、小声でつぶやく。

 冷熱術【赤の女王】。

 海兵隊員が苦悶の叫びをあげる。M16を取り落とす。加熱された銃の金属部分が、焼けて赤く光る。

 アリスのサックスブルーのエプロンドレスに、ライフル弾が命中する。一瞬だけ、モザイク処理みたいにイメージが乱れる。アリスは胸を押さえてよろける。しかし鼻息を荒くして前進する。

 伏せていたアヤも立ち上がる。

 アリスは生身の体をもたないらしい。だからってダメージがないと断定できない。

 掩護しなくては。

 アヤは竹林のなかを突き進む。迂回されるのを恐れた海兵隊がM16を連射する。

 舞踏術【パ・ド・シャ】。

 猫の様にかろやかに、しづかに、アヤは疾走してゆく。海兵隊はその機動力に追いつけない。




 黒のセーラー服をきたイオリは、林を走りつづける。懸命にアヤを追ったが、はぐれてしまった。

 イオリはおのれの無力さを噛みしめる。たとえば相手の弾倉を暴発させるとか、念動術を戦闘に活かすこともできた。でもイオリは銃の構造をよく知らず、結局なにもできなかった。

 なんて情けないんだ、ボクは。女の子に守ってもらってばかりで。

 林をぬけ、イオリは河原にでる。京都市西部をながれる桂川だ。斜面で足がすべり、川のほとりまで転げ落ちる。

 息切れしたイオリは、立ち上がれない。足音がする。味方であるのを期待して見上げる。

 四名の海兵隊員だった。

 ズダダダダッ!

 兵士たちは後方から撃たれ、あっけなく斃れる。

 稜線ごしに、椿をあしらった紅の衣装があらわれる。リーダーの花澤カオリだ。中学一年生のサキの肩を抱いている。サキは腹部に被弾していた。

 力尽きたサキが崩れる。呼吸も止まっている。これ以上逃げるのは無理だ。

 膝をついたカオリは、素手で石だらけの地面を叩く。言葉にならない絶叫をあげる。

 涙をながし、イオリがつぶやく。

「カオリさん。ボク、なんて言ったら……」

 鬼気迫る形相で、カオリはイオリを睨む。しかし、すぐにイオリの同情の念をくみとり、苦労して微笑をうかべる。

 川面を指差し、カオリが答える。

「嘆き悲しんでる暇はないね。ちょうど岩場がある。あそこから向こう岸へわたろう」

 瀕死のサキを放置し、イオリとカオリは足場の悪さに苦しみつつ、桂川をわたりきる。

 カオリはHK416の弾倉を交換する。最後のひとつだ。目を細くして対岸を観察しながら言う。

「私はここにとどまって、敵を足止めする。迎撃するのに絶好の地形だから。イオリちゃんは、アヤちゃんと合流して」

「そんな。カオリさんも逃げましょう」

「ソリストを死なせるわけにいかない。絶対に。あなたたちは特別なの」

「いやです。ボクは……ボクは、カオリさんのファンだったんです」

「まさか、あなた『いおりん』? ツイッターで毎日リプを送ってくれてる?」

「名前を覚えてたんですね!」

「あたりまえだよ。いつもありがとう。こんなに可愛い女の子とは思いもよらなかった。ひょっとしてアイドル活動とかしてる?」

 数秒間の沈黙のあと、目を伏せてイオリが言う。

「実はボクは男なんです。いろいろあって、いまは女装してますけど」

 カオリはイオリをきつく抱擁する。ぶあつい衣装ごしに、ゆたかな胸のふくらみの感触がつたわる。これまで女に性的関心がなかったイオリだが、未経験の昂奮につつまれる。

「そんなの関係ない」カオリが言う。「男とか女とか。大事なのはハート。ファンのみんなが愛をくれるから、私たちは頑張れる。四十度の熱があっても、骨折しててもステージにたてる。そうせずにいられない。熱い気持ちがそこにあるから」

 対岸に十二名の海兵隊員があらわれる。二手に分かれ、片方は岩場をわたり、もう片方は胸まで水に漬かって渡河する。カオリは岩場をすすむ六名に対し、セミオートで発砲する。河水が兵士の血で濁る。

 振り返ってカオリが叫ぶ。

「はやく行きなさい!」

 カオリは全弾撃ち尽くしたHKを、河原に捨てる。ホルスターから拳銃のP226を抜き、セフティを外す。

 躊躇するイオリにむかい、さらに叫ぶ。

「いそいで! アヤちゃんには、あなたの助けが必要なの!」




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中山敦支/小高和剛『ギャンブラーズパレード』

 

 

ギャンブラーズパレード

 

作画:中山敦支

原作:小高和剛

掲載誌:『週刊少年マガジン』(講談社)2018年-

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中山敦支の新連載は、ゲーム畑の小高和剛による原作つき。

『アストラルエンジン』『オフサイドを教えて』は秀作だし、

中山は作画のみ担当の場合でも、いい仕事をする。

 

僕は完璧な作品リストをしらないけど、講談社の雑誌には初登場かな。

(いわゆるウェブコミックでは描いている)

 

 

 

 

テーマはギャンブルである。

主人公の「花梨」は、疫病神といわれるほどの不運体質で、

勝負事にまったく向かないが、高額の賭けにまきこまれる。

 

極限状況をえがくのが得意な中山にふさわしいテーマかもしれない。

花梨の心理描写など、迫力がみなぎる。

 

 

 

 

10万円の負けとなりかけた花梨に、救い主があらわれる。

クラス担任の「蜘蛛手(くもで) 渚」。

ギャンブルをはげしく憎み、ギャンブルによってギャンブラーの殲滅をはかる。

中山ファンなら『ねじまきカギュー』のカモ先生を思い出すだろう。

 

矛盾をかかえこんだ、この蜘蛛手の人物造形は、

死をもとめて戦う『うらたろう』の延長線上にある。

どうも『カギュー』以降の中山作品は、すっきりしない。

 

 

 

 

太く荒々しい描線が中山の特色だが、本作ではますます太い。

『オフサイドを教えて』で試みていた、ポップな画風を指向している。

 

気になる点をあげるなら、主人公のキャラや、画面全体の緊迫感のよわさ。

確信もって、主人公とならんで突っ走ってゆく快感がない。





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飴野『高嶺の花はウソツキです。』

 

 

高嶺の花はウソツキです。

 

作者:飴野

発行:一迅社 2018年

レーベル:百合姫コミックス

[ためし読みはこちら

 

 

 

「ギャルJK×清楚OL」の百合漫画だ。

左が17歳の「巡(めぐる)」、右が24歳の「雪帆」。

本来なら接点をもたないふたりだが、

電車で痴漢にあう雪帆を助けたのがきっかけで、親しくなる。

 

 

 

 

巡は外見こそギャルだが、性格は素直。

やさしく包容力のある雪帆に惚れこみ、仔犬みたいになつく。

雪帆にしても妹ができた様なもので、あれこれ相談にのる。

 

 

 

 

しかしある日、巡はラブホテルから出てきた雪帆をみかける。

相手はいかにもチャラそう。

ヒマだったので、たまたまナンパしてきた男に体をゆるした。

 

 

 

 

いても立ってもいられず、巡は疑問を直接ぶつける。

雪帆さんはそんな人じゃないのにおかしいと。

それに対し雪帆は、不機嫌な暗い表情をみせる。

自分の清楚な外見や、やさしい言動は、すべて作り物だったとあかす。

あなたと遊んでやったのも、ただの暇つぶしだと。

 

 

 

 

だまされたと知った巡は怒り、動揺する。

でも幻滅すればするほど、自分がいかに雪帆に執着してるかに気づく。

もう引き返せない深みにまで。

本気で好きだから、こんなにつらいんだ。

 

 

 

 

作者は別名義でBL系の単行本をだしてるが、雑誌連載は本作がはじめて。

キラキラまぶしい正統的少女漫画風の絵柄は、百合姫ではやや異色かも。

自分の気持ちに正直な、巡のまっすぐなふるまいが印象的で、

どきどきしながらストーリー展開をたのしめる、1巻完結の名作となっている。





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『殲滅のシンデレラ』 第11章「油小路通」


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 アヤは京都駅にちかい下京区の、油小路通に面した旅館「眠れる森」へやってきた。市内の鉄道はすべて運行停止。自動車の通行もきびしく規制されている。たまにサイレンを鳴らしたパトカーが往来するだけで、繁華街なのに気味悪いほど静かだ。

 イオリと話し合い、アヤはもともと宿泊する予定の旅館にきた。いま潜伏地をもとめて動き回れば、かえって怪しまれる。女子高生を隠すなら、女子高生のなかだ。

 警察の捜索はさほど怖くない。治安当局はガタガタだった。行政機関をつかさどる総理大臣は死亡した。陰謀をめぐらす重鎮たちは雲隠れ。指揮系統は錯綜し、情報は共有されてない。

 アヤとイオリは、みごとな庭木をそなえた日本旅館にチェックインする。イオリはズボンに着替えてある。ロビーでイオリと別れたアヤは、ユウキと相部屋になる三階のドアをノックする。

 ユウキがドアをあける。いぶかしげに質問してくるが、アヤは無視して浴室へはいる。浴槽に冷水を張る。昨晩同様に高熱を発していた。服を脱ぐが、まともに指がうごかない。下着をつけたまま浴槽に倒れこむ。水は心臓を止まらせるほど冷たい。でも、こうしないと焼け死んでしまう。

 アヤが長いうめき声を漏らす。

「うぅ……ううぅ」

 浴室に飛びこんできたユウキが叫ぶ。

「おい! なにやってんだ!」

「こおり……」

「あぁ?」

「氷をもってきて……たくさん」

「どうしたんだよ、いったい」

「もうだめ」

 失神したアヤは冷水のなかで溺れる。




 バスローブを羽織ったアヤが、ベッドに仰向けに横たわる。額に濡れタオルをのせている。まだ熱っぽく頭痛もするが、ベッドサイドテーブルにある源氏物語を読みはじめる。じっとしてられない性格なのだ。ちょうど「若菜」の巻で、光源氏にいじめられた柏木が病に伏せるのがおかしかった。

 些細なパワハラで心を痛め、ころっと死んでしまうのだから、平安時代の男はずいぶん柔弱だ。

 ユウキが濡れタオルを交換する。ついでにアヤの読んでいる本を手にとり、パラパラめくる。汚物に触れたかの様にベッドへ投げつける。

 顔をしかめてユウキが叫ぶ。

「なんだこりゃ、古文じゃねえか!」

「ロビーに置いてあったから借りたの。暇つぶしになると思って」

「旅先でもお勉強か。どんだけ優等生なんだ」

「そうでもないわよ。普通に源氏が好きなだけ」

「全然普通じゃねえって」

 アヤは枕に頭を沈め、天井をみつめる。

 京都で源氏物語を読むのは至上のよろこびだけど、あまりゆっくりできなくて残念。

 ユウキが続ける。「具合はどうよ」

「だいぶよくなった」

「喉渇いてないか」

「大丈夫。ありがとう、介抱してくれて」

「こんなのあたりまえだろ」

 ユウキが事情を追求しないでくれるのが嬉しかった。騒動にアヤが関与していると、さすがのユウキも察してるはずだ。でもだからこそ、なにも聞かない。聞けばアヤを困難な立場へ追いやるから。

 性格がまるでちがうユウキと親友になれた理由を、アヤはわかった気がする。ユウキは心がひろく、なんでも受けいれられる。それは自分にない美点だ。

 隣のベッドに寝転んだユウキが尋ねる。

「で、水瀬とはうまくいったか?」

「うん。仲良くなれた」

「マジか! やるじゃん!」

「ユウキが想像する様な関係じゃないけどね。あくまでお友達よ」

 イオリがはたして「友達」の定義にあてはまるかどうか。まさか女装癖に触れる訳にいかないので、説明がむつかしい。

「いやいやいや。それはない。あたしには正直に言えよ」

「嘘なんてつかないわ」

 アヤはまた嘘をついた。

「あたしから見てもお似合いだとおもうぞ」

「恋人をつくる気はないの。いまは」

「家出するからか?」

「まあ、そうね」

「関係ないだろ。別にいますぐ家出するわけじゃないんだし」

 アヤは皮肉な微笑をうかべる。松濤の家には、もう二度と帰るつもりはない。ワイズを斃したら、このまま京都に定住する。

「本当にそういうんじゃないの。だいたいイオリの方が、私以上に恋愛に興味なさそう」

 がばと身をおこし、ユウキが叫ぶ。

「もう名前で呼んでんの!? ガードの堅いお前が!? 信じらんねえ!」

 アヤは手で口許をかくす。イオリには戦友としての気安さがあり、つい口がすべった。

「名前で呼んでるからって、別に」

「告白したのか?」

「だからちがうと言ってるでしょ」

「自分から告白しろよ。あいつボンヤリしてるから、こっちからアタックしないと。水瀬のこと、嫌いじゃないだろ?」

「嫌いじゃないから付き合うって、まちがってる」

「まちがってねえよ」

「恋人同士というのは、もっとこう、おたがいを高め合う様な……」

 ユウキの投げた枕が顔面に命中し、アヤの空疎な演説が中断された。

「お前はヘリクツばっかりだな!」

「うるさいなあ。隣室に迷惑よ」

「お前ってモテる様で、そうでもないだろ。男から告られたことあるか?」

「……ない」

「壁をつくるから、けっきょく男は逃げてく。あたしはブスだけど……」

「ユウキはブスじゃない。愛嬌のある顔だわ」

「フォローになってねえよ。まあいいや。あたしはこんな顔だけど、何度も告られたことあるぜ」

「すがすがしい自慢ね」

「だって恋愛って楽しいもん。幸せになれるし、気持ちよくなれる。すぐ飽きちゃうけどさ。そしたら次の相手を見つけりゃいいし」

「価値観のちがいを感じるわ」

「一生処女でいいのか?」

「そうは言ってない」

「なら水瀬に告白しろ。いま、ここで。内線電話であいつを呼び出してやる」

「余計なことはやめて」

 ユウキはベッドサイドテーブルの電話へ手をのばす。ちらりとアヤの反応を観察する。口を尖らせてるが、止めようとはしない。

 まったく、素直じゃないやつだ。

 トゥルルルル。

 着信音が鳴った。ユウキは受話器をとる。フロントからの電話だった。

 アヤの父親である佐倉惣吾が、フロントに来ているという。ロビーまで下りてこいと、惣吾はアヤにもとめている。




 庭園のみえるラウンジで、スーツ姿の惣吾がコーヒーを飲んでいた。制服に着替えたアヤは、むかいのソファに座る。

 安堵のため息をつき、惣吾が言う。

「とりあえず無事だったみたいだな」

「うん」

「四条駅で神経ガスが散布されたらしい。ちかづいてないか」

「大丈夫」

 勿論嘘だ。なにせアヤが実行犯の片割れだ。

「俺は陸自の輸送ヘリで京都にきた。桂駐屯地にとまっている。お前はそれに乗って東京へ帰れ」

「公私混同と批判されるよ」

「知ったことか。家族すら守れないで国防ができるか。お前がそんなことを気にするな」

「わかった」

 アヤは心にもない返事をした。自宅には帰らないと決めている。この場をやりすごせばいい。

「巻きこまれて怖かったろう」

「そりゃ、すこしは。お父さんこそ、よくきたね。わざわざ防衛大臣が乗りこむ必要はないんじゃない」

 あたりを見回し、惣吾が小声で言う。

「ここだけの話だが、官邸近辺がおかしくなってるんだ。閣僚の何人かが忽然と消えた。わけがわからん。首相とも連絡がとれない。しょうがないから、俺が現地で指揮することになった」

「貧乏くじだね」

「クウェートでの出来事をおもいだすよ」

「なにそれ」

「お前には言ってなかったか」

 ウェイトレスが、アヤの分のコーヒーをテーブルにおく。アヤは一口のむ。

 惣吾が続ける。「俺がむかし三菱商事に勤めてたのは知ってるな」

「うん」

「大学を出てすぐ、エネルギー関連の仕事でクウェートへ赴任した。そこである事件がおきた」

「ああ、イラクのクウェート侵攻」

「そうだ。イラク軍はたった一日で全土を制圧した。上司は逃げ出すし、大混乱さ。なぜか俺が、現地の日本人社会のまとめ役になった」

「いまと同じだね」

「あとで外務省から感謝されたよ。政界とのつながりもできた」

 惣吾はビールを注文する。酒癖が悪い父の飲酒にいい思い出はないが、アヤは不安をおぼえない。自分を心配し、助けに来てくれたのが嬉しかった。抱きついて甘えたい気持ちだった。あんなに父のことが嫌いだったのに。

「俺は」惣吾がつぶやく。「あのまま商社マンでいた方が幸せだったかもしれない」

「政治家は向いてない?」

「サラリーマン生活は気楽だった。がむしゃらに働くだけでよかった」

「うるさい野党やマスコミがいないもんね」

「ふふ。よくわかってるな」

 惣吾はグラスを空にし、二杯めを注文する。上機嫌で続ける。

「京都へ来るのはひさしぶりだ。前は家族旅行で毎年来てたのにな」

「最後に来たのは三年前だね」

「ああ、そうか。裕貴がオーストラリアに留学してから、家族で旅行してなかったな」

「お父さんも入閣して忙しくなったもんね」

「……アヤ、すまなかった」

「急にどうしたの」

「お前が家出を計画していたことについてだ。全面的に俺が悪い。それを謝りにきた」

 惣吾は両手をテーブルにつき、頭を下げる。頭頂部の髪が薄くなっており、年齢を感じる。

「やめてよ。お父さんらしくない」

「俺は短気な人間だ。自分でもわかってる。秘書にパワハラで訴えられたこともある。思いどおりにならないとカッとなるんだ」

「かもね」

「バカな秘書が怒鳴られて、転職するのはまだいい。本人のためだし、日本のためでもある。でも子供にそれをするのは間違いだ。逃げ場がないからだ」

「…………」

「お前みたいにマジメな娘が家出をかんがえるなんて、相当悩んだ結果だろう。相当苦しんだろう。本当に申しわけないことをした」

 惣吾は涙をうかべている。

 アヤは両手を握りしめる。黒い爪が手のひらへ食いこむ。

 やめてくれ。

 決心を鈍らせるのは、やめてくれ。

 いつもの様にアヤは嘘をつく。

「私は家出なんてしないよ。だまって資格取ったりしたのは事実だけど。羽多野さんが、あることないこと言っただけだよ」

「羽多野を永田町へちかづけたのも俺の責任だ。今回のテロはヤツが糸を引いてるらしい。あれほどの悪党とは夢にも思わなかった。俺に人を見る目がなかった。万死に値する罪だ」

「お父さん、私……」

「なにも言うな。若い娘をたぶらかしてテロをおこすなど、鬼畜の所業だ。刺し違えてでも、俺がヤツを止める」

 惣吾はまばたきせずにアヤをみつめる。

 すべて知ってるらしい。

 テーブルの下で、アヤの右手がそろばんの動きをしている。

 だれがバラしたんだ。

 羽多野自身はありえない。東山先生もちがう。

 ひとりだけいる。私のことを知っていて、それをお父さんに教える動機のある人間が。

「ユウキがしゃべったんだね」

「……お前に隠しごとはできないな」

「ひどい。親友なのに」

「善意でやったことだ。恨むのは筋違いだ」

 ユウキの考えはわかる。家族思いのユウキは、アヤの家出に反対していた。お節介にも、父娘の関係修復の役目を買って出たのだ。タイミングは新幹線で京都駅に着いたときか。

 ひょっとしたら、昨晩の記憶をうしなったというのも演技かもしれない。

 惣吾は二杯めのビールを飲み干す。いつもなら見苦しい酔態をみせるころだ。しかし今日はおだやかな微笑をたやさない。

「この先どうなるかわからんが、もし俺が無事だったら……」

「縁起でもないこと言わないで」

「ひとり暮らしをしていい。お前なら問題ないだろう。それもいい経験だ」

「別に私は」

「もうひとつ提案がある。アヤ、よければ俺の秘書にならないか」

「えっ」

「どちらかと言えば俺は世襲に反対だが、お前以上に後継者にふさわしい人間はいない」

「なに言ってるの。佐倉家の家訓では、女は跡継ぎになれない」

「くだらん!」

 酔った勢いで惣吾は叫んだ。アヤがウェイトレスに目配せすると、水のはいったグラスがはこばれる。

 グラスを傾け、惣吾が続ける。

「なにが家訓だ。優秀な人間が政治家になって悪いことがあるか」

「お母さんやおじいちゃんが反対するよ」

「どうしようもないやつらだ。俺は日本のために言ってるんだ。連中のことは心配しないでいい」

「でも、私が政治家になるなんて」

「お前は頭がいい。だれもが認めるだろう。だがそれだけじゃない。お前には品がある。俺みたいに感情的にならない。やはり血筋なのか」

「そんな。褒めすぎだよ」

「いや、裕貴がああいうボンクラだから、血筋では説明がつかんな。持って生まれたお前の長所だ」

 アヤの頬が濡れている。涙がとまらない。

 生まれてからずっと求めていたものを、いま手にいれた。

 父からの愛を。

 もはや京都への攻撃とか、ワイズ大統領の暗殺とか、どうでもよかった。そんなものはほかの人間にまかせればいい。

 私はこの愛情にこたえなきゃいけない。そうでなければ、この世に生をうけた意味がない。




 親子水入らずの会話を、轟音と震動が妨碍した。アヤが十一歳のとき経験した東日本大震災の、何倍もの揺れだ。人間をふくめた、ロビーのあらゆるものが転倒する。ソファに座っていたアヤと惣吾さえ、床に転がる。

 彼らは知る由もないが、アメリカ海軍の駆逐艦から発射された巡航ミサイルが、旅館の隣にある総合病院に命中した。核弾頭は搭載されてない。トマホークの平均誤差半径は十メートルだから、旅館に直撃しなかっただけ幸運だ。

 しばらく意識をうしなっていたアヤが、我に返る。ロビー周辺は非常ベルが鳴り響くが、アヤには聞こえない。内耳へのダメージで一時的な難聴となっていた。フロア全体が停電している。爆煙にとざされ、窓からの光もとぼしい。

 立ち上がり、アヤが叫ぶ。

「お父さん、どこ!? 大丈夫!?」

 返事はない。あっても聞こえない。朦朧とするなか、這って周囲を手探りする。だれもいない。

 エントランスから銃声がとどく。おそらく自動小銃の連射だ。かすかに聞き取れるだけだが。街路で銃撃戦がおきている。

 アヤはガラスの靴で絨毯を蹴り、油小路通へ飛びだす。新選組を脱退した伊東甲子太郎らが、一八六七年に内部抗争で粛清された舞台でもある。

 外へ出たアヤは、我が目を疑う。そこはイラクやシリアとみまがう戦場だった。五階建ての総合病院が崩壊し、さかんに炎上している。紅梅学院のおなじ学年の少女が、鄙びた通りをよろよろと歩く。アヤの眼前を左へとおりすぎる。片腕がない。迷彩戦闘服をきた海兵隊員たちが、M16の一斉射撃をあびせる。華奢な少女は、全身を穴だらけにして死んだ。ほかにも一般市民が虐殺されてゆく。特に制服の少女が狙われている。

 つまり、ターゲットはアヤだ。

 おなじみの兵員輸送車ハンヴィーが、交差点付近にとまっている。M2重機関銃の掃射がはじまる。引越し業者のトラックが、五十口径弾でエンジンを撃ち抜かれ、通りの右奥で燃え上がる。

 アヤは気配を感じて空を見上げる。輸送ヘリのブラックホークが旋回している。搭乗員がミニガンを散発的に発砲する。

 もはやアヤに抵抗する気はない。やるだけのことはやった。こんな戦争ごっこには付き合えない。

 やりたい人間がやればいい。

 アヤは両手をあげ、降伏の意思表示をする。一ブロックむこうにいる海兵隊員と目があう。二十歳くらいの白人だ。海兵隊員はM16の照準をさだめたまま近寄る。

 シュパッ!

 海兵隊員は、そばかすの残る頬を撃たれた。

「スナイパー!」

 ほかの兵士たちは口々に叫び、散開する。自動車や電信柱などを盾にして隠れる。しかし高所から放たれた銃弾は、手足や骨盤など、装備に守られてない部位を精確に射抜いてゆく。

 トラックからのぼる火焔のむこうから、色とりどりの着物をきた六人の女があらわれる。ミニスカートにしたステージ衣装だ。アヤはきょう、彼女たちを生で見たばかりだ。

 ご当地アイドルの京娘セブン。

 京娘セブンは全員、アサルトライフルのHK416を構えている。ステージ上とおなじく息のあった動きで、海兵隊員を圧倒する。

 最後尾にいた薄紫の衣装の少女は、肩に長い筒をのせている。最年少で一番小柄な、日高リサだ。まだ中学一年生。肩にあるのは防空ミサイルシステムのスティンガーだ。狙われてるのに気づいたブラックホークが、あわてて飛び去る。

 せまい路地から、海兵隊は一掃された。

 椿をあしらった赤い衣装の女が立ち止まる。リーダーの花澤カオリだ。HKを背中にまわし、アヤを抱きしめる。顔の大半を占める大きな瞳から、涙がこぼれる。人気絶頂のアイドルの泣く姿は、さすがに絵になる。

 震え声でカオリが言う。

「ありがとう」

「なに」アヤが尋ねる。「どういうこと」

「あなたが佐倉アヤさんよね。噂は聞いてる。ひとことお礼が言いたかったの」

「状況がつかめない」

「ごめんね。自己紹介してなかった。私は花澤カオリです」

「京娘セブンのリーダー。それは知ってる」

「私たちはデミ・ソリストなの。シャドウはつかえないけど、宝具の力で戦う。新幹線のトンネルを爆破したのは私」

 カオリは愛おしげにHKを撫でる。HKがぼうっと青白く発光する。尋常な武器ではなさそうだ。

 パルスプラザでのライブに、カオリは不在だった。破壊工作のため別行動してたなら、辻褄はあう。

「それでね」カオリが続ける。「東京の女の子が命懸けで頑張ってると知って、私うれしくて」

「あなたたちこそアイドルなのに、なぜこんな危険な真似を」

 向かいのマンションの玄関から、山吹色の衣装の女があらわれる。髪は毛先をたてたベリーショート。減音器をつけたスナイパーライフルのレミントンMSRを抱えている。

「紹介するね」カオリが言う。「メンバーの喜多村エイコ。百発百中の狙撃手なんだ」

 エイコが言う。「大袈裟だな」

「そんなことない。エイコちゃんはすごいよ」

「ただのチートさ。私は宝具に誓いをたてた。一発でも外したら、その場で命を絶つと」

 メンバーの六人は、カオリのうしろで横並びになる。それぞれ手をつなぎ、腕をくみ、肩を抱いている。みな表情がキラキラかがやく。

「私たちは全員」カオリが言う。「この町で生まれ育った。戦うのは当然なんだ。たとえ傷つき斃れるとしても」

 アヤは視線を逸らす。カオリのまっすぐな瞳がまぶしすぎる。絆の強さがうらやましい。

 学校ではつねにトップの成績で、数えきれないほどの習い事もこなしてきたアヤだが、そのすべてが個人種目だった。真剣に団体種目に打ちこんだ経験がない。

 カオリはアヤの両手を、自分の手で包む。はげます様に明るい口調で言う。

「桂駐屯地へ向かって。羽多野さんがそこにいる」

「なんで民間人が自衛隊の施設に」

「さあ。あの人のことだから、うまく取り入ったんでしょう。マリーン・ワンが不時着した場所をつかんだらしいよ」

 アヤはうつむき、おのれの手をみつめる。

 正規軍との交戦は自殺行為だ。上空から銃砲の雨が降り注ぐ戦場では、ソリストの力は役立たない。それになにより、父が望む自分になりたい。

 帰りたい。我が家へ。

「カオリさん、私はもう……」

「板挟み状態なのは知ってる。でもアヤちゃんは駐屯地へ行かなきゃいけない。お父さんもそう言ったでしょう」

「正直怖いんです」

「アヤちゃんは勇敢に戦った。ここで降りたとしても、だれもあなたを責められない。でも、どちらの道をゆくにしても、自分で切り開かなきゃ」

「いったいどうしたらいいのか」

「正解はないわ。私たち七人も、それぞれが心を引き裂かれてる。ただ、仲間を裏切れないという思いだけは、共通しているの」




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苑田 謙

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